5-3.ヤマタノオロチ
「
「あーん? 当てられちゃいないよ、まだ、ね」
瓦と
「オレの娘が土蜘蛛の子飼いにやられてる。それに、ちっこい
「
チッ、と舌打ちするらんは、不機嫌極まりない顔を作った。
「
「
「
三人の長が、それぞれ疑問の視線を
「なあ、アンタがいてどうしてこうなったんだい」
「そのとおり。
「ええと……どこからお話しすれば」
純粋な問いに厳しい眼差し。どれから答えていいのか、少し悩む。
「実は」
「待って、
口を開いた
確かに今現在、蜘蛛は近寄ることなく後退している。だが、赤や黄色、青といったその瞳には明確な敵意があり、いつこちらに飛びかかってきてもおかしくはないだろう。
蜘蛛たちの姿を見たハナミが、鼻でせせら笑った。
「
「そこまで強くはないものだけど。なんで? ハナミさん」
「ここで蜘蛛を食い止めるのはアンタの仕事。その隙に、オレたちは
「はぁぁあ? それってぼくに囮になれっていうことだよね?」
「同意。たまにはいいことをいうな、
「どうせ短い命であろ。ここで
「勝手に短命にしないで!」
悲鳴を上げるみつやを無視し、ハナミは真鶴に対してにやりと笑む。
「アンタもそれでいいだろ? アンタからは清浄な気を感じるよ。少なくともオレたちはアンタの側にいりゃ、おかしくなることはなさそうだ」
「皆さまが
「わかったよ、わかりました! こうなった責任の一端はぼくにもあるからね」
肩をすくめて、みつやはスーツから五本の小刀を取り出す。
そのまま自身の周りを囲う形で、五角星を描くように地面へと全ての小刀を突き刺した。
「そんじゃ、坊や。任せたよ」
「
「え……ええ。みつやさん、ここはお願いします」
「一時間耐えられればいい方だからね! それまでに帰ってきて!」
ハナミに手を引かれ、大声を後ろに
「ちょいと失礼するよ」
「きゃっ」
蜘蛛は全て、みつやの方を睨んでいた。過ぎ去る
「さて、と。どうしてこうなったのか、話してくれるかい?」
「……わかりました」
横並びになった
ふゆ音が
停電が起き、みつやとの仲を誤解されたこと。
「なるほど……
「
らんの叱咤に、
「はい。らんさまの仰るとおりです。わたしのせいです」
「しっかし、
「でも、聞く耳を持たなかった
左右に、直線に。そしてまた左右にと、複雑な道を迷わず駆けていくハナミたち。
城下町は蜘蛛でいっぱいだ。そのほとんどが今来た道、すなわちみつやの方を睨みつけている。囮として置いてきてしまったことを、
辺りの家屋はぐちゃぐちゃになり、瓦礫の山が散乱している。人の形をしたものはほとんどおらず、大半が蜘蛛に変わっていた。
相変わらず不気味な赤い月が周囲を照らす中、
「我をなくしたとはいえ、ここまでの異常は今までにないぞ。
「もしかしたらあの女、土蜘蛛が何かまた、しでかしたのかもしれないね」
「
三人の会話を聞き、胸が痛くなる。
(
それでも、と帯を支える腕に力を込めた。
(わたしは早く、あなたさまの顔が見たいのです)
逃げないと決めたのだ。全てを受け入れ、
「おっ、城が見えた。ちょっくら跳ぶよ、
「はい……!」
まずはらんが先んじて。次いで、
高い。浮遊感と少しの衝撃。それでも
「ほいっとね」
ハナミたちが着地したのは、天守閣の
ハナミは存外優しい所作で、
「ありがとうございます、ハナミさま。運んで下さって」
「ツキミが礼になってる礼さ。さて」
「……中からの
「ぬしも感じるか、犬神。とすれば、
「あの女は、御殿ではなく天守閣で暮らしている。やはり、共にいると考えるのが自然」
「
らんの言葉に、つきんと胸へ棘が刺さった感覚を覚えた。思いを知った今、ふゆ
「なんにせよ中を見りゃいいだろうさ。壁をぶっ壊すよ!」
と、ハナミが棍棒を構えた直後だった。
「ひいッ!」
悲鳴を上げて
「ふゆ
「アンタッ、なんて
「あ、ああっ……
「
「お、お前……なぜ、ここにっ」
泣き出しそうな顔で、それでもふゆ
「話はあと。何をしたのだ、
「それ、は……」
悔しそうに、悲しそうに、ふゆ
「いかん、みな、一度退避せよ!」
らんもハナミも、そしてふゆ
直後、天守閣の屋根が、破砕音と共に壊される。
「くっ」
「この気は、よもや」
「……
もうもうと立ちこめる白煙の中、真鶴は見た。
巨大な――それこそ一つ
「ヤマタノオロチ……」
汗の玉を浮かばせつつ、らんが呟く。
その声音に気付いたのかどうか。ただ、宙に浮いた
オロチの瞳の中にこもるのは、絶望と、怒り。そして。
(泣いてらっしゃるのですか、
深い、強い悲しみがあることを悟った
だが――手が動かない。足も、爪先の一つすら動かせなかった。
声の一つすら出せずにいる面々の前で、城を完全に破壊した
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