第4話 新しい旅

 そうしてまた、朝がやって来る。

 砦の一室で目覚めた勇者たちは、セラがすでに去ったことを知った。

 偽りの追放はセラピー師の覚醒を促したが、彼女が戦闘で役に立てない事態に変わりはない。

 アレクたちはセラに内心で謝罪と、二度と会えないであろう別れと、最後の夜のトンデモ経験の微妙な感想を胸に魔族の領域へと旅立った。魔王を殺し、人族の未来を勝ち取るために。







 ……で、ものの3日くらいで帰ってきた。


「勇者様!? お早いお帰りですが、忘れ物ですか?」


 砦の兵士が驚いている。

 しかしアレクたちは忘れ物を取りに戻ったわけではなかった。


「いいや。しっかり魔王を討伐したよ」


 さらりと言われた事実に、砦は騒然となる。


「ありえないでしょう! 3日ですよ、3日!」


「いやなんか、すっごい体の調子が良くてめちゃくちゃ飛ばして走っても疲れないし」


「魔法はいつもの100倍くらいの威力が出るし」


「敵の攻撃もちっとも痛くなくて」


 勇者一行は口々に言った。超弩級のバフがかかっていたのだ、と。


「セラがどこに行ったか分かるかい?」


 アレクはそわそわしながら兵士に聞いた。


「セラ殿ならまだ砦にいますよ。兵たちにセラピー? をしてくれて、皆元気になったのです」


「そっか、ありがと!」


 そうしてアレクは走っていった。今回の最大の功労者で、大事な人の元へ。







「セラ!!」


 セラの耳に、もう二度と聞けないと思っていた声が飛び込んでくる。

 砦の兵士にあらかた施術を終えて、旅立とうと建物を出た、その時に。


「アレク!?」


 振り返った彼女は、体ごと抱きしめられた。いつもそばにいたけれど、こんなに距離が近いのは初めて。


「なぜここに? あなたたちは、秘密の任務に出たと聞いていたのに」


「全部終わったよ。セラのおかげだ!」


「え? え?」


 戸惑うばかりのセラに、アレクは腕を緩めた。それから深く頭を下げる。


「ごめん、セラ。ひどいことを言って、きみを傷つけた。戦いから遠ざけるためだったとはいえ、セラを泣かせてしまった。

 本当にごめん。許してくれるまで、何でもするよ」


 セラは無言でアレクを眺めた。彼女は最初驚き、次に納得して、最後は……にっこりと笑った。分厚い雲間から太陽の光が差すような、明るい笑顔だった。


「それじゃあ、私の旅に付き合って。私、セラピー師の力で人助けがしたいの。

 戦争が終わっても、怪我の後遺症や心のトラウマで苦しむ人はいっぱいいる。その人たちの力になって、少しでも穏やかに暮らせるようにしたい。そのための旅をしようと思っていたの。

 アレクが来てくれたら、とても心強いな。……どう?」


「もちろん!」


 アレクは即答した。早速セラの手を取って、道を歩み始める。


「こらー! アレク! 戦後処理とかどうするのよー!」


「英雄たる勇者殿が不在など、格好がつきませんよー!」


 背後で、クリスティーナとトーマが叫んでいる。


「悪い! 2人に全部任せるから、後はよろしくー!」


 アレクとセラは明るく笑って、走り出した。

 背後で起きたブーイングは、やがて祝福へと調子を変えて、若者たちの背中を押してくれた。







 こうして彼らは、再び旅に出た。戦いではなく、日常を取り戻す旅に。2人の関係をやり直す旅に。


 ――これは、追放セラピー師のやり直し旅。



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追放セラピー師のやり直し旅 灰猫さんきち @AshNeko

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