第11話 100億円の大豪邸を求めて

「結婚……? ちょっとご主人様! どういうことよ!?」




 夢花が怒りを爆発させているが、俺にもさっぱり状況がわからん。


 ついでに言うと、なぜ夢花が怒っているかもわからん。


 こないだ言ってた俺と結婚するって話、まさか本気じゃないだろうな?


「ふっふ~ん。メイドさんも、かなおいさんを狙っているみたいですね~。だけどもう遅いです~。金生さんは、『俺の専属になってください』。『俺には、あなたしかいないんだ』って、それはもう情熱的にわたしを口説いてきたんですから~」


 えっ?

 口説くってそういう?


 俺は弁護士としてのりつのり先生を、勧誘しただけのつもりだったのに。


 プロポーズと、誤解されてしまったのか?


 お茶を淹れてくれているアレクセイに、視線で助けを求めた。


 彼はあの場に居たからな。

 プロポーズなどではないと、証明してくれるはず。


 すると銀髪イケオジ執事から、冷たい視線が返ってきた。




「あれはプロポーズと思われても、仕方のない台詞でしたな。旦那様。ご自分の発言には、責任を持ってください」


 なんてこった。

 アレクセイは、味方じゃないのか?




「ほら~。アレクセイさんも~、ああ言ってるじゃないですか~。金生さんはもう、わたしのものなのです~」


「ふざけんじゃないわよ! ご主人様が、天然ボケかましただけじゃない! 玉の輿こし……じゃなかった、ご主人様は渡さないわよ!」


 夢花は自分の欲望に忠実だな。

 ここまでくると、清々しい。




「あー。律矢先生?」


「わたしのことは~、のりタンと呼んでくださ~い」


「のりタン先生、申し訳ありませんでした。俺が誤解を招くような言い方をしてしまって……」


「ええ~!? プロポーズじゃなかったと~!? 結婚しないとおっしゃるんですか~!?」


「のりタン先生は、とても魅力的な女性だと思います。だけど俺には、結婚なんてまだ考えられない」


 彼女達は、俺の経済力を買ってくれているんだろう。

 ブラックカード入手から2回レベルアップし、ログインボーナスのがくは毎日30億円に達した。


 だがこれは、かりそめの力。

 俺自身に、稼ぐ力があるわけじゃない。


 せめてこの金を元手に、自分で起こした事業や投資で人並みに稼げるようになりたい。

 誰かと結婚するのは、それからだ。




「へえ~。『まだ』、なんですね。いずれは結婚する可能性もあると」


 のりタン先生の眼鏡が光る。

 昼間、パワハラ弁護士軍団を言い負かした時と同じ雰囲気。

 敏腕弁護士モードだ。




「いいでしょう。わたしがこれから時間をかけて、その気にさせてみせます~」


「ご主人様は、あんたみたいなババア相手にしないわよ!」


「なあ~っ! ババアですってぇ~!?」


 のりタン先生と夢花は、つかみ合いのキャットファイトを始めてしまった。

 やめろ。下の階から苦情がくる。


 それと夢花、のりタン先生をババアとか言うんじゃない。

 俺は先生より、13歳も年上なんだぞ?

 流れ弾で傷付く。




「アレクセイ、2人を止めてくれ」


「御意」


 アレクセイは後ろから2人の襟を掴み、ひょいっと持ち上げてしまった。

 なんつう筋力。

 人間がまるで子猫だ。


 小学生サイズの先生はともかく、どこそこ出っ張ってる夢花はそれなりに重量がありそうだぞ?




「2人とも、この狭いアパートで暴れないでくれ」


「そう言えば金生さんは~、なんでアパート住まいなんですか~? 賃貸にしても~、もっと高級なマンションに住めそうじゃないですか~」


「そうよそうよ! そろそろ豪邸を買って、引越しなさいよ! 執事とメイドの持ち腐れじゃない!」


 なんで俺は、雇われメイドから家を買えと迫られているのか……。


 しかし、そろそろいいかもな。




 俺は無言で、ノートパソコンを開いた。

 予算無制限で購入したハイスペック機だけあって、爆速で起動してくれる。




「みんな、見てくれ。俺はこの屋敷を買って、住もうと思う」


 全員がモニターを覗き込んだ。


「うわ~! なんですか~! この大豪邸~! 敷地面積3000坪~!? お値段100億円~!?」


「いや……、そりゃ豪邸買えって言ったけどさ……。あれ……? このお屋敷ってまさか……」


 おっ、夢花は気づいたな。


 彼女の父アレクセイは、言葉を失っていた。




 ……まずかったかな?

 この家を購入することに対して、アレクセイは喜ぶか嫌がるかどっちかだろうと思ったんだ。


 彼が嫌がったら、別の家にするか?




 呆然とモニターを見つめるグレーの瞳から、涙がひとすじ流れ落ちた。

 ……泣くほど嫌か?


 「やめようか?」と、言い出そうとした時だ。




「旦那様……、ありがとうございます。あなたにお仕えできて、私は幸せです」


「アレクセイ……」


 彼が流しているのは、歓喜の涙だったみたいだ。


 よかった。

 俺の選択は、間違っていなかったらしい。






■□■□■□■□■□■□■□■□■






 翌日。


「はあ? クレジットカードなんかで、家を買えるわけないでしょ?」


 不動産屋は、小馬鹿にした口調で俺をあざ笑う。


 うーん。

 やっぱりダメだったか。


 クレジットカードで住宅が買えるケースは、限られるらしいからな。


 俺はのりタン先生をアドバイザーとして引き連れ、不動産屋を訪れていた。


 おっと。

 アパートから一緒に来たわけじゃないぜ。


 先生には、ちゃんとビジネスホテルに泊まってもらった。


 アパートに泊めろと騒いでいたけど、スイートルームを借りたら納得してくれた。


 火事で服とかの生活必需品も燃えてしまったので、買い直すよう現金も100万円ほど渡してある。




「普通のクレジットカードではありません。これでもダメですか?」


 財布からカードを取り出して、不動産屋に見せる。

 もうブラックカードじゃない。




「プラチナカードぉ? そんなんでお金持ち気取ってるわけぇ? せめてブラックカードぐらい、持ってきてくれないとね」


 俺と先生は、顔を見合わせた。


 これ、プラチナカードじゃないんだけどな。

 ブラックカードより、上級のカードだ。


 5日前のレベルアップで郵送されてきた、パラジウムカード。

 レアメタルである、パラジウムでできている。

 おかげでずっしりと重い。


 利用限度額は30億だから、100億の豪邸を購入するには足りないかなとは思っていたんだが。




「あんた、会社社長だって言ってたっけ? 社長だろうが所得証明書を出してくれないと、住宅ローンは組めないよ? 出せるの?」


 出せない。

 ……というか、出してもローンの審査に通るわけがない。


 なぜなら俺の設立したYouTuber事務所は、まだ全然収益を上げていないからだ。





 やむを得ないな。


 ちと派手だが、あの手段を使わせてもらおう。






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