第3話

レプリカ

「これ、曼珠王室の秘宝の花瓶ではないですか!」

 花瓶を運んでいる少年にパティシエ船員が言うと

「ああ、レプリカだけどな」

と応じた。

「そうなんですか、本物と瓜二つですね」

「本物を見たことあるのか」

「はい、扶桑国の長者の家で」

「あれも複製品だ、うちで納品したんだ」

「長者は本物だと言ってますよ」


アバター

「扶桑国の昔話に九尾狐のアバターが王誑かす話があるそうですね」

 一休みしている少年にパティシエ船員が訊ねた。

「うん、もともと南方の話らしいけど曼珠国を経て扶桑国に伝わったらしいんだ」

「でも、登場人物の名前は扶桑国のものになってますよ」

「扶桑国化したんだよ、曼珠国のは曼珠風の名前になっているよ」


握手

「扶桑国の渡世人と和解したんだってな」

 扶桑国から戻って来たパティシエ船員に少年が聞いた。

「はい、固い握手交わし、今後は互いに協力することにしたんです」

「それはよかった」

「で、手始めに賭場からイカサマを追放することにしたんです」

「そうか」

「そして、俺たちの縄張りを増やすんです」

「……」


ビニールプール

 パティシエ船員が空き箱の内側に透明なものを貼り付けていた。

「何作ってるんだ?」

 少年が聞くと

「ビニールプールを作ってるんです、木槿国のお祭りで金魚すくいの露店を出そうと思って」

と答えた。

「いいねぇ」

 こう応じながら少年は、金魚すくいに興じる画員夫婦とそれを眺める生員の姿を思い浮かべた。


流しそうめん

「何やっているんだ」

 甲板で竹を縦割りにしているパティシエ船員に少年が訊ねた。

「夕飯に流しそうめんをしようと思って準備しているんです」

「あの扶桑国の夏の名物か」

「そうです。ちょうど長者から流しそうめんセット一式を貰ったので」

“また長者との勝負に勝ったな”少年は内心で思うのだった。


お下がり

「自分で稼げるようになって一番うれしかったのは何だと思いますか」

 夕食を運んで来たパティシエ船員が少年に言った。

「何だ?」

「お下がりの服を着なくてよくなったことですよ。新品の服を買って着たときは感激しました」

「俺も似たようなもんだよ」

と少年が言うと周囲にいた者たちも「俺も」「俺もだ」と同意するのだった。


遠くまで

「考えてみれば、俺たち、ずいぶん遠くまで来たんだなぁ」

 船長がしみじみした口調で言うと、一同は頷いた。

「そういえば、もう何年も故郷に帰っていませんね」

 船員の一人が言うと、

「そうだな、だが、特に帰りたいとは思わなくなったよ」

と船長が応じた。

「俺はこの地域が好きだな」

 少年が言うとパティシエ船員が

「ここは暮らしやすいですね」

と応じた。

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木槿国の物語・日常茶飯譚 高麗楼*鶏林書笈 @keirin_syokyu

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