第10話 やむを得ない事情から、俺は合法ロリ弁護士先生をお持ち帰りする

りつ! 本当に辞めるとはどういうことだ! あれぐらいの仕事量でを上げるなんて、根性がなさすぎるぞ!」


「律矢くんって、本当に恩知らずで無責任だよねぇ。引継ぎもまともに済んでいないじゃないか。こんな辞め方をするなんて、社会人失格だよ」


のりちゃん……ハァハァ。俺の気を引きたいからって、こんな真似はやめるんだ……ハァハァ。キミの弁護士キャリアに、傷がつくぞ……ハァハァ」




 こいつら……。

 先生を不当にこき使っておいて、好き勝手言いやがって。


 聞いたぞ?

 とんでもない薄給で働かせていたそうだな。

 セクハラまでしやがって。

 同情の余地なしだ。




 律矢法子先生はクルリと振り返り、強い口調で言い返した。

 いつもの間延びした口調じゃない。


「ちゃんと2週間前に、退職届を提出しました! 引き継ぎも、そちらが取り合ってくれなかったからできなかったんじゃありませんか! 引継書の束は机に置いてきたので、そちらをご確認ください!」


 眼鏡を光らせながら、ビシリと言い放つ律矢先生。

 うむ、カッコイイな。


 男性弁護士3人は、黙ってしまった。


 それを見た律矢先生はきびすを返し、再び俺の方へと近づいてくる。




「後悔するぞ!」


 パワハラ弁護士が、唾を飛ばしながら吐き捨てた。


 背中から投げつけられた呪いの言葉に、律矢先生の小柄な体が震える。




「後悔なんて、させませんよ」


 俺の言葉に、うつむき気味だった先生の顔が上がった。


 周りに居た弁護士達は、「誰だこのオッサン?」と言った表情で俺をにらんでくる。


 ……何度も事務所を訪ねたのに、憶えていないのか?

 司法試験に合格したエリートさん達にしては、お粗末な記憶力だな。

 それだけ俺のことなんざ、気にもかけていなかったということだろう。




かなおいさん……」


「お迎えに上がりましたよ。専属弁護士の律矢法子先生」


 アレクセイから教わった通り、先生の手を取ってエスコートする。

 誘導する先は、リムジンの後部座席だ。

 この日のために、リムジンハイヤーを手配しておいた。

 びっくりするぐらい車体が長くて、内装が豪華な車だ。


 弁護士3人は唖然とした表情で、後部座席に消えゆく律矢先生を見送った。




「金生さん……って、アンタ……」


 人を指差したり客をアンタ呼ばわりしたり、失礼極まりない弁護士さんだな。

 こんな奴らしか残ってないんじゃ、法律事務所の未来は暗いぜ。


「そうですよ。以前会社設立の相談でお伺いした、無職の金生です。律矢先生と2億円で専属契約をした、新しい雇い主でもあります」


 2億円発言に、3人の弁護士は絶句した。

 そりゃ、あの法律事務所が律矢先生に出していた給料とは、比べ物にならないがくだからな。


 ……いかん。

 つい漏らしてしまったが、契約金とか給料とかって個人情報だったか?

 1億追加で支払って、年俸2億はデマだったことにしてしまえ。




「それでは失礼いたします。無職から社長になって、忙しい身なものでね」


 リムジンに乗り込み、ドアを閉める。


 すぐに運転手さんが、車を発進させた。


 俺も先生も、法律事務所の方向を振り返ったりはしなかった。




「先生、お酒はいかがですか?」


「え~、ぴるですよ~。でもまあ~、いいですか~。祝杯を上げちゃいましょ~」


 先生のグラスに、シャンパンをそそぐ。


 1本150万円のルイ・ロデレールだ。


「俺達の未来に」


「乾杯です~」


 チン! と優雅な音を立ててグラスが鳴る。


 リムジンの中で飲む高級シャンパンは、極上の味だった。






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 しばらくお酒を飲みながら、俺と先生はリムジンパーティを楽しんだ。


 時間はあっという間に過ぎ、日が傾き始めている。


「もう、夕方です。先生のお宅まで、お送りしますね」


「え~、やだぁ~。今夜は帰りたくないの~」


「明日から、先生の事務所になる物件を探しに行く予定だったでしょう? 早く寝ないと、朝起きれませんよ?」


「じゃあ寝坊しないように~、金生さんが一緒に泊まって朝起こしてください~。それか金生さんに泊めてください~」


 若い女性の部屋に、泊まれるわけないだろ。

 俺の部屋も却下だ。

 片付いちゃいるが、ボロアパートだしな。


 俺は酔っ払ってちょっとおかしくなってる先生から、住んでるアパートの場所を聞き出した。


 それをインターホンで運転手に伝え、向かってもらう。




「いいじゃないですか~。どうせわたしたち~、一緒になるんだし~。もうお互い、大人なんだから~」


 ……?

 一緒になる?


 それじゃまるで、結婚するみたいに聞こえるじゃないか。


 仕事上のパートナーにはなるが、一緒にというのは妙な表現だな。


 まさかゆめやアレクセイみたいに、住み込みで働かせろなんて言うんじゃあるまいな?


 住み込み弁護士なんて、聞いたことがない。




 やがてリムジンは、先生宅の近くまできた。


 ……が、何か様子がおかしい。


 リムジンが停車してしまった。




「どうしたんですか?」


 インターホンで、運転手さんに尋ねてみた。


「これ以上は進めません。消防車が道を塞いでいます。どうやら火事のようです」


 窓を開けて車体前方を見れば、消防車が何台も停まっている。

 消防士さん達も、慌ただしく走り回っていた。




「な……なんだか~。嫌な予感がします~」


 先生は、酔いが醒めてしまったみたいだ。


 俺達はリムジンを降り、先生のアパートへと向かった。




「あは……あはあは……。ど~しましょ~?」




 やっぱりというかなんというか……。


 火事になったのは、先生の住んでいるアパートだった。

 幸い怪我人はいなかったが、建物は全焼。

 当然先生の部屋は、跡形もない。




 途方に暮れる先生を、俺はリムジンへと乗せた。


 こうなったら仕方ない。






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「それで、連れて帰ってきちゃったわけ? ご主人様、何考えてるの?」


 ウチのメイドが凄い剣幕だ。

 鼻息がかかりそうな距離から、夢花が俺をにらみつけてくる。


 



「いや、連れて帰ってきたとはいっても、泊めるわけじゃないぞ? 晩御飯を一緒に食べた後は、近所のビジネスホテルにでも泊まってもらってだな……」


「え~。わたし~金生さんの部屋に泊めてもらえると思って~、ついてきたんですけど~?」


 サラッと先生が、とんでもないことを言い出す。




「先生……。若い女性がひとり暮らしオッサンの部屋に泊まるなんて、色々問題でしょう?」


「問題ありませんよ~。わたし達~、結婚するんでしょ~? だったらお泊りぐらい、どうってことは……きゃ~っ!」


 先生は頬に手を当てもだえているが、「きゃ~!」はこっちの台詞だ。






 結婚だと?

 何がどうしてそんな話になった?





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