Ⅳ 幸福は落日し、そして神を喰らう

<台本概要>

◆台本名◆

 フラグメント・ストーリーズ~アンドラアスタ×ファンタジア~ 第4弾

 『幸福は落日し、そして神を喰らう』


◆作品情報◆

 ジャンル:ファンタジー

 男女比 男:女:不問=2:2:0(総勢:4名)

 上演時間 40~45分


<アンドラアスタ×ファンタジアについて>

下記リンク先を参照ください

https://kakuyomu.jp/my/works/16817330661664200401/episodes/16817330661664224459


<登場人物>

 アレクセイ=ファルネリド・グローリア Alexei=Farnelid Gloria

  性別:男性、年齢:30歳(過去編)→38歳(現在)、

  台本表記:アレクセイ

   物語の主人公で、【機鋼きこう国家】エリミネンス=グローリア帝国

   第18代皇帝。

   無能であった先代皇帝の父を暗殺し若いながらも帝位ていいぎ、

   荘厳そうごんな独裁者であれど持ち前のカリスマ性により国民の人気は高い。

   〝ある使命〟によりアンドラスタ大陸全土に戦争の火種ひだねき、

   混乱をもたらした。   


 アナスタシア=セラム・グローリア Anastasia=Seraum Gloria

  性別:女性、享年:21歳、台本表記:アナスタシア

   アレクセイの妻で、エリミネンス=グローリア帝国皇后こうごう。故人。

   穏やかで心優しい女性で、夫のアレクセイとは政略結婚ではあったが、

   2人は相思相愛の関係であった。

   彼の心のり所であった彼女の死が、彼を狂わせ始める。


 ヴェルネルド=ドミトリー・グローリア Vernardo=Dmitri Gloria

  性別:男性、年齢:19歳、台本表記:ヴェルネルド

   アレクセイとアナスタシアの間に産まれた2番目の子で、エリミネンス

   =グローリア帝国の第二皇子であったが、長男の死により第一皇子へと

   昇格しょうかくされた。

   神を否定し覇道はどうを突き進める父親のアレクセイを嫌い、そして

   拒絶する。


 《令嬢(フロイライン)》 The Fräulein

  性別:女性、年齢:(見た目は20代前半)、台本表記:《令嬢》

   謎の組織【亡国機関ぼうこくきかん】に所属するなぞの女性で、アナスタシアとうり二つの

   容姿ようしと声をしている。

   相手をもてあそび、そして痛めつけることを何よりも好むサディストな

   性格せいかくをしている。別名、『神食かみくい』。


 マクスウェル・シルヴァーン Maxwell Sylvain

  性別:女性、年齢:(見た目は20代前半)、台本表記:マクスウェル

   【機神きしん】エリミネンスを信奉する宗教団体・帝国機神聖教会ていこくきしんせいきょうかい

   の枢機卿すうききょうを務める女性聖職者。

   物腰丁寧ものごしていねいな人物ではあり、常に温和おんわな笑みを浮かべているが、

   アレクセイから「獲物えものねらうヘビのように狡猾こうかつな人間」

   と拒絶されている。   


 【機神きしん】エリミネンス Eliminanse of Armored God

  グローリア王家と共に【機鋼きこう国家】エリミネンス=グローリア帝国を

  創設そうせつした神。伝承では機械仕掛けの姿をしていると言われている。


<用語説明>

アンドラスタ大陸

 地母神じぼしん・アンドラスタと子たる5柱の神によって創られた大陸。

 【魔導まどう国家】ロゼッタ大公国たいこうこく、【機鋼きこう国家】エリミネンス=グローリア

 帝国、【龍神りゅうじん国家】龍櫻國りゅうおうこく、【獣人じゅうじん国家】ユグドラシル誓約者同盟国せいやくしゃどうめいこく

 【天仕てんし国家】グラディス聖教国せいきょうこくの5つの大国と小さな国で形成されている。


五大国(ごたいこく)

 アンドラスタ大陸にある5つの大国を指し、他の国々と異なり大陸を創った

 地母神じぼしんの子たる神たちの恩恵おんけいを強く受けている。

 【魔導まどう国家】ロゼッタ大公国たいこうこく、【機鋼きこう国家】エリミネンス=グローリア

 帝国、【龍神りゅうじん国家】龍櫻國りゅうおうこく、【獣人じゅうじん国家】ユグドラシル誓約者同盟国せいやくしゃどうめいこく

 【天仕てんし国家】グラディス聖教国せいきょうこく五大国ごたいこくかぞえられている。


エリミネンス=グローリア帝国

 【機神きしん】エリミネンスとグローリア王家と共に創生そうせいされた『機械』と

 『軍事』の国で、通称【機鋼きこう国家】。

 軍事力については大陸で1,2位を争い、他の国と異なり魔法を使える者

 は存在せず、また厳しい気候から資源確保が難しいが科学技術などの文明が

 他国よりも進んでいる。

 しかし、資源確保が困難であることから慢性的まんせいてき貧困ひんこんが問題となっている。


<台本配役表テンプレート>

台本名:『幸福は落日し、そして神を喰らう』

URL

https://kakuyomu.jp/my/works/16817330661664200401/episodes/16817330661666362419


 アレクセイ=ファルネリド・グローリア:

 アナスタシア=セラム・グローリア/《令嬢》:

 ヴェルネルド=ドミトリー・グローリア:

 マクスウェル・シルヴァーン:


 男性帝国民:※ヴェルネルド役との兼ね役

 女性帝国民:※マクスウェル役との兼ね役

 帝国文官:※ヴェルネルド役との兼ね役


----------------キリトリ線----------------


※台詞検索にお役立てください。

☆:アレクセイ (♂)

〇:アナスタシア、《令嬢》 (♀)

△:ヴェルネルド、男性帝国民、帝国文官 (♂)

□:マクスウェル、女性帝国民 (♀)



<台本本編>

【アバンタイトル】

〇アナスタシアN:アンドラスタ大陸の北方ほっぽうに位置する大陸、【機鋼きこう国家】

         エリミネンス=グローリア帝国。

        【機神きしん】エリミネンスとグローリア王家によって創生そうせい

         された『機械きかい』と『軍事ぐんじ』の国。

         帝都ていと・ダルムシュタットでは軍事パレードがもよおされていた。

         軍楽隊ぐんがくたいによる戦意高揚せんいを目的とした音楽がかなでられると

         共に、一糸いっしみだれぬ隊列で進む兵士たち、

         それを後に追従ついじゅうする自律機械兵器オートマター魔導まどうアーマー。

         多くの国民たちが歓喜かんきと興奮でむかえ入れ、小さな帝国旗ていこくき

         振るっている。

         やがて終着点である帝国軍総司令部に到着すると、先程まで

         の騒然そうぜんとした空気が沈黙ちんもくへと変わる。

         エリミネンス=グローリア帝国、現皇帝・アレクセイ=

         ファルネリド・グローリアの登場によって


☆アレクセイ:此処ここつどいし、忠勇ちゅうゆうたる我が帝国の兵士よ!

       そして擁護ようごせし、親愛なる我が帝国民の諸君しょくん!!

       過日かじつ、帝国はアンドラスタ大陸全土にわたり宣戦布告せんせんふこく

       を行った。

       ――諸君しょくんらの懸念けねんについては重々じゅうじゅう理解している。

       不安になる者がいるだろう、疑念を持つ者がいるだろう。

       それは至極しごく当然の事である。

       しかし……我らの闘争とうそう侵略しんりゃくではない!

       我がグローリア王家と共に帝国を創生そうせいした

       【機神きしん】エリミネンスによる神託しんたくである!!


〇アナスタシアN:そう高らかに宣言せんげんするアレクセイの言葉に、大衆たいしゅうだけ

         ではなく兵士たちも騒然そうぜんとする。

         しかし、すぐに彼らは話を聞くために沈黙ちんもくへともどした。

 

☆アレクセイ:我がエリミネンス=グローリア帝国は高度の文明力を持つが、

       全体的な国力は決して高いとは言いがたい。

       資源確保は他国と比較ひかくしておとり、慢性的まんせいてき貧困ひんこんで国民の多く

       があえぎ苦しんでいる。

       ――だからこそ、【機神きしん】エリミネンスは御英断ごえいだんを下した!

       帝国を守るために!!

       ならばこそ、ならばこそ!

       私もこの国の皇帝こうていとして宣言せんげんしよう!!

       国民を! 兵士を!! 国を!!!

       は全てを守ろう! この国に新たな時代をもたらそう!!

       我ら帝国のたみこそが神に選ばれたしんたみである!!

       立ち上がれ! 我らはこの大陸の覇者はしゃとなるのだ!!


〇アナスタシアN:大衆たちは熱狂ねっきょうに包まれ、拍手喝采はくしゅかっさいあらしが起こる。

         そして口々くちぐちに「皇帝陛下こうていへいか万歳ばんざい!」「エリミネンス

         =グローリア帝国、万歳ばんざい!」の言葉がこだまする。

         アレクセイスの顔色は変わらず、荘厳そうごんでありながらもたみ

         導く独裁者の顔であったが、腹のうちは全く異なっていた。


☆アレクセイ:――神の御英断ごえいだん、か。

        実にくだらない……本当にき気がする……

        神と言う存在は身勝手みがってで、無慈悲むじひで……

       実にみにくいのだ……!!



〇アナスタシア:『幸福こうふく落日らくじつし、そしてかみらう』(※タイトルコール)



【シーン01】


〇アナスタシアN:演説を終えたアレクセイは兵士たちにねぎらいの言葉をかけ、

         司令部の外へと出る。

         多くの民衆みんしゅうたちが熱狂ねっきょうを持って彼を歓迎かんげいする。

         そして彼はみを浮かべ、大衆たいしゅうの元に訪れる。


☆アレクセイ:貴様きさまたちには苦労くろうをかけるな。


△男性帝国民:何をおっしゃいますか、皇帝陛下へいか

       我ら、帝国民は陛下へいかために、帝国のために、

       【機神きしん】様のためにあるのです!!


☆アレクセイ:……そうか。


〇アナスタシアN:最後の言葉に、アレクセイの心がむなしさにさいなまれる。

         そこに――


□女性帝国民:陛下へいか、我らの皇帝陛下へいか

       不躾ぶしつけなお願いである事は重々じゅうじゅう承知しょうちをしています!!


△男性帝国民:おまえ、一体何を――


□女性帝国民:この時だからこそ、この時だからこそお願い出来ない

       ことです!

        どうか、この子に陛下へいか祝福しゅくふくを与えてくださいませ!!


〇アナスタシアN:周りの空気が騒然そうぜん恐怖きょうふまる。

         男が女の肩をつかむ。


△男性帝国民:おまえ!

       自分が何を言っているのかわかっているのか!!


□女性帝国民:でも! でも!!

       自分の子の幸せを願うのは親として当たり前の事じゃない!!


〇アナスタシアN:周りにいた誰もが恐れていた――「この女は殺される」。

         女性も覚悟かくごしていた――「私は殺される」。

        「自分の子が何よりも幸せであって欲しい」という

         親のエゴ、ゆえ行為こうい


☆アレクセイ:そこまでにしておけ。


△男性帝国民:陛下へいか! お許しください!!

       妻は混乱しているのです! 代わりに私の命を――


☆アレクセイ:必要はない。


□女性帝国民:っつ!


☆アレクセイ:そう身構えずとも良い。

       の母よ、其方そなたの名をなんという?


□女性帝国民:おそれながらも、皇后陛下こうごうへいかと同じ名を両親より頂きました。

       アナスタシア、アナスタシア・イーズノックと申します。


☆アレクセイ:そうか……アナスタシア・イーズノックよ。

       其方そなたの子を抱かせてもらえないか?


□女性帝国民:えっ……?


☆アレクセイ:喜んで、祝福しゅくふくさずけよう。


□女性帝国民:よろしいのですか?!


☆アレクセイ:勿論もちろんだ。

       子は宝だ、我が帝国の未来に繁栄はんえいをもたらすたからだ。

       そして、全帝国民ぜんていこくみんの父たる皇帝こうていだ。

       この子だけではない、其方そなたもだ。


□女性帝国民:私もですか?


☆アレクセイ:そうだ、そして夫のお前もそうだ。

       いや、それだけじゃないここにつどった民、兵士

       もあまねの子供たちだ。

       守るべき存在だ、それが皇帝こうていとして果たす責務せきむである。

       さあ、子を抱かせてくれ。


□女性帝国民:ありがとうございます!


☆アレクセイ:どれ……ほう、これは可愛らしい顔をしているな。

       おおっ、そうか! 笑顔を浮かべるか……やつめ。


△男性帝国民:――皇帝陛下こうていへいか、ばんざーい!!


〇アナスタシアN:男性がそう言うと、周りも同じ言葉を唱える。

         母である女性は感動で泣き始めた。


☆アレクセイ:けがれた血に塗られし、この私を……

       お前は微笑ほほえみをかけてくれるのか……


〇アナスタシアN:誰にも聞こえないように小声で彼はそう言った。



【シーン02】


△ヴェルネルドN:時は昔へとさかのぼる。

         アンドラスタ大陸全土に戦火せんかが包まれるよりも

         数年前の記憶。


☆アレクセイ:笑ったぞ! 見たか、アナスタシア!!

       ヴィクトルが笑ったぞ!!


〇アナスタシア:ええっ、そうね。

        笑った顔が陛下へいかに本当にそっくりね。


☆アレクセイ:何を言う。

       この愛らしい顔は、其方そなたにそっくりだぞ。

       あぁ……実に良き王になるぞ。


〇アナスタシア:ふふっ、ヴィクトルも嬉しそう。

        お父様だってわかるのね。


☆アレクセイ:この子は其方そなたさずかったとうとき命だ。

       帝国をべ、さらなる栄光えいこうをもたらすだろう。

       ……しかし、出来るならばすこやかに、そして

       幸せに生きて欲しい。

       そのために、父と母はお前に祝福しゅくふくさずけよう。


〇アナスタシア:そうね、この子の幸せは私たちの幸せであるものね。


△ヴェルネルドN:すると、とびらをノックされ声が聞こえてくる。


□マクスウェル:皇帝陛下こうていへいか皇后陛下こうごうへいか

        枢機卿すうききょう、マクスウェルでございます。

        入室してもよろしいでしょうか?


☆アレクセイ:……入るが良い。(※不機嫌に)


□マクスウェル:ありがとうございます、失礼しつれいいたします。


△ヴェルネルドN:とびらが開き、ひとりの聖職者せいしょくしゃが入って来る。

         その者は男とも女とも、どちらにもとれる

         綺麗きれいな顔をしていた。

         アレクセイはこの人物を嫌悪けんおしていた。

         神を拒絶きょぜつする者に、その反対に神を信奉しんぽうする者。

         水と油の様に相性あいしょうが最悪なのは明白で、

         そして何もかも見えいた笑顔がアレクセイの神経

         を逆撫さかなでにした。


□マクスウェル:これは、これはヴィクトル皇子おうじではありませんか。

        皇子おうじ様が大変元気なのは、我らとしても喜ばしいことです。


〇アナスタシア:ありがとう、マクスウェル――


☆アレクセイ:(※被せる様に)マクスウェル、要件を言え、

       いそがしいのだ、早くしろ。


〇アナスタシア:陛下へいか、そんな言い方をしなくとも……


□マクスウェル:よろしいのです、皇后陛下こうごうへいか

        ――教皇猊下きょうおうげいかより言をあずかって参りました。

        ヴェルネルド=ドミトリー・グローリア親王陛下しんおうへいか

        誕生により【機神きしん】エリミネンスの神託しんたくに従い、

        一月ひとつき後に〝冬の神殿しんでん〟にて〝生誕祝福せいたんしゅくふく

        をたてまつる事が決定しました。


☆アレクセイ:あの忌々いまいましい儀式ぎしきか……


△ヴェルネルドN:アレクセイの言葉に、マクスウェルは非難ひなん

         眼差まなざしを向ける。

         それに気付かない訳もなく、彼は殺意さついめた

         眼差まなざしで返した。

         殺伐さつばつとした空気を周囲は感じ取り、アナスタシアは

         悲しそうな表情を浮かべ、執事しつじやメイドたちはあわ

         ふためいていた。

         すると――


〇アナスタシア:あぁ、泣かないで。

        大丈夫よ、ヴィクトル。

        そうね、怖かったのね。

        困ったわ、泣き止まないわ……あれなら……

        (※『キラキラ星』を歌いますが、ここは好みです。)


△ヴェルネルドN:泣き始めたヴィクトルを安心させるために、

         アナスタシアは子守歌を歌い始めた。 

         聴く者を安心させる、優しい歌声は空気を変えた。

       

□マクスウェル:ゴホン……おそれながらも陛下へいかが皇子であった時に、

        いえ歴代れきだい皇帝陛下こうていへいかがなされた、歴史ある由緒ゆいしょ

        正しき儀式ぎしきです。

        いくら陛下へいかと言えども、拒否きょひする事は出来ません。


☆アレクセイ:……そんなことは理解している。

       儀式ぎしきについてはりょうとした、早くれ。


□マクスウェル:では粛々しゅくしゅくと準備を進めてまいります。

        失礼しつれいしました。


△ヴェルネルドN:マクスウェルが部屋を出たのと同時に、アナスタシア

         の子守歌が終わる。

         ヴィクトルは安心したかのようにぐっすりと眠っていた。


〇アナスタシア:ふぅ、良かった……

        あなた、いくら何でもマクスウェルに対して――


☆アレクセイ:はあの者を好かん! ただの神の奴隷どれいではないか!!


〇アナスタシア:(※小声で)しっー! ヴィクトルが起きてしまいます!


☆アレクセイ:あっ……す、すまない。

       そうであったな……ヴィクトルもすまなかったな。

       ――ふっ、気持ちよさそうに寝ている。


△ヴェルネルドN:自身の子の寝顔を見て父親の顔へと戻り、

         慈愛じあいみを浮かべる。

         しかし、彼の心のうちではみょう胸騒むなさわぎがあった。

         あのマクスウェルという者が、枢機卿すうききょうの座についてから

         何か不吉ふきつな事が起こるのではないかという不安ふあん

         さいなまれる様になった。

         出来る事なら、この心配が杞憂きゆうに終わることを願う彼

         であったが、その予感が最悪な形でむかえることは知るよし

         も無かった――



【シーン03】


〇アナスタシアN:そして一月ひとつき後。〝生誕祝福せいたんしゅくふく〟の日。

         帝位請求権ていいせいきゅうけん筆頭者ひっとうしゃである長兄ちょうけいの誕生を祝福する

         歴史ある儀式ぎしき

         決まりとして皇帝こうてい皇后こうごう同伴どうはんは許されず、複数の護衛官ごえいかん

         と神官しんかんに守られながら帝都ていと郊外こうがいにある〝冬の神殿しんでん〟へ

         おさな皇子おうじ乳母うばと共に運ばれる。

         過去において一度も問題は起きなかった。

         今回もそうであったはずだった――



(間)



△帝国文官:皇帝陛下こうていへいか! 皇帝陛下こうていへいか!!


☆アレクセイ:どうした?


△帝国文官:ヴィクトル皇子おうじが! 皇子おうじが!!


☆アレクセイ:ヴィクトル……息子に何があったと言うのか?!


△帝国文官:神殿しんでんに向かう途中、雪崩なだれに巻き込まれて――


☆アレクセイ:なっ!!


〇アナスタシアN:神殿しんでんに向かっていたヴィクトル皇子おうじ一行いっこうは、

         向かっている最中に雪崩なだれに巻き込まれてしまった。

         雪崩なだれに巻き込まれなかった護衛官ごえいかん神官しんかんらによって

         救い出されるも、そのおさない体は氷のように冷えきって

         しまっていた。

         ――そして、二度と両親の前で、あの明るい笑顔を見せる

         ことはなかった。



【シーン04】


△ヴェルネルドN:長男・ヴィクトルが事故によって亡くなって数年後。

         次男のヴェルネルド=ドミトリー・グローリアが誕生

         した。

         けれども、ヴィクトルとは異なりヴェルネルドは泣いて

         ばかりであった。


☆アレクセイ:アナスタシア! アナスタシアはどこにいる!!

       ヴェルネルドが泣き止まないのだ!


〇アナスタシア:あらあら、ヴェルネルドは泣き虫さんね。

        そんなに大袈裟おおげさにならなくても大丈夫よ。


☆アレクセイ:しかし、私が抱くまでは落ち着いていたのだ。

       まるで私をおそれているのかようだ……


〇アナスタシア:そんなことはありませんよ。

        あなたはヴェルネルドの父なのです。

        きっと、お父上に元気な姿をお見せしたかったのですよ。


☆アレクセイ:そうか……なら、いいのだが……


〇アナスタシア:大丈夫、大丈夫です。

        もう……そんな悲しい顔をしないでください。

        私やヴェルネルドだけじゃないわ。

        天国にいるヴィクトルも悲しんでしまいますわ。


☆アレクセイ:アナスタシア……


〇アナスタシア:それに、最近は貴方あなたの笑ったを見ることも少なくなった。

        私、大好きなのよ、貴方あなた笑顔えがおを見るの。


☆アレクセイ:……すまなかった。

       そうだな、愛しのつまを心配させるなんておっととして失格しっかくだな。


〇アナスタシア:もう、そんな恥ずかしいことを言って……ほら、見て。

        ヴェルネルド、泣き疲れちゃったみたいね。

        すやすやと眠っているわ。


☆アレクセイ:あぁ、そうだな。

       今度こそ守らなければ……今度こそは……



【シーン05】


△ヴェルネルドN:しかし、悲劇ひげきは再び訪れた。

         最愛さいあいの妻、アナスタシア皇后こうごう崩御ぼうぎょ

         つまの死を受け入れる事が出来なかったアレクセイは、

         悲しみをおさえる代わりに、狂気きょうきとらわれるようになった。

         徐々じょじょ苛烈かれつ残虐ざんぎゃぐきわめていき、厳格げんかくながらも平和を

         愛する賢君けんくんからを唱える暴君ぼうくんへと変貌へんぼうしていった。

         そして、ある日の夜――。


〇令嬢:こんばんわ、皇帝陛下こうていへいか


☆アレクセイ:何者――っつ!


☆アレクセイM:どういうことだ……?

        なぜ、アナスタシアと同じ顔をしている?

        いや、顔だけじゃない声までも一緒だ……!


〇令嬢:うふふ、どうしました?

    私の顔に何かついていますか?


☆アレクセイM:違う……目の前の女は彼女ではない!

        彼女は……死んだのだ!!


☆アレクセイ:貴様、何者だ?

       たちの悪い幻覚げんかくならば今すぐ消えろ。


〇令嬢:幻覚げんかくじゃなければ?


☆アレクセイ:たたる、それだけだ。


〇令嬢:まあ、怖い。

    でも、本当に貴方あなたは私をれるのかしら?

    声、顔、髪型、髪の色、そして身体の形……全てが貴方あなたが愛した

    皇后陛下こうごうへいかと同じよ?


☆アレクセイ:そうか……ならば――


〇令嬢:えっ?


☆アレクセイ:――死ぬがいい。


□マクスウェルN:刹那せつな一瞬いっしゅん

         アレクセイは目に止まらぬ速度で軍刀ぐんとうサーベルを抜刀ばっとう

         そして、続けざまに目の前にいる女の首をねよう

         とするも――


☆アレクセイ:ほう……驚いたな。

       その華奢きゃしゃな身体で、けんを受け止めたか。


□マクスウェルN:女は禍々まがまがしい剣で、アレクセイのやいばを受け防いだ。

         その表情ひょうじょう余裕よゆうの笑みであった。


〇令嬢:こちらこそ驚きましたわ。

    まさか本当に首をねようとしたんですもの。


☆アレクセイ:そのつもりだったが?


〇令嬢:あははははは!

    王族おうぞく貴族きぞくという者は、戦士にもなれない臆病者おくびょうもの

    多いと聞いておりましたが……認識にんしきあらためなければいけないですね。


☆アレクセイ:…………。


〇令嬢:あら? あらあら、例え偽物にせものであっても愛したヒトをるのは怖い?

    可愛いヒトですね~


☆アレクセイ:黙れ!! これ以上……アナスタシアを、彼女を

      侮辱ぶじょくするなァ!!


〇令嬢:くっ……素晴らしい、素晴らしいわ!

    それでこそ人間という存在よ!!

    怒りを! 悲しみを! 激情をもっと私にぶつけて頂戴ちょうだい!!!


☆アレクセイ:っつ……力が増した……!

       予想以上の膂力りょりょくの持ち主だな。


〇令嬢:光栄です、皇帝陛下こうていへいか

    おめを頂けるとは望外ぼうがいの喜びですわ。


☆アレクセイ:ただ……まだ、甘いな。


〇令嬢:っつ!


☆アレクセイ:すきがある。


□マクスウェルN:女の顔から余裕から消える。

         一瞬にして、男が目の前にいたのだ。


〇令嬢M:また首を……ならば!


☆アレクセイ:甘いな、失敗したのなら違うところをねらう。


〇令嬢:ぐっ!


☆アレクセイ:勝負あり、だな。

       殺すのは後にすればいい、その剣がお前の手から離れれば

       十分だ。


〇令嬢:敗けましたわ、敗因はいいんは私の慢心まんしんですね。


☆アレクセイ:ほう? 顔にやいばを向けられながらも笑みを浮かべる

       余裕よゆうがあるのか。

       状況じょうきょうを理解出来ない馬鹿か、それともきもわっている

       のか……の兵ではないのが残念だ。

       ――せめてもののなさけだ、何か言い残す事はあるか?


〇令嬢:なら、ひとつお話を聞いていただけませんか?


☆アレクセイ:良かろう、許す。


〇令嬢:――手を結びませんか?


☆アレクセイ:なに?


〇令嬢:私と、ではありませんが我々と手を結んで頂けませんでしょうか?


☆アレクセイ:ふざけているのか?


〇令嬢:ふざけている訳ではありません。


□マクスウェルN:女の表情かおは先程と異なり、真面目な表情ものへとなっていた。

         そこには死の恐れはなく、まっすぐな眼差まなざしも相まって

         命乞いのちごいではないことを理解する。

         彼女は本気で言っているのだ。


☆アレクセイ:――面白い事を言う女だ、皇帝こうてい直々じぎじぎに頼み込んでくるとは。

       狂人きょうじん以外の何者でもない。


〇令嬢:この世に正気しょうきである者が果たして何人いるのでしょうか?


☆アレクセイ:ハッ! 減らず口を叩くか……興が乗った、話を聞こう。

       ただし、お前の見た目は不愉快ふゆかいだ。

       内容がくだらないものであれば、かす必要はない。


〇令嬢:ありがとうございます。


☆アレクセイ:しかして、手を結ぶ理由は如何いかにだ?


〇令嬢:――〝神々かみがみ消滅しょうめつ〟、すなわち〝神々の黄昏ラグナロクの発生〟です。


☆アレクセイ:ハッ! アハハハハハ!!

       これは傑作けっさくだ! お前は狂人きょうじんだ、本物の!!


〇令嬢:陛下へいかにとって悪い話ではありません。

    なぜなら……貴方あなたは神をにくんでいる。


☆アレクセイ:ここまで来ると笑えないぞ、本当に頭がおかしいのか?


〇令嬢:それは陛下へいかも一緒じゃありませんか?

    どうです? 交渉こうしょう返答へんとうは?


☆アレクセイ:たわけ、どこの世界に得体えたいの知れぬ者と手を結ぶやからがいるか。


〇令嬢:これはとんだ御無礼ごぶれいを……この度は陛下へいか御前ごぜん

    に拝謁はいえつさせていただ恐悦至極きょうえつしごく

    ひとまずは私の事は《令嬢フロイライン》とお呼びくださいませ。


☆アレクセイ:また面白い冗談を言う……それで、《令嬢フロイライン》。

       〝神々の黄昏ラグナロク〟というのは如何いかのようにしてやる?

       伝承でんしょう通りの方法でやるのか?


〇令嬢:それでは最終的に失敗に終わってしまうではありませんか。

    陛下へいかが私たちと手を組んで頂ければ、全てをお話をします。

    そして……ご子息しそくの死についても――



【シーン06】


△帝国文官:し、失礼します。

      サルーシャ・キアランスキー、陛下へいかめいにより此処ここに。


☆アレクセイ:来たか……こうべをあげよ。


△帝国文官:はい……それで陛下へいか御用ごようとはいったい――ひっ!


☆アレクセイ:貴様きさまがすべきことはただひとつ、の質問にだけ答えろ。


△帝国文官:は、はい! せめて命だけはご勘弁かんべんを!!


☆アレクセイ:貴様は、ヴィクトルの〝生誕祝福せいたんしゅくふく

       を統括とうかつ責任者であった。

       そのことに相違そういはないな?


△帝国文官:は、はい!


☆アレクセイ:続けて問う……なぜ、神殿しんでんへの経路けいろを変更したのを報告しなかった?


△帝国文官:どうしてそれを――ぐうっ!


☆アレクセイ:何故! 雪崩なだれ多発地域の〝白き茨ローズ・ホワイト〟に経路を変えた!!

       答えろ!!!


△帝国文官:ひい!!!

      ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!!

      そんなつもりはなかったんです、そんなつもりじゃ――ぐうっ!


☆アレクセイ:は貴様の泣き言を聞きに来たのではない!

       早く答えろ!!


△帝国文官:す、全てはシルヴァーン枢機卿すうききょう猊下げいかの命令だったんです!!


☆アレクセイ:枢機卿すうききょうの命令だと……どういうことだ?


△帝国文官:枢機卿すうききょう猊下げいかが直前になって突然の変更を言い渡されたのです!

      私は最初反対したのです!!

      〝白き茨ホワイト・ローズ〟は神殿への近道とはなりますが、皇子おうじ

      危険な目に遭ってしまうと!!

      しかし、枢機卿すうききょう猊下げいかは【機神きしん】様のご神託しんだくであると……

      そうとなると、私たちに拒否権はありません……


☆アレクセイ:……だとしても、何故、報告をしなかった?


△帝国文官:そ、それは……


☆アレクセイ:答えろ。



△帝国文官:……枢機卿すうききょう猊下げいかより陛下へいかへの報告は不要だ、と。


☆アレクセイ:貴様は――


△帝国文官:本当に申し訳ありません!!!


☆アレクセイ:……貴様に怒りをぶつけたことで皇子おうじが帰って来る訳では

       ないことはわかっている……わかっているんだ……

       ご苦労だった。こうべをあげよ。


△帝国文官:へい――


□マクスウェルN:サルーシャがあたまをあげた瞬間、アレクセイは

         彼の首をねた。

         鮮血せんけつが切断面から飛び散り、身体はわずかな痙攣けいれんをした

         後に動かなくなった。


△ヴェルネルド:な、なにをしていらっしゃるのですか……父上……


□マクスウェルN:ハッと我に返ったアレクセイは声がした方向

         へと目線を向ける。

         とびらの前で息子のヴェルネルドが立ち尽くし、

         彼の足元に刎ねられた首があった。


☆アレクセイ:ヴェルネルド……なぜ、貴様きさま此処ここに――


△ヴェルネルド:どうして……どうして殺したんだ!?


□マクスウェルN:ヴェルネルドは怒りの形相ぎょうそうを浮かべ、アレクセイに

         非難の眼差まなざしを向ける。

         物事を知るような年齢ねんれいになってから、ヴェルナルドは

         父を嫌った。

         母が死んでから、覇道はどうとなえる暴君ぼうくん

         へと突き進む父を認める訳にいかなかった。

         それは父が拒絶する聖職者せいしょくしゃたちの教えの賜物たまもの

         神を信奉しんぽうする息子に、神を否定する父

         ――まさに水と油の関係性。


☆アレクセイM:あぁ……その清廉せいれんで正しく、我がを否定する者よ。

        それはまさに正義を体現する勇者ゆうしゃのようだ。

        恐怖きょうふしのを否定するか……

        神の代行者だいこうしゃとして……しかし……


☆アレクセイ:何をしている、今すぐに出ていくんだ。


△ヴェルネルド:…………。


☆アレクセイ:聞こえなかったのか、今すぐここから出てい――


△ヴェルネルド:いい加減にしろ……


☆アレクセイ:なに?


△ヴェルネルド:いい加減にしろ!

        あんたはくるっている! きちがいだ!! 怪物かいぶつだ!!


☆アレクセイ:ヴェルナルド、落ち着くんだ。


△ヴェルネルド:母上を病死に見せかけて殺したのだろう?


☆アレクセイ:何を馬鹿なことを――


△ヴェルネルド:枢機卿すうききょう様の言う通りだ、やっぱりアンタは狂っているんだ!

        【機神きしん】様を否定するから神罰しんばつが下ったんだ!!


☆アレクセイM:やめろ……その名を出すな……!

        忌々しい者たちの名を口にするな……!

        やめてくれ……それ以上は言うな……        


△ヴェルネルド:アンタは……アンタは……!!


☆アレクセイM:やめろ……やめろ……


△ヴェルネルド:父親なんかじゃない!!


□マクスウェルN:その言葉で、アレクセイの頭の中が真っ白となる。

         気が付いていた時は、息子のヴェルネルドを抱いていた。

         息子の腰を右腕で抱き寄せながら、こめかみを左の手で

         押さえていた。

         ――やがて左手は噴き出る血で真っ赤に染まり、かたわらに

         血塗ちぬられた王笏おうしゃくが転がっていた。



【シーン07】


△ヴェルネルドN:場所は〝冬の神殿〟。

         マクスウェル・シルヴァーン枢機卿すうききょうはひとりで、

         神にいのりをささげていた。


□マクスウェル:――んっ? これは、これは皇帝陛下こうていへいか


☆アレクセイ:…………。


□マクスウェル:ふむっ……ここは神が御座おわす場です。

        陛下へいかの今の御姿おすがたはあまりめられたものではありません。

        せめて神聖しんせいなる場所を訪れるのなら、血が付いていない服で

        来て頂きたいものです。


☆アレクセイ:マクスウェル・シルヴァーン枢機卿すうききょう


□マクスウェル:なんでしょうか、陛下へいか


☆アレクセイ:お前は、グローリア王家に、エリミネンス=グローリア帝国

       に推服すいふくちかうか?


□マクスウェル:それはもちろんでございます。

        私は帝国機神聖教会ていこくきしんせいきょうかい枢機卿すうききょうであり、

        【機神きしん】エリミネンスの信奉者しんぽうしゃのひとりです。

        【機神きしん】を信じる事、これすなわち、帝国と王家への忠誠ちゅうせい

        と同義どうぎでございます。


☆アレクセイ:お前は神を見たことがあるのか?


□マクスウェル:いいえ……ですが、いると信じております。

        この大陸と帝国が証拠しょうこと言ってもいいでしょう。


☆アレクセイ:……神と言うのは、道化どうけを演じる事が得意なのか?


□マクスウェル:なんですって?


☆アレクセイ:が何も知らないと思ったのか?

       マクスウェル・シルヴァーン枢機卿すうききょう

       ……いや、【機神きしん】エリミネンスよ。


□マクスウェル:なっ!


☆アレクセイ:驚いたか? も驚いた!

       まさか始祖しそと共に帝国を築いた創生そうせいの神と相まみえるとはな。

       そして、なげかわしい事に……今はヒトの世を否定し、滅亡めつぼう

       を望んでいる。

       雪崩なだれに巻き込ませるために、事故をよそおいヴィクトルを殺した。

       微量の毒を混ぜた治療薬を飲ませ続ける事で、アナスタシア

       の病気を進行させる事で殺した。

       そして……そして、ヴェルネルドをそそのかし、を否定させること

       で殺した。


□マクスウェル:…………。


☆アレクセイ:そして最後に……何もかも失ったことに絶望し、まこと狂気きょうき

       にちたが大陸全土にわたる大戦争を起こし、帝国だけ

       じゃない……多くの人間を虐殺ぎゃくさつ選別せんべつする。

       選別せんべつされた者を奴隷どれいにし、再び神代しんだいへと巻き戻す

       ……それがお前の計画だろう?


□マクスウェル:(※拍手しながら)ご明察めいさつでございます、陛下へいか

         ……いや、アレクセイ。

           

☆アレクセイ:本性ほんしょうを表したか。


□マクスウェル:そこまで知っているのなら、特別に教えてやろう。 

        何も人間の世をほろぼそうとしているのは私だけではない!

        【聖女せいじょ】グラディス、【獣神じゅうしん】ユグドラシル

        は賛同している!!

        ただ……忌々いまいましい事に【女神】ロゼッタは拒否し、

        【神龍しんりゅう】リュウオウは中立に立っている。

        馬鹿な奴らだ……しかし、それでも良い。

        おまえら、人間らは多数決の原理を好む。

        5柱の内、3柱の神々は滅びを望んでいるんだ!!

        ――お前たちの繁栄はんえいと歴史は間違えた。

        ――お前たちは我々の道具でしか過ぎないのだ。

        これは修正しなければいけない、新しく創り直さない

        といけない。


☆アレクセイ:そのために今回の布石ふせきをはったか……そこまでして

       人類を許さないか。


□マクスウェル:その通りだ! 

        おまえたちは部品でしかないにも関わらず、わきまえずに

        我らの世界をけがす。

        この帝国はなにもかも失敗作!

        国も、民も、全てが失敗作!!

        廃棄物でもなんでもない、今すぐにでも亡きモノに

        すべきだ!!!


☆アレクセイ:ククッ……


□マクスウェル:何がおかしい?


☆アレクセイ:ククッ、アハハハハハ!!

       私は間違っていなかったのだ! 神は存在しない!

       神とはヒトの手によって創られた、所詮しょせん創造そうぞう産物さんぶつ

       に過ぎん。

       目の前にいるのは、ただのみにくい肉のかたまりでしかない。


□マクスウェル:…………はっ?


☆アレクセイ:人間を見下していながらも、ヒトの姿をしているのが滑稽こっけいだ。

       いや、ヒトと形容けいようするのも烏滸おこがましい

       ……ヒトモドキの分際ぶんざいでだ。


□マクスウェル:貴様あああああああああああ!!


☆アレクセイ:ほう……それがお前の姿すがたか、【機神きしん】エリミネンスよ。

       伝承でんしょうというのはどうも懐疑かいぎ的であったが、認識にんしきを改め

       なければならない。

       機械仕掛きかいじかけけの姿すがたというのは本当のようだな。


□マクスウェル(機神):貴様を生かす訳にはいかない。


☆アレクセイ:神の鉄槌てっついというわけか……なら、どうするのかね?


□マクスウェル(機神):簡単だ、貴様を我が傀儡かいわいへとする。

            物言わぬ機械にする。


☆アレクセイ:を操り人間とするか……なら、これはしょうがないな。

       ――拘束せよ、神域縛鎖カウンターシール・オブ・ゴッド開放リリース


□マクスウェル(機神):なっ! どうして、それを……ぐうっ!!

            どうして、神殺しの道具を持っているんだ!!


〇令嬢:私が陛下へいかに差し上げたのですよ、【機神きしん】エリミネンス。


□マクスウェル(機神):どうして、どうして……何故、生きているんだ!!

            おまえたち、一族は――


〇令嬢:ごきげんよう、と言っておきますわ。

    それとも、お久しぶりのほうがいいかしら?

    ――此度こたび陛下へいかと手を結びました。

    いわば、同志であります。

    あなた方を殺すために、ね。


□マクスウェル(機神):護国卿ロード・ガーディアン共は何をしている?!

            主の危機であるぞ! 助けに来い!!


〇令嬢:無駄ですよ、貴方の大事なペットたちは私たちのモノになりました。


□マクスウェル(機神):ぐっ……放せえ! はなせえええええ!!


〇令嬢:暴れないでくださいまし?

    陛下へいかからご要望がありましたの、貴方の力が欲しいって。

    エリミネンス、私の本当の名を知っているでしょ?


□マクスウェル(機神):わ、わかった! 私が誤っていた!!

            アレクセイ!! 望むのならお前の妻を――


☆アレクセイ:……ほう?


□マクスウェル(機神):な、なにを……


☆アレクセイ:神は完璧かんぺきなる存在だと聖職者せいしょくしゃたちはうそぶいているが

       ……お前は間違いをおかすのか?


□マクスウェル(機神):あっ……


☆アレクセイ:ヤツえ、令嬢フロイライン


〇令嬢:皇帝陛下こうていへいかおおせのままに。


□マクスウェル(機神):あぁ……あぁ……


〇令嬢:それではさようなら。

    久々の食事ですわ――【神食いゴット・イーター】、発動。


□マクスウェル(機神):いやだ……いやだああああああああああああ!!



【シーン08】


△ヴェルネルドN:パレードが終わり、アレクセイは自らの執務室しつむしつにいた。

         どこかくたびれた表情を浮かべ、亡き妻の写真を見て

         いた。


〇令嬢:お疲れさまでした、陛下へいか


☆アレクセイ:せめてとびらをノックするぐらいはしろ。


〇令嬢:何回もしましたけれど、何も反応がありませんもの。


☆アレクセイ:まったく……それで、盤上ばんじょうこまたちは

       お前の想い通りに進んでいるのか?


〇令嬢:ええっ、もちろんです。

    先のロゼッタ大公国たいこうこく領のアルザル=ロレーヌ防衛戦において

    【護国卿ロード・ガーディアン】の両名の消滅は嬉しい誤算ごさんです。

    そろそろ次の計画を進めるために、休戦協定きゅうせんきょうていをいつ出すのかを

    考えないといけません。


☆アレクセイ:それには、もう少し時間が必要だ。


〇令嬢:それは何故?


☆アレクセイ:パレードをしたばかりだ、国家の威信いしんに関わる。


〇令嬢:今のあなたの中に、この国の未来があるのですか?


☆アレクセイ:……くさっても皇帝こうていだ。

       この国を守る責務せきむがある、それに……


〇令嬢:それに?


☆アレクセイ:……彼女との約束だ。


〇令嬢:そうですね、あなた。


☆アレクセイ:――ふざけた真似まねをするようなら殺す。


〇令嬢:ふふっ、ごめんなさい。

    でも、そんなことを言いながら……貴方と身体をまぐわった時を

    忘れる事は出来ません。

    絶頂ぜっちょうを迎え果てた私に対して、何度も何度も獣のように求めて。

    まるで亡き奥様を重ねて――


☆アレクセイ:その口を閉じろ、これが最後だ。


〇令嬢:こわい、こわい。

    それじゃあ、私は退散たいさんしますわ。

    ――そういえば、ひとつ聞き忘れていました、皇帝陛下こうていへいか


☆アレクセイ:なんだ?



〇令嬢:私たちの子供――皇女こうじょ様はお元気ですか?


☆アレクセイ:……それは本心からの心配か?


〇令嬢:ええっ、もちろん。

    子の成長に関心がない親は親ではないですわ。


☆アレクセイ:お前が親を語るのか……反吐へどが出るな。


〇令嬢:ふふっ……あなたのその顔、ゾクゾクしてしまいますわ。

    最期まで楽しませてくださいね? それではごきげんよう。


☆アレクセイ:――ふん、やっといなくなったか。

       奴にとって、私の盤上ばんじょうこまのひとつであろう。

       ただ……最後まで貴様らの思い通りになると思うなよ……

       この戦争をもって、神々かみがみとらわれた旧時代きゅうじだいは終わる。

       必ず、同じ地にんでやろう。

       そして、我ら、ヒトの手による新たな時代を始めよう。

       人間は――っつ! あた、まが!! ぐあっ……!!


△ヴェルネルドN:強烈きょうれつな頭痛がおそかったのと同時に、ある記憶が

         彼の頭によぎる。

         あの日の夜を、息子を自らの手で殺してしまった

         あやまちの日を。

         動かなくなった息子を抱きかかえ、慟哭どうこくさけびをあげた

         罪の記憶を。


☆アレクセイ:はぁ……はぁ……わかっている、わかっているさ。

       私の最期はきっと悲惨なものであろう。

       生きているよりも、死んだ方がマシと感じるぐらいの苦痛や

       屈辱くつじょくを味わいながら死ぬのだろう。

       ――当然だ、どんな理由であれ、私は息子だけではない。

       国民を、兵士を、他の国の民……多くの人間の命を

       奪ってきたのだ。

       その報いは受けよう、自らはただの罪人だ。

       だが、ここまで来たのならば……私は解放するのだ……!!

       人間は、神々かみがみ傀儡かいらいではない!

       ――せいぜい、高みの見物を決めていろ。

       底知れぬ人間の悪意にふるえるがいい……!!


(END)

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フラグメント・ストーリーズ:アンドラスタ×ファンタジア 如月にがつ @nigatsu_kisaragi

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