5-6.残りは俺への処罰
不意に樫の梢が、動いた。土台となっている部分がうごめき、
「樫さま、ありがとう」
『うむ。ワシらは少し眠る。力を使い切ったゆえに。多少枯れるが、案ずるな』
樫はそれだけいうと、
「
事の経緯を見守っていただろうハナミが、木々を踏み、真面目なおもてで近付いてくる。
「迷惑をかけたな、ハナミ」
「
「……面目ない」
「それにしてもこの花はなんだい? これが
「ええ、と……違うのではないかと思います。本物は紫色ですし、形も異なっていますし」
喜びの感情と共に咲いた花に、それでも
「なんか意味があって咲いてんのかね、これさ」
「申し訳ありません、ハナミさま。わたしにもわからなくて」
花弁と花粉は、手や体に触れれば雪のごとく溶け消えてしまう。本物の
「ハナミ、一度、
周囲の様子をうかがっていた
「あいよ。
「はい、お願いします」
次の瞬間、胃が持ち上がるような感覚がした。
「
数秒もかからずに戻ってきたのだろう。みつやの嬉しそうな声が届く。
「ご無事で何よりです、
「すまない。俺のせいで莫大な被害を出してしまった」
「それなのですが……あちらをご覧に」
らんの神妙な声音に、
街並みの瓦や煉瓦は割れたままだ。だが、木造の建物、木でできた部分だけは――
「傷がない、だと?」
「は。謎の花びらと銀の花粉が降り注いだかと思えば、次第に元通りに」
「他に怪我人は」
「負傷者は多数おるのォ。ただ、建物に使われた木材だけは直ってきておる」
またたいた、と思うと、破損した箇所が綺麗に、たちどころに治っていく。
「
「え……?」
「形や色が違えど、何かを治癒する、という点では似通っていると思う。不完全な
「これが、
思わず呆けてしまう。不完全なものとはいえ、
「凄いじゃあないか、
「でも、どうして……?」
みつやの声に首を傾げた。なぜ、いきなり花を咲かせられるようになったのだろう。
(喜びを取り戻したから……?)
「
「
何かの
「……ふゆ
「
「君は俺のことを、おぞましいと思っているようだな」
「違いますわ。ご、誤解というもの。全て
「全ての声が聞こえていた。化け物だと、不気味だと」
「君のことは妹のように思っていた。だからこそわがままも、許した」
褐色の人差し指をふゆ
「
「お慈悲を……お慈悲を、
「今回の件については俺にも落ち度はある。……だが、これ以上君を
ひっ、とふゆ
「今ここに、土蜘蛛ふゆ
「いやぁぁぁぁっ!」
ふゆ音の体が跳ねた。その全身が黄土色の光に包まれたのち、真鶴たちの目の前で瞬時に縮んでいく。
残ったのは恐ろしいほど小さい、一匹の蜘蛛だった。
「……ふゆ
蜘蛛が素早く逃げていったのを見計らい、手を戻した加賀男が一人、うなずく。
「ハナミ、らん、
「処罰など……
「ってもね。この状態を、
「これは
「貴様ら!
「それとこれとは話が別だよ。けじめはきちんとつけなきゃいけない」
ハナミと
「申し訳ありません、あなたさま」
「何を、謝る」
「わたしがもっとはっきり、思いを告げられていたら。微笑みを浮かべられていたらと思うと……あなたさまにいらない不安をさせてしまったのは、わたしですから」
自分の不甲斐なさを言葉ににじませた
「君を信じられなかった俺が悪い。君とみつやとの仲を、その、色々言われて」
「わたしがお慕いするのは、あなたさまだけです」
「まだ……信じていただけませんか?」
「いや、違う。これは」
思い切ってたずねれば、今度は慌てた様子で手を振られてしまう始末だった。
「あなたさま?」
「照れてるんだよ、
「……」
ハナミの笑い声に
「そうなのですか?」
「……君の前では、格好つけていたかった」
観念したように呟く
「こがねとして君と出会い、君への思いが募ったんだ、
「ああ……何から話せばいいのかわからないくらい、君を、思っている」
「あなた、さま」
微かな笑みに、優しい視線に、
勝手に笑顔が浮かんでどうしようもない。とめどない喜びが全身を駆け巡る。
思い、思われる喜びと愛おしさ。花火のように心中で弾ける、嬉しいという気持ち――どれもが
「きーめた」
ふと、ハナミが喜色めいた笑みを浮かべて声を上げた。
「そうさのォ、
「同意。一番の罰となるだろう」
「ぼくにもわかるくらいの罰だね、それ」
面々の台詞の意味がわからず、
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