第4話 代償

数日後。


王宮の間。


「…その功績を讃え、王国大勲章並びに大宝冠突撃章を与えるものとする」


国王陛下はそう宣言し、私に勲章をかけた。

私は静かに頭を下げると、玉座の間を後にする。


「団長、王国史に並ぶ者なき武勲ですね」


隣を歩く副団長が、興奮した様子で話しかけてくる。

私は苦笑いを浮かべると、


「実感がわかないな。それに…」


もう団長ではないのだ。


ドラゴンから受けた傷は、最近開発されたポーションという魔道具のおかげですっかり良くなっていた。


しかし、限界を超えた代償は大きく、私は魔力を失ったのだ。

魔力回路に欠損が出た騎士は、除隊と相場が決まっている。


勲章を貰っても喜ぶ気分にはなれなかった。


私が自嘲気味に笑うと、副団長も察したのか、苦笑いを浮かべて見せた。


「第十五騎士団は各騎士団に振り分けられました」


副団長の言葉に頷く。


今回の戦争で、王国騎士団は大きく戦力を削られた。

私の騎士団でも犠牲者は出たのだ。


「気の良い奴らだったな」

「ええ、団長の元厳しく躾けられましたからね」


そう言って、2人で笑い合う。

中庭に出た私は空を見上げると、小さくため息をつくのだった。


王国騎士団を辞めた私に何が出来るのだろうか。

入隊してから16年、戦場を駆ける事しか知らないのだ。


そんな事を考えずにはいられなかった。


思わず長年の悪癖が出てしまう。


「団長、ここは王宮ですよ……」


そんな呆れたため息を聞き流しながら、魔道具で火をつける。


「もう来る事もない場所なんだ。最後くらい良いだろう?」


そう言って紫煙を燻らせる。


「団長はこれからどうなさるのですか?」


副団長の問いに、再び空を見上げると、小さく微笑んだ。


「年金暮らしで、生活に困る事はないだろうな」


だが魔力を失い、ただの人となった私に何が出来るというのか。


魔力さえあれば……いや、今更だな。


私は首を横に振ると、煙草を地面に投げ捨てた。

副団長が慌てて、その火を靴の底で踏み消す。


私はその光景を見て苦笑いを浮かべると、踵を返すのだった。

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