Ⅲ キミシニタモウコトナカレ

<台本概要>

◆台本名◆

 フラグメント・ストーリーズ アンドラスタ×ファンタジア シリーズ 第3弾

 『キミシニタモウコトナカレ』


◆作品情報◆

 ジャンル:和風ファンタジー

 男女比 男:女:不問=3:3:0(総勢:6名)

 上演時間 50~55分


<アンドラアスタ×ファンタジアについて>

下記リンク先を参照ください

https://kakuyomu.jp/my/works/16817330661664200401/episodes/16817330661664224459


<登場人物>

祈里待 湊(いのりまち みなと)

 性別:男性、年齢:19歳、台本表記:祈里待

 本物語の主人公で、八大貴族はちだいきぞくのひとつ・八芭螺はばら家につかえている。

 義理堅ぎりがたく争いを好まない心優しい性格ではあるが、自分の大切な人

 が危機におちいった時は自己犠牲じこぎせいになりがちなところがある。

 主でもあり、幼馴染おさななじみである桔梗ききょうのことは皆の前では「おじょう」か「桔梗ききょう様」、

 二人の時は「桔梗ききょう」と呼んでいる。

 〝とある事件〟によって【椒圖しょうず】の継承者けいしょうしゃとなるのが、今回の話。


八芭螺 桔梗(はばら ききょう)

 性別:女性、年齢:18歳、台本表記:桔梗

 八大貴族はちだいきぞくのひとつ八芭螺はばら家の次女で、みなと幼馴染おさななじみ

 貴族であることにおごらず、誰に対しても丁寧ていねいで話す温厚おんこうで礼儀正しい性格、

 容姿端麗ようしたんれいそして品行方正ひんこうほうせいであることから龍櫻國民りゅうおうこくみんの人気が高い。

 ひそかにみなとのことを想っており、身分違いの恋は難しいことを理解しており、

 唯一ゆいいつ我儘わがままとして自分の側近そっきんとしてなるべく近くにいさせようとする。


竜宮豊玉之命(りゅうぐうとよたまのみこと)

 性別:女性、年齢:(見た目は20代後半)、台本表記:竜宮

 龍櫻國りゅうおうこく統治とうちする【将軍しょうぐん】(国王に相当)であり、護国卿ごこくきょうでもある

 【神龍しんりゅう】リュウオウの継承者けいしょうしゃ

 一人称が「わらわ」など古風な言葉遣いで話し、柔らかくも蠱惑こわく的な雰囲気ふんいき

 をまとった女性。

 先代【椒圖しょうず】の継承者けいしょうしゃである䅣儀すめらぎ 緋真ひさなとは親友の間柄あいだがらであった。


八芭螺 纏(はばら まとい)

 性別:女性、年齢:30歳、台本表記:纏

 八大貴族はちだいきぞく八芭螺はばら家の当主であり、【竜生九子りゅうせいきゅうし】の一柱であり、

 『煉獄れんごく』をつかさどる【狻猊さんげい】の継承者けいしょうしゃ

 豪放磊落ごうほうらいらく自由奔放じゆうほんぽう、我が道を性格せいかくで、将軍に対しても敬語

 を使わない。

 貴族にもかかわらず、作法さほう壊滅かいめつ的で周囲から「妹の桔梗ききょうの方が

 当主に相応ふさわしい」と言われているが本人は一切気にしていない。

 

㐂那屋敷 厳爾朗(きなやしき げんじろう)

 性別:男性、年齢:28歳、台本表記:㐂那屋敷

 八大貴族はちだいきぞく㐂那屋敷きなやしき家当主であり、【竜生九子りゅうせいきゅうし】の一柱であり、

 『闘争とうそう』をつかさどる【睚眦がいさい】の継承者けいしょうしゃ

 好戦こうせん的な性格せいかくで、言動も凶暴きょうぼうそのものである。

 戦う事を好み、特に強い相手との戦いを何よりも望んでいる。


壱宣瀬 秤(いちのせ はかり)

 性別:男性、年齢:29歳、台本表記:壱宣瀬

 八大貴族はちだいきぞく筆頭ひっとう壱宣瀬いちのせ家現当主であり、【竜生九子りゅうせいきゅうし】の一柱であり、

 『秩序ちつじょ』をつかどる【贔屓ひき】の継承者けいしょうしゃ

 非常に冷静沈着な性格の持ち主であり、【贔屓ひき】の継承者けいしょうしゃ

 に名をじない程の厳格げんかくで規則に厳しい。


䅣儀 緋真(すめらぎ ひさな)

 性別:女性、年齢:享年23歳、台本表記:䅣儀

 先代【椒圖しょうず】を務めていた女性で、【将軍】である竜宮りゅうぐうとは親友であった。

 護国卿ごこくきょうではあったが、継承する前から原因不明の難病にかかっており、

 継承後も病は治ることがなかったため、戦いに身を投じたこともあり

 病死してしまった。


<用語説明>

アンドラスタ大陸

 地母神じぼしん・アンドラスタと子たる5柱の神によって創られた大陸。

 【魔導まどう国家】ロゼッタ大公国たいこうこく、【機鋼きこう国家】エリミネンス=グローリア

 帝国、【龍神りゅうじん国家】龍櫻國りゅうおうこく、【獣人じゅうじん国家】ユグドラシル誓約者同盟国せいやくしゃどうめいこく

 【天仕てんし国家】グラディス聖教国せいきょうこくの5つの大国と小さな国で形成されている。


五大国(ごたいこく)

 アンドラスタ大陸にある5つの大国を指し、他の国々と異なり大陸を創った

 地母神じぼしんの子たる神たちの恩恵おんけいを強く受けている。

 【魔導まどう国家】ロゼッタ大公国たいこうこく、【機鋼きこう国家】エリミネンス=グローリア

 帝国、【龍神りゅうじん国家】龍櫻國りゅうおうこく、【獣人じゅうじん国家】ユグドラシル誓約者同盟国せいやくしゃどうめいこく

 【天仕てんし国家】グラディス聖教国せいきょうこく五大国ごたいこくかぞえられている。


龍櫻國(りゅうおうこく)

 【神龍しんりゅう】リュウオウを始祖しそとする北に位置する国であり、国民は

 龍と心を通わすことが出来る、通称【龍神りゅうじん国家】。

 一部の者はヒトと龍の間に産まれた半人半龍であり、特権階級を

 めている。

 また一年中咲き続ける【千年桜せんねんざくら】と呼ばれる桜の木が国中にある。


竜人(りゅうじん)

 龍櫻國りゅうおうこくの国民の中には龍と人間の間に産まれた者がおり、彼らの多くは

 国内で特権階級に位置する。

 半人半龍であるため、ヒト型の時は龍の要素としては頭に龍角が生えている。

 龍としての力は刀として具現化されており、それは各人によって形態

 は異なる。

 龍として力を発動する時は、継承した龍の名前と『龍令解放りゅうれいかいほう』と呼ばれる

 口上こうじょうを述べることで発動する。


八大貴族(はちだいきぞく)

 【神龍しんりゅう】リュウオウの子となる龍、【竜生九子りゅうせいきゅうし】の血を受け継いだ

 龍櫻國りゅうおうこくにおいて強大な権力を担う8つの貴族。

  【贔屓ひき】:『秩序』を司る龍で、壱宣瀬いちのせ家当主が継承者する。

  【螭吻ちふん】:『知恵』を司る龍で、弐廻堂にかいどう家当主が継承者する。

  【蒲牢ほろう】:『音楽』を司る龍で、参虹橋さんぐうばし家当主が継承者する。

  【狴犴へいかん】:『正義』を司る龍で、四雀梅しがらめ家当主が継承者する。

  【饕餮とうてつ】:『豊穣』を司る龍で、五穀寺ごこくじ家当主が継承者する。

  【𧈢𧏡はか】:『水界』を司る龍で、六坏むつき家当主が継承者する。

  【睚眦がいさい】:『闘争』を司る龍で、㐂那屋敷きなやしき家当主が継承者する。

  【狻猊さんげい】:『煉獄』を司る龍で、八芭螺はばら家当主が継承者する。


【椒圖(しょうず)】

 【神龍しんりゅう】リュウオウの最後の子であり、この龍の力を受け継ぐ者が

 【護国卿ごこくきょう】の役割を担う。

 特定の家の者が継承けいしょうする訳ではなく、【椒圖しょうず】に選ばれた者が継承けいしょうする。

 司る象徴は『封印ふういん』。


護国卿(ロード・ガーディアン/ごこくきょう)

 各国の創生神そうせいしん神託しんたくによる使命をまっとうする為に行きることを代償だいしょうに、

 特殊な能力や強靭きょうじんな肉体を授かり不老の身となり、ヒトによっては

 人間性が希薄きはくになっていく者もいる。

 あくまで使命を第一とするため味方の犠牲ぎせいいとわない苛烈かれつさから

 『神の傀儡人かいらいびと』と揶揄やゆされる。

 龍櫻國りゅうおうこくのみ【護国卿】を「ごこくきょう」と読む。


<配役表テンプレート>

台本名:『キミシニタモウナカレ』

URL

https://kakuyomu.jp/works/16817330661664200401/episodes/16817330661665825456


 祈里待 湊:

 八芭螺 桔梗/䅣儀 緋真:

 【将軍】竜宮豊玉之命:

 【狻猊】八芭螺 纏:

 【睚眦】㐂那屋敷 厳爾朗:

 【贔屓】壱宣瀬 秤:


----------------キリトリ線----------------


※台詞検索にお役立てください。

☆:祈里待 湊 (♂)

〇:八芭螺 桔梗、䅣儀 緋真 (♀)

△:【将軍】竜宮豊玉之命 (♀)

□:【狻猊】八芭螺 纏 (♀)

◇:【睚眦】㐂那屋敷 厳爾朗 (♂)

▽:【贔屓】壱宣瀬 秤 (♂)



<台本本編>

【アバンタイトル】△竜宮:『今よりは秋風あきかぜへさむく吹きなむを 如何いかにかひとながを寝む』


△竜宮:――緋真ひさな其方そなたがいなくなってしまったのが昨日の事のようじゃ。


△竜宮:時は無常むじょうにも進みくものだ……


△竜宮:理解しておる……このような情を抱いたとしても何も変わらぬ事を。


△竜宮:9回目の命日を迎えると、【椒圖しょうず】の新たな継承者けいしょうしゃが現れる。


△竜宮:見定みさだめよう、其方そなたが認めたあらたなる者を――

    このくにを治める将軍しょうぐんとして――


(間)


☆祈里待:ここは……


▽壱宣瀬N:祈里待いのりまち みなとは自分が見知らぬ場所にいることに気付いた。

      周囲に見える光景は咲き誇る千年桜せんねんざくら木々きぎと、何かの紋章もんしょう

      きざまれた石の灯篭とうろうが規則正しく配置されていた。


☆祈里待:神社? いや……なら、鳥居とりいはどこだ?

     それよりもどうやってここに……


〇䅣儀:こっちですよ。


☆祈里待:えっ?


〇䅣儀:こっちに来てください。


▽壱宣瀬N:声は女性だ、見知らぬ女性。

      それは優しい声だった、そしてなつかしさを覚える声だった。

      しかし、記憶が抜け落ちたのか思い出そうとするも思い出せない。

      みなとは声に導かれるまま、奥へと足を進めて行く。

      やがて、ある丘の上に辿たどり着いた。


〇䅣儀:こんばんわ、ここまでご苦労様です。


▽壱宣瀬N:綺麗きれいな女性だ。

      優しさがめられた笑顔に、華奢きゃしゃな身体つき。

      そして、名家めいけのお嬢様だと感じさせる優雅ゆうがさ。

     けれども、それにつかわしくない羽織はおりが彼の目についた。


☆祈里待:龍紋羽織りゅうもんはおり……!!

     それに、その紋章もんしょうは……失礼しつれいいたしました!

     護国卿ごこくきょう様の御前ごぜんにも関わらず、とんだ無礼ぶれいを!


〇䅣儀:あたまをあげてください。

    今は、貴方あなたと私の2人しかいません。

    ここにいるのは、同じくにたみです。

    身分と立場は不要――それに私は、貴方あなたとお話をしに来たんです。


☆祈里待:自分と、ですか……?


〇䅣儀:ええっ、そうですよ……今は祈里待いのりまち みなとでしたね。


☆祈里待:名前まで、どうし――


〇䅣儀:申し訳ありませんが、くわしくお話は出来ません。

    私たちには時間が残されていませんので……

    ――貴方あなた選択せんたくを私たちに聞かせてください。

    命を守るか、それとも――


▽壱宣瀬N:そう女性が言った瞬間しゅんかん、ガラスの様に世界全体にヒビ

      がはいり、れてしまう。

      れたその先は、そこが見えない暗闇くらやみの世界。


☆祈里待:ま、待ってくれ! まだ最後まで!!


▽壱宣瀬N:みなとあきらめきれずに、女性へと手をばしさけぶ。

      けれども彼は奈落ならくへと落ち続け、彼女との距離きょりが離れていく。

      最後に彼女はつぶやいた。


〇䅣儀:キミニシタモウコトナカレ


▽壱宣瀬N:不思議なことに、その言葉はみなとには鮮明せんめいに聞こえた。



【シーン01】


☆祈里待:待ってくれ!

     ……あれ? 夢、だったのか。

     それにしても、現実の事だった感じがするけど……

     あの女のヒト、何が言いたかったんだ?

     なにか伝えたかった感じだったけども……ん? かね

     ――やっべ! 寝坊ねぼうだあああ!!


(間)


☆祈里待:1121、1122、1123……


□纏:みなと、お前は実に八芭螺はばらのために良くくしている。


☆祈里待:1150、1151、1152……


□纏:だからこそ、俺は心苦しく感じている。


☆祈里待:1161、1162、1163……


□纏:さっ、あと200回! 追加だ!!


☆祈里待:ちょっとまてぇい!!


□纏:なんだ? 口ではない、身体を動かせ、動かせ。


☆祈里待:「なんだ?」じゃないでしょーが!

     100㎏の巨石きょせきを背負わせてスクワットさせるだけでも鬼畜きちくなのに!!


□纏:しょうがないだろう。

   稽古けいこ遅刻ちこくしたお前が悪い。


☆祈里待:それはスイマセンでした!

     でも、どうして200回追加されるんだ?!


□纏:それは俺の言葉に反応しないからだ。


☆祈里待:理不尽りふじんだあああああ!!


〇桔梗:うふふ、随分ずいぶん姉上あねうえにしごかれているのですね、みなと


☆祈里待:お、おじょう……


□纏:おはよう、桔梗ききょう! 良い朝だな!!


〇桔梗:おはようございます、姉上あねうえ

    朝餉あさげの時間になっても、お二人の姿すがたが見えないと思ったので様子を

    見に来たんですが……予想通りでした。

    もう! 姉上あねうえ、いいですか?

    みなと警邏隊けいらたいの一員であるのは承知しょうちしておりますが、

    私の護衛官ごえいかんなのです。

    そうやっていじめないでくださいませんか?


☆祈里待:お、おじょう……! ぐおっ!!


□纏:だってさ、どうする?


☆祈里待:だってさ、じゃないでしょーが!!

     てか、なんで重量が増しているんだぁ……!


□纏:俺が乗っているからな!


☆祈里待:ああっ! 納得の重さ!!

     ……あれ? まとい様、前より少し重くなりました?


□纏:よし、死ね。


☆祈里待:あああああああああああああ!!



【シーン02】


☆祈里待:あぁ……全身がいてぇ……マジで地獄じごくだった……


〇桔梗:姉上あねうえに対してあんなことを言ってしまったら、

    制裁せいさいを与えられるのはわかっていたでしょうに。

    みなとはいつも一言多すぎです。


☆祈里待:でもさ、桔梗ききょう


〇桔梗:えい!


☆祈里待:あいたぁ!? 湿布しっぷるときは優しく……


〇桔梗:……また、傷が増えている。


☆祈里待:えっ?


〇桔梗:傷が増えている、と言ったのです。


☆祈里待:もしかして背中の火傷やけどのことか?

     大丈夫、もう治っ――


〇桔梗:この間の火事の時ですか?


☆祈里待:……あぁ、まあな。

     子供が取り残されたって聞いてさ……それに

     火消し隊が到着するまでには手遅れになると思って、さ。

     って、そんな顔をするなって!

     俺なら大丈夫だいじょうぶだよ! ほら!!


〇桔梗:どれだけ心配しているかわかってる?!


☆祈里待:…………。


〇桔梗:貴方あなたは、私の大事な護衛官ごえいかんでもあり、大事な幼馴染おさななじみ!!

    今回はたまたま無事でいたからいいけど……

    本当に死んでしまったら、私……私……


☆祈里待:……ごめん。


〇桔梗:ちゃんと約束を守ってください!

    私の許可無しで死ぬことは許しません!!


☆祈里待:うん、わかった。


〇桔梗:……足りません。


☆祈里待:へっ?


〇桔梗:ちゃんとちかってください、言葉で!


☆祈里待:さっきのじゃダメなの?


〇桔梗:ダメです!!


☆祈里待:泣き虫のくせに、相変あいかわらずの頑固者がんこものだなぁ……わかった。

     どんなことがあっても、おじょう――桔梗ききょうもともどって来るから。


〇桔梗:よろしい!


☆祈里待M:良かった……なんとか、機嫌きげんを取り戻してくれたか……


□纏:ほ~う


☆祈里待:嫌な予感が……


□纏:随分ずいぶんとお熱い場面に出くわしてしまったな~


〇桔梗:姉上あねうえ!?


☆祈里待:最悪だ……


□纏:みなと~? 何か生意気なまいきなことを言っておったな~?


☆祈里待:えーっと、自分にはさっぱりで何の事だが……


□纏:「どんなことがあっても、おじょう――桔梗ききょうもともどって来るから」


☆祈里待:おーい! やめろー!!


□纏:なんだ? お前のマネをしただけだが?


☆祈里待:明らかにバカにしているだろ!!


〇桔梗:そ、それにしても! 姉上あねうえ

    一体、どうされたのですか?

    みなとは、今日、警邏隊けいらたいの仕事は無いはずですが……


□纏:仕事の話だったら良かったんだが、ちょいと面倒な事になってな……


〇桔梗:面倒めんどうなこと?


□纏:みなと、お前に合わせたいヒトがいる。

   てか、もう来ているんだがな。


△竜宮:まとい其方そなたところは大変にぎやかで愉快ゆかいじゃな。


☆祈里待:えっ?


〇桔梗:今の声……もしかして……


□纏:そうであろう、そうであろう!


☆祈里待/〇桔梗:将軍しょうぐん様ー!?


△竜宮:ふふっ、き反応するものじゃ。


☆祈里待:大変失礼しつれいいたしました!


〇桔梗:天子てんし様の御前ごぜんにも関わらず、礼をくした愚行ぐこう……

    大変申し訳ありません。


△竜宮:良い良い。

    それに此度こたびの訪問についてはまといに黙っておくように

    伝えた以上、其方そなたらに非はない。

    それにしても……まとい其方そなたぐらいだぞ?

    わらわの前で自由にしているのは。


□纏:だって、ここの家のあるじだし。


〇桔梗:姉上あねうえ!!


△竜宮:なげかわしいものじゃ。

    八芭螺はばら家の当主が妹君いもうとぎみではないということが……

    まあ、そんなまといを気に入っておるからいいんじゃけどな。

    【贔屓ひき】は許してくれなそうじゃが……


□纏:まあ、確かに此処にはかりやつがいたら、

   ひと悶着もんちゃくは起きていただろうさ!

   あーはははは!


▽壱宣瀬:その軽口の実現をご所望しょもうか?


□纏:げっ……いたのかよ……


▽壱宣瀬:当然だ。

     将軍しょうぐんが動く以上は【竜生九子りゅうせいきゅうし】のだれかが護衛

     につくのは必須ひっすだ。


□纏:相変わらずおかたい頭だよ、お前は。


▽壱宣瀬:祈里待いのりまち みなと、今すぐに支度したくせよ。


☆祈里待:えっ?


▽壱宣瀬:其方そなたには、幕府ばくふへの登庁とうちょう勅令ちょくれいとして公布こうふされている。


☆祈里待:ちょく、れい?


△竜宮:そうじゃ、わらわはおぬしに用があるのじゃ。


□纏:何かやらかしたのか?


☆祈里待:まとい様じゃないんだから!


□纏:おっ?


☆祈里待:スイマセン。


▽壱宣瀬:【狻猊さんげい】、お前もだ。


□纏:えっ? 俺も?


△竜宮:そうじゃ。

    もちろんだが、それも勅令ちょくれいじゃ……わかっておるな?


□纏:わかってますよっと、流石さすが勅令ちょくれいに反するは犯さねえよ。

   で、参考程度ですけど。

   登庁とうちょうについては俺なら納得ですが、どうしてウチのみなとを?


▽壱宣瀬:貴様、いい加減に――


△竜宮:構わん、【贔屓ひき】。

    ――シンリュウからの託宣たくせんが下った。

    祈里待いのりまち みなとが、次の継承者けいしょうしゃの可能性がある事を。


□纏:なっ!?


〇桔梗:うそっ……


☆祈里待:えっ? どういうこと?


△竜宮:なんじゃ、知らぬのか?


□纏:当たり前だろ……こんなことは限られたヤツしか知らねえんだから。


△竜宮:そういえば……そうじゃった。

    いかんなぁ、ながく生きていると物事を忘れてしまう。

    ――さて、祈里待いのりまち みなと


☆祈里待:は、はい!


△竜宮:お主にはこのくに護国卿ごこくきょうであり、【竜生九子りゅうせいきゅうし】最後の一柱、

    【椒圖しょうず】の継承者けいしょうしゃに選ばれた。

    その御身おんみ相応ふさわしいかどうか継承けいしょう将軍しょうぐんであるわらわ

    直接たてまつる。

    ――よいな?


☆祈里待:承知しました!


△竜宮:ふふっ、期待しておるぞ?


□纏M:うわっ……あの意地悪いじわるな顔は何かたくらんでやがるな……?

    かなりろくでもない事だ……みなと、ご愁傷しゅうしょう様。



【シーン03】


<幕府へ向かう馬車のひとつに湊・桔梗・纏の3人が乗っていた。>


☆祈里待N:突然とつぜん来訪者らいほうしゃからげられた言葉はにわかに

      信じられない事だった。

      くにの守護神たる護国卿ごこくきょうであり、そしてくに祖神そしんたる

     【龍王りゅうおう】シンリュウの子たる【竜生九子りゅうせいきゅうし】の一柱・【椒圖しょうず】の

      継承者けいしょうしゃとして選ばれた。

      将軍しょうぐんからの言葉だ、そこに嘘偽うそいつわりはないはずだ。

      しかし、誰がそんなことぐに受け入れることが出来る?

      俺には出来ない、今だって信じられないことだ。

      決して高貴こうきな産まれではないし、八芭螺はばら家と親交はあるとは言え

      血縁けつえん関係という訳ではない。ただの一般庶民しょみんだ。

      にも関らず、八大貴族はちだいきぞくと同等の権限けんげんを持つ立場に

      なるかもしれない……


□纏:なんだ、お前は! 辛気臭しんきくさい顔をしやがって。


☆祈里待:だー! もう! わかっているんですか?!

     結構けっこうやばいことになっているんですよ!!


□纏:まあ、そうだろうな。


☆祈里待:他人事たにんごとだからって……てか、全然驚かないんですね。

     まさか……知っていたんですか?


□纏:……まあ、俺だって【竜生九子りゅうせいきゅうし】の一人だしな。

   とは言っても、曖昧あいまいな感じだったさ。

   まるで、もやがかかっているような……


〇桔梗:姉上あねうえ……もし、みなとが本当に継承者けいしょうしゃなら……


□纏:あぁ、その時は将軍しょうぐんの元につかえなきゃいけない。


〇桔梗:それじゃあ、いずれは八芭螺はばらの家を出なければならない……という事なのですね。


□纏:……そうだ。


〇桔梗:そう、ですか……


☆祈里待:ちょっと待てよ! まだ決まった訳じゃない!

     それに、いくら八芭螺はばら家と付き合いがあるからって――


□纏:くどいぞ、みなと


☆祈里待:っつ!


□纏:おまえがいくら足搔あがこうとしても無駄だ。

   それとも、なんだ? 将軍しょうぐんうそついていると言いたいのか?


☆祈里待:そんなことは……


〇桔梗:良い事ではありませんか、みなと


☆祈里待:お嬢! 何を言っているんだよ……


〇桔梗:とても名誉めいよなことです。

    主としてはとても……とてもほまれ高いことです。


☆祈里待:っつ! おまえはそれでいいのかよ!!


〇桔梗:…………。


☆祈里待:昔、約束しただろ! 何があってもお前のそばにいるって!!


〇桔梗:……そんな事、此度こたびの事に比べれば些末さまつです。


☆祈里待:桔梗ききょう


〇桔梗:黙りなさい!!


☆祈里待:っつ!


〇桔梗:貴方は私の従者じゅうしゃなのです!

    自らの忠義ちゅうぎくす相手に対する無礼ぶれいな態度は言語道断ごんごどうだんです!


☆祈里待:お前は――


□纏:二人ともそこまでだ


<祈里待、桔梗。纏の制止の声にはっとする。?


☆祈里待:…っ!


〇桔梗:っ、姉上……


□纏:馬車が止まったという事は、どうやら到着したようだな……

   みなと桔梗ききょう、降りる準備をしろ。


☆祈里待:…はい


〇桔梗:…分かりました……


□纏:(※小声で)……まったく、まだまだ子供だな



【シーン04】


◇㐂那屋敷:んっ?

      よぅ……誰かと思えば壱宣瀬いちのせのじゃねぇか。

      相変わらず、気に食わねぇツラをしていやがるなァ!


▽壱宣瀬:…………。


◇㐂那屋敷:おいおい、無視かよ……

      こちとら謹慎きんしん中の身の上で、ひまひま

      しょうがねえってのによぉ……


▽壱宣瀬:…………。


◇㐂那屋敷:鬱憤うっぷんが溜まりまくってしょうがねぇ!

      あんまりめた態度たいどをとっているとるぞ?


▽壱宣瀬:なら、それは良かったな。


◇㐂那屋敷:あっ? 何を言って――


▽壱宣瀬:出ろ、【睚眦がいさい】。謹慎きんしん解除だ。


◇㐂那屋敷:ふざけるな、何の冗談じょうだんだ!


▽壱宣瀬:勅令ちょくれいが下った。


◇㐂那屋敷:なんだと?


▽壱宣瀬:れより、継承けいしょうが始まる。

     お前には、「継承者けいしょうしゃ候補の相手をせよ」とのことだ。


◇㐂那屋敷:おいおい、今度こそ本物なんだろうな?

      かれこれ8人を相手にしてきたが、全員が偽物

      だっただろうがァ!!


▽壱宣瀬:だからと言って、不殺ふさつの命令を破るのはご法度はっとだ。

     死罪しざいとならなかっただけでもありがたいと思え。


◇㐂那屋敷:こちらと不愉快ふゆかいでしかないんだよ!

      全員が無能むのうなザコばっかりだ!

      しまいには戦いを恐れて背中を見せた馬鹿野郎もいる!!


▽壱宣瀬:…………。


◇㐂那屋敷:最後のヤツ地方豪族ちほうごうぞくかなんだか知らねえが、一言一言が

      しゃくさわるからっただけだ。


▽壱宣瀬:ふぅ……野蛮やばんなのは【睚眦がいさい】の継承者けいしょうしゃだからなのか、それとも

     元からなのか?


◇㐂那屋敷:そう思うんだったら、他の【竜生九子りゅうせいきゅうし】のヤツらに頼みな。

      勅令ちょくれいとは言え、俺は降ろさせてもらうぜ。


▽壱宣瀬:そうはいかない。


◇㐂那屋敷:あ゛ァ? なら代わりにテメェを今ここでたたってやろうか?


▽壱宣瀬:今回は不殺ふさつをしなくていい。

     将軍しょうぐんより「殺してもかまわない」との伝達だ。


◇㐂那屋敷:なに? おいおい、つい将軍しょうぐん様も狂っちまったか?

      お笑い草だなァ!!


▽壱宣瀬:言動げんどうつつしめ、将軍しょうぐんへの不忠ふちゅうと判断するぞ。


◇㐂那屋敷:事実じゃねえか!

      よし、わかった! それなら喜んで従ってやるよ!!

      もちろん、殺してしまっても謹慎きんしんはないんだろ?


▽壱宣瀬:勿論もちろんだ。


◇㐂那屋敷:ククッ……クククッ、久しぶりの本気の殺し合いだァ!!


▽壱宣瀬M:しかし、これでいいのだろうか……


(※回想シーン)


▽壱宣瀬:はっ? 今、なんと……?


△竜宮:【睚眦がいさい】のやつを解放せよ、今回の継承けいしょうに必要じゃ。


▽壱宣瀬:お言葉ですが、㐂那屋敷きなやしきは前回の儀式ぎしきの際には不殺ふさつ

     めいを破りました。

     また、あの野蛮やばんな男の事です。

     此度こたび祈里待いのりまちについてもほふられる可能性があります。


△竜宮:……おまえさんは、あの者が負けると思うのか?


▽壱宣瀬:はっ?


△竜宮:あの者は本物じゃ、一目見ただけで感じた。


▽壱宣瀬:それは一体……


△竜宮:あやつから緋真ひさな残滓ざんしを感じた。

    今までの者にはない、明らかなモノじゃ。

    しかし、今のままでは力を解放する事は出来ん。

    ならば、無理やりにでもこじ開ける。


▽壱宣瀬:つまり――


△竜宮:荒療治あらりょうじというやつじゃ♡


(※回想シーン)


▽壱宣瀬M:……こと真意しんいは本物か、それとも気まぐれか。



【シーン05】


☆祈里待:ここは……?


△竜宮:此処ここは、幕府ばくふ地下の最下層さいかそう、通称『阿鼻あび』。

    ここで発生するあらゆる音や衝撃しょうげきは、地上に決して届くことは無い。


☆祈里待:だから『阿鼻あび』、なんですね。

     阿鼻地獄あびじごく阿鼻あびですよね?


△竜宮:ええのう、わらわは学がある者は好きだぞ。

    ならば、どうしてお主をここに連れてきたか……わかるか?


☆祈里待:継承けいしょうのため、ですよね?


△竜宮:そうじゃ。

    そして、そのために――


◇㐂那屋敷:テメェが【椒圖しょうず】の新しい継承者けいしょうしゃか?


☆祈里待:えっ?


▽壱宣瀬:遅くなってしまい大変申し訳ありません。


△竜宮:構わないぞ、わらわたちも先程着いたばかりじゃ。

    さて……祈里待いのりまち みなと。準備は良いかのう?


☆祈里待:準備?


△竜宮:其方そなたを試させてもらうぞ。


☆祈里待:え、えーっと……


◇㐂那屋敷:余所見よそみしているひまはねぇぞォ!!


☆祈里待:っつ!


◇㐂那屋敷:良い反応するじゃねえか!

      今までのザコとは大違いだ! うれしいぜ!!


☆祈里待:そいつは……どうも! ふんっ!!


◇㐂那屋敷:はっ! 随分ずいぶんと戦いにこなれているじゃねえか。

      その短刀は……そういえば、テメェは八芭螺はばらの……

      なら、警邏隊員けいらたいいんか。

      だったら、わかっているよな?

      俺はそこらへんの賊共ぞくどもじゃねえぞ!

      そんな短刀じゃ俺をれねえ!

      そのこしに差しているモノは木の棒じゃねえだろ?


☆祈里待:なんだんだ、こいつは?!


△竜宮:【竜生九子りゅうせいきゅうし】の一柱、『闘争とうそう』をつかさどる龍、【睚眦がいさい】。

    その継承者けいしょうしゃである㐂那屋敷きなやしき 厳爾朗げんじろう

    此度こたび儀式ぎしきにて、お前の素質そしつを測る者じゃ。


☆祈里待:ちょっと待って!?

     あのヒト、全力で俺を殺そうとしてきているんですけど?!


△竜宮:祈里待いのりまちよ、其方そなたは【椒圖しょうず】の後継者こうけいしゃである。

    其方そなたがすべきことは目の前の男に勝つ事だ。


☆祈里待:滅茶苦茶めちゃくちゃなことばっかりだ……


△竜宮:勝てなければ、お主は死ぬ。

    それだけだ。


☆祈里待:……あぁ、納得。

     だから、桔梗ききょうたちは案内されなかったんだな。

     その時点から感じていたけど……嫌な予感はあたるもんだ。


△竜宮:さて、戦いは始まってしまったが……何か言葉はあるかのう。


☆祈里待:特に……いや、ひとつあります。


△竜宮:なんじゃ?


☆祈里待:絶対に桔梗ききょうの元へと戻る、それだけです。


△竜宮:……相承知あいしょうちした。

    では、行って参れ。


◇㐂那屋敷:刀をいたか……どうやら覚悟かくごは決まったようだなァ!

      久しぶりに楽しめそうな戦いだ。

      特別に口上こうじょうを述べてやるよ。

      ……我が名! 【竜生九子りゅうせいきゅうし】の一柱たる【睚眦がいさい

      の継承者けいしょうしゃ!!

      第7代㐂那屋敷きなやしき家当主、㐂那屋敷きなやしき 陣兵衛じんべえ 厳爾朗げんじろうなり!!


☆祈里待:腹をくくるか……我が名は! 八芭螺警邏はばらけいら隊、衛士えいし

     祈里待いのりまち みなとなり!!


☆祈里待/◇㐂那屋敷:いざ尋常じんじょうに! 勝負しょうぶ!!



【シーン06】


□纏:(※大きなあくびを一回した後に)ヒトを呼んでおいで待機とか。

   暇すぎるな、お前もそう思うだろう? 桔梗ききょう


〇桔梗:…………。


□纏:ききょー!


〇桔梗:あっ! はい!

    どうしましたか、姉上あねうえ


□纏:全く……聞いていなかったな?


〇桔梗:申し訳ありません……


□纏:アイツのことが気になるか?


〇桔梗:い、いえ……


□纏:うそついてるのはバレバレだぞ。


〇桔梗:……はい。


□纏:しょうがないヤツだ……桔梗ききょう、【椒圖しょうず】のことは知っているな?


〇桔梗:はい。

    【椒圖しょうず】は【竜生九子りゅうせいきゅうし】の一柱であり、将軍しょうぐんと共に我がくに護国卿ごこくきょう

    の役割を果たす龍。

    他の【竜生九子りゅうせいきゅうし】とは異なり、【椒圖】のみは【椒圖】自身

    によって選ばれた者しか力を継承けいしょう出来ない。


□纏:そうだ、そこには家柄いえがら地位ちいも関係ない。

   ……前任者ぜんにんしゃの䅣儀 緋真は先の内乱によって命を落とし、

   死から9回目の命日を迎えた年に新たな継承者けいしょうしゃが決まる。

   全てはり返されるものだ。


〇桔梗:姉上あねうえ、その……継承けいしょうとはどういったことをするのですか?


□纏:お前が成人を迎えた時に話そうと思ったが……

   まあ、知っておいてもいいだろう。

   継承者けいしょうしゃに「おのれが【椒圖しょうず】の継承者けいしょうしゃであることを自覚させる」ことだ。

   つまり戦いを通して力を顕現けんげんさせることだ。


〇桔梗:戦いを通して……それって!


□纏:……そうだ、命懸いのちがけの戦いとなる。

   確かにみなと警邏けいら隊の中でもずば抜けた戦闘力の持ち主だが、

   相手が厄介やっかいだろうな。

   この気配けはいからして……今戦っているのは㐂那屋敷きなやしきのヤロウだ。


〇桔梗:㐂那屋敷きなやしきって、【睚眦がいさい】の……!!


□纏:そうだ。

  【竜生九子りゅうせいきゅうし】の一柱、『闘争とうそう』をつかさどる龍、【睚眦がいさい】の継承者けいしょうしゃ

   恐らくは……勝つのは難しいだろうな。


〇桔梗:くっ!


□纏:どこに行くんだ。


〇桔梗:止めるんです! こんなこと、馬鹿げています!!


□纏:これは勅令ちょくれいだ。

   お前ひとりで何とか出来る問題ではない。


〇桔梗:ですが!


□纏:桔梗ききょう!!


〇桔梗:っつ!


□纏:物事の道理どうりが理解できないお前ではないだろう。

   何故なぜだ、どうしてお前の心が乱れる?


〇桔梗:それは……


□纏:好き、だからか?


〇桔梗:(※恥ずかしくなって声にならない声を挙げる)


□纏:まあ、そんなことはとっくの昔に気付いていただけどな。

   ただ……それだけじゃないんだろうな?


〇桔梗:えっ?


□纏:何かに固執こしつしている、というのが正しい。

   理由はなんだ?


〇桔梗:――彼とは……みなとと約束したんです。

    覚えていますか? 父上と母上が亡くなった日を……


□纏:忘れるわけないさ……いくら、任務で離れていたとは言え、

   隠居いんきょしていた二人を守れなかったのは、俺の不徳を致す限りだ。


〇桔梗:あの時、私も危うく殺されそうになりました。

    ですが――


(※回想シーン;始まり)


☆祈里待:桔梗ききょう!!


〇桔梗N:ぞく凶刃きょうじんから私を守るように、みなとは前に立ちはだかった。

     咄嗟とっさの行動であったことから、彼は自身の身を守ることは

     出来ずりつけられる。


☆祈里待:ぐあっ!!


〇桔梗:みなと!!


☆祈里待:ま、けるもんかああああああ!!


〇桔梗N:彼は倒れそうになる身体を立たせるために、

     思いっきり足で踏ん張り、すぐさまぞくりつけた。


〇桔梗:みなと!!


☆祈里待:わるい……、遅くなって。

     でも、桔梗ききょう怪我けががなくて良かった。


〇桔梗:バカ!


☆祈里待:ちょ、ちょっと待って……俺、負傷してる……

     ぽかぽかなぐらないで……


〇桔梗:どうしてかばったりなんかしたのよ!

    下手したら死んでしまったかもしれないのに!!

    どうして?!


☆祈里待:……そりゃあ、桔梗ききょうだからだよ。


〇桔梗:馬鹿ばかじゃないの……いくら主従関係をむすんでいるからと言って――


☆祈里待:ちげえよ。


〇桔梗:えっ?


☆祈里待:主とか関係なく、桔梗ききょうだから守ったんだよ。


〇桔梗:(※小声で)本当にあなたというヒトは……


☆祈里待:今、なんて――いったぁ!! そこられたところ!!

     ……桔梗ききょう


〇桔梗:そんなことを言うんだったら、約束して……私のそばに居なさい。


☆祈里待:桔梗ききょう……


〇桔梗:絶対に帰って来て!

     ……勝手にいなくなったら、承知しないんだから。


☆祈里待:――わかった、約束する。

     お前の事は必ず守るし、勝手にいなくなったりしない。


(回想シーン:終わり)


〇桔梗:――彼との大事な約束なんです。

    でも……申し訳ありません。

    少し頭を冷やして――


□纏:いいじゃねえか。


〇桔梗:えっ?


□纏:たくっ……うちのかわいい妹にそこまで言わしたのかアイツは!


〇桔梗:姉上あねうえ


□纏:桔梗ききょうも、桔梗ききょうだ!

   お前のその言葉ってある意味プロポーズじゃねえか!!


〇桔梗:えっ……えっー!!!


□纏:よし、行くぞ!


〇桔梗:えっ? どこにですか?


□纏:決まっているだろ?

   お前の愛しい人に会いに行くんだよ!


〇桔梗:ちょっと姉上!?


▽壱宣瀬:――やはり、来て正解だったな。


□纏:ちっ、空気が読めないヤツが来やがったか。


▽壱宣瀬:空気が読めないのはお前のことだろう。

     神聖しんせいなる継承けいしょう妨害ぼうがいする事は万死ばんしあたいする。

     やはり、私の予感は当たっていたか。

     貴様は、必ず継承けいしょう邪魔じゃまする。

     ならば、私はここでお前を食い止めるまでだ。


□纏:いいねぇ! 最近は平和過ぎて身体がなまっていたんだ!!

   お前だったら加減しなくても……半殺し程度で済ませられるな。


▽壱宣瀬:……私は、其方そなたのことが嫌いだ。


□纏:おいおい、そのかたなを抜くっていうことは……桔梗ききょう! 行け!!


〇桔梗:は、はい!


▽壱宣瀬:行かせぬ。


□纏:邪魔してるんじゃねーよ!


▽壱宣瀬:ぐっ!


□纏:てめぇが力を使うんだったら、コッチもやってやるよ。


▽壱宣瀬:貴様……!


〇桔梗:姉上あねうえ!!


□纏:俺の事はどうでもいい、早く行け! こいつを抑えている間に!!

   …………よし、行ったな。

   あら、よっと!


▽壱宣瀬:ぐっ!


□纏:かたなだけが戦う手段じゃねえよ。

   脇腹わきばらがガラ空きだったんで蹴りを入れさせてもらったぜ。


▽壱宣瀬:ちっ……やはり、お前を嫌悪けんおする。


□纏:それは奇遇きぐうだな! 私もお前のことが嫌いだよ!

   そもそも俺の大事な妹をり殺そうとしたな?


▽壱宣瀬:当然だ。

     儀式ぎしき邪魔じゃまする可能性がある者は八大貴族はちだいきぞくであったとしても

     処罰しょばつするのは当然だ。


□纏:お前の辞書には「柔軟性じゅうなんせい」という言葉はないのか?


▽壱宣瀬:私は八大貴族はちだいきぞく筆頭ひっとう壱宣瀬いちのせ家当主であり、

     そして『秩序ちつじょ』をつかさどる【贔屓ひき】の継承者けいしょうしゃ

     その私が、貴様きさまらの様な愚行ぐこうおかわけにはいかぬ。


□纏:やっぱりうざいな、お前。


▽壱宣瀬:その言葉……貴様にそっくりそのまま返してやる


□纏:上等じょうとうだ……やれるもんならやってみろ!


▽壱宣瀬:『秩序ちつじょ御旗みはたもとに げる』


□纏:『森羅万象しんらばんしょう あまね灰燼かいじん煉獄れんごくほむらよ』


▽壱宣瀬:『てん逆巻さかまき 規行矩歩きこうくほたる守り手よ 此処ここに』


□纏:『暗翳あんえいの世界に 光輝燦然こうきさんぜんを指し示せ』


▽壱宣瀬・□纏:『龍令解合りゅうれいかいごう!』



【シーン07】


△竜宮N:場面は移り替わり、阿鼻あび

     部屋全体に響き渡る剣戟けんげきの音、やいばやいばのぶつかり合う音。

     それが苛烈かれつきわめる戦いであることを示している。


☆祈里待:くっ!


◇㐂那屋敷:剣の腕は悪い訳じゃねえが……ただ、そんなんじゃ俺に勝てるわけねぇ!!


☆祈里待:そんなことわかってる……つーの!


◇㐂那屋敷:いいじゃねえか! 守ってるばっかりじゃつまらねぇからなァ!!


☆祈里待:無茶を言うな。

     これが【竜生九子りゅうせいきゅうし】の力か……一撃いちげき一撃いちげきが重い……!


◇㐂那屋敷:逃げの剣ばかりしているから、テメェも偽物にせものかと思っていたぜ。


☆祈里待:勝手にそっちが偽物にせものとか、本物とか決め手つけているだけだろ!


◇㐂那屋敷:うるせぇやつだな。

      まあ、偽物にせものでも本物でもどちらもいい……俺はァ――


☆祈里待:なっ、消えた……!


◇㐂那屋敷:殺す事だけは変わらないからなァ!!


☆祈里待:一瞬で目の前に……!! ぐうっ!


◇㐂那屋敷:ほれほれ! 生きたければ、俺をたおせ!!

      そんなショボい剣術じゃあどうしようもないぞ!!


☆祈里待:好き放題言ってくれるじゃねえか!!


◇㐂那屋敷:ほう? やっと少しはマシな動きをしたか。

      だけど、もう長い事をやった。

      テメェごときに、この力を使う必要はねぇが――


△竜宮N:そう言って、㐂那屋敷きなやしきは自身の刀を天高てんたかかかげる。


◇㐂那屋敷:――勅令ちょくれいだからな、悪く思うなよ。


☆祈里待M:なんだ? 空気が……


◇㐂那屋敷:味わえ、【竜生九子りゅうせいきゅうし】の力を

      ――『屍山血河しざんけつが舞台ぶたいから天魔てんまわらい』


△竜宮:気を付けるんじゃよ、祈里待いのりまち


◇㐂那屋敷:『龍虎相博りゅうこそうはくとうとぶ』


△竜宮:そして刮目かつもくせよ、お主が今から見るは【竜生九子りゅうせいきゅうし】の本当の力じゃ。


◇㐂那屋敷:『龍令解号りゅうれいかいごう』!


△竜宮N:そうさけんだ瞬間、まばゆひかりが発生する。

     すると、それは一瞬にして消え、祈里待いのりまちに映った光景は――


☆祈里待:龍だ……本物の龍だ……


△竜宮N:見た目はヒト型ではあるも、漆黒しっこくやみの様な黒いうろこよろいとして

     まとい、た者全てをらいくす殺意のあかひとみ、そして背中には

     天高く飛び上がるための大きな龍翼りゅうよくがあった。

     これが【竜生九子りゅうせいきゅうし】の一柱、『闘争とうそう』をつかさどる龍

     【睚眦がいさい】の姿。


◇㐂那屋敷:この力を使うのは久しぶりだァ……だから、加減は出来ねえぞ!!


☆祈里待:突っ込んでくるか、なら――


△竜宮N:刀を構えたその刹那せつな㐂那屋敷きなやしきの音速とも呼べる速さの

     突進とっしん攻撃に祈里待いのりまちなんなく吹き飛ばされる。

     身体全体が壁にたたきつけられ、その場で倒れ込んでしまった。


☆祈里待M:い、ま……何が……起きた……?

      早すぎる……くっ……身体が……


◇㐂那屋敷:ちっ、あっけないもんだったな。

      まあ、しょうがねえな。

      それじゃあ――


☆祈里待M:まず、い……このままじゃ……っつ!

      ダメだ……全身が痛く、て……動けない……


◇㐂那屋敷:――死ね。


〇桔梗:みなと!!


△竜宮N:龍とした【睚眦がいさい】の鍵爪かぎつめ祈里待いのりまちの胸を

     突き刺そうとした、その瞬間だった。

     声が聞こえた、彼の名を呼ぶふるえた声が。

     その声に【睚眦がいさい】の動きが止まった。


☆祈里待:き、ききょう……!


◇㐂那屋敷:あっ? なんだァ、あのガキは?


〇桔梗:湊、起きて! お願いだから起き上がって!!


◇㐂那屋敷;うるせえガキだ。


☆祈里待:ま、待て……どこに、いく……んだ……!


◇㐂那屋敷:決まってるだろ、戦いの邪魔じゃまするやつは女であろうと関係ねえ。

      たたるだけだ。


☆祈里待:や、め……ろ……!


△竜宮N:きょうを削がされた【睚眦がいさい】は苛立いらだちの表情かおを見せ、

     桔梗ききょうの元に近付いてくる。

     みなとは止めるために必死になって身体を動かそう

     とするが力が入らない。

     無常むじょうにも距離は縮まる一方であった。

     

〇桔梗:みなと!!


◇㐂那屋敷:うるせぇぞ! ガキがァ!!


〇桔梗:っつ!


◇㐂那屋敷:大事な儀式ぎしきの最中だ、邪魔じゃまするんじゃねえ!!

      死にたくなければ、さっさと此処ここから出ていけ!!


〇桔梗:出ていきません!!


◇㐂那屋敷:いい加減にしろ! 

      奴は負けたんだ! もう動けねぇ!

      戦いで敗者に待ち受けるのは死だ。

      せめての情けをかけている、早く出ていけ。


〇桔梗:まだ……


◇㐂那屋敷:んっ?


〇桔梗:まだ、みなとは負けていません!


◇㐂那屋敷:ガキが、何を寝ぼけたことを言ってやがる!!


〇桔梗:私はガキではありません!

    私の名は、八芭螺はばら 桔梗ききょう

    貴方あなたに戦いをいどんだ、勇士ゆうしにいる祈里待いのりまち みなとあるじです!!

    例え【竜生九子りゅうせいきゅうし】の一柱ひとはしらであったとしても彼は負けない!!


◇㐂那屋敷:言うじゃねぇか……なら、その生意気なまいきな口を黙らせてやる。


〇桔梗:私は逃げない! れるものならってみなさい!!


◇㐂那屋敷:その気概きがいは認めてやる。

      わずかのではあるが、辞世じせの句でも考えておくんだな。


△竜宮M:まずいな、ここはわらわが……んっ?

     あぁ、なつかしいな……そうか、選択せんたくときが来たか……



【シーン08】


☆祈里待:どうなってるんだ……これ……?


△竜宮:まさに桔梗ききょうが殺されそうになった瞬間、

    目の前の光景が止まった。

    そこだけ時が止まったかのように。


☆祈里待:なんで止まって――


〇䅣儀:手痛くやられましたね。


☆祈里待:あんたは……あの時の……!


〇䅣儀:私が言った言葉を覚えていますか?


☆祈里待:……あの時、あんたは「選択せんたくを聞かせて」と言った。

     教えてくれ、あんたは何の選択を聞きたいんだ!


〇䅣儀:貴方あなたは、何のために戦うのですか?


☆祈里待:えっ?


〇䅣儀:戦う理由をいているのです。


☆祈里待:…………。


〇䅣儀:みずからの命のためですか、おのれの立場のためにですか、それとも――


☆祈里待:違う……


〇䅣儀:えっ?


☆祈里待:俺が、戦うのは……


△竜宮N:満身創痍まんしんそういでふらつきながらも何とか立ち上がるみなと

     しかし、彼の顔は決意に満ちていた――


☆祈里待:俺のは単純明快たんじゅんめいかいだ……「誇りを守るため」、それだけだ。


〇䅣儀:誇り、ですか?


☆祈里待:そうだ……自分の命を投げうってでも守りたい誰かの為に……

     一種のエゴだよ、守るために俺の命を差し出してもいいと

     思う程の、な。


〇䅣儀:それは自己犠牲じごぎせいでは?


☆祈里待:確かに桔梗ききょうにもそう言われて怒られたなぁ……

     正直言うと、死にたくないと気持ちはあるけど。

     それよりも、守りたかった人間がいない未来が怖いんだよ。

     ……今はこうやって戦うことを生業なりわいとしているけど、

     昔は何も出来なかった。

     目の前で家族が殺されても、こわくて、こわくて何も出来なかった。


〇䅣儀:…………。


☆祈里待:生き残ったとしても、あったのは絶望と空虚感くうきょかん

     何度も何度も死のうとしたけど……

     ぜーんぶ、あいつが止めるんだ。

     何度も何度も……だから、ちかったんだ。

     ――「今度はこそは失う訳にはいかない、命を賭けても」って。

     自分勝手な我儘わがままだと理解はしている。

     でも、決めたんだ。

     それが――俺の戦う理由です。


〇䅣儀:なるほど、そうですか……これなら、安心ですね。


☆祈里待:えっ?


〇䅣儀:祈里待いのりまち みなと

    ――【椒圖しょうず】のまことたる継承者けいしょうしゃとして、貴方あなたを認めます。

    さあ、私の手をとって――



【シーン09】


△竜宮N:八芭螺はばら 桔梗ききょうは目を閉じた。

     目の前の男に殺されることを覚悟かくごするも、やはり恐怖きょうふはある。

     それでも、彼女は後悔こうかいしていない。

     その時だった――


◇㐂那屋敷:おいおい……やってくれるじぇねえか!!


△竜宮N:自分が誰かに抱きかかえられていることに気付く。

     桔梗ききょうおそおそを開けるとそこには――


〇桔梗:み、なと……?


☆祈里待:悪い、ちょっと寝てた。

     大丈夫か? 怪我けがしていないか?


〇桔梗:…………うん!


☆祈里待:そうか、それならよかった……

     勝負が終わるまで此処ここにいてくれ……


〇桔梗:みなと


☆祈里待:んっ?


〇桔梗:絶対に……勝ってね。


☆祈里待:――あぁ、承知した! お嬢!!


◇㐂那屋敷:おいおい、小娘こむすめひとり助けたぐらいで調子に乗って――ぐっ!


☆祈里待:黙れ。


◇㐂那屋敷M:なんだ? この力は……!!

       それにさっきよりも様子が……一体、どういうことだ?

       なぜ傷が回復をしているんだ!?


☆祈里待:ふん!


◇㐂那屋敷:ちっ!


☆祈里待:……お前には随分ずいぶんとやられたな。

     なら、そのお返しをしてやる。

     ――『右のかいな万民ばんみんみちび御旗みはたごとし 

        左のかいな救国きゅうこくみちびやいばごとし』


◇㐂那屋敷:その詠唱えいしょうは……!?


〇桔梗:みなとの周りに……光が……


△竜宮:ふふっ、認めたのじゃな……緋真ひさな


〇桔梗:どういうことですか……? 将軍様?


△竜宮:見ておれ、八芭螺はばらの娘よ。

    あの者が――新たなる【椒圖しょうず】の継承者けいしょうしゃじゃ。


☆祈里待:『窮鳥入懐きゅうちょうにゅうかい救世済民きゅうせいさいみん

      ――此処ここ体現たいげんす――龍令解号りゅうれいかいごう!!』


△竜宮N:【椒圖しょうず】の力を覚醒かくせいしたみなとは、㐂那屋敷きなやしきと同様にヒト型を

     保ちながらも龍へと昇華しょうかする。

     清廉せいれん象徴しょうちょうとする白銀はくぎんよろいごとうろこまとい、慈愛じあい

     められしやさしき、天高く飛び上がるための白き龍翼りゅうよく


〇桔梗:あれが【椒圖しょうず】の姿すがた……キレイ……


△竜宮:そうじゃな……悪をただし、たみを救い、くにを守る

    ――【竜生九子りゅうせいきゅうし】の最後の一柱、『封印ふういん』を

    つかさどる龍・【椒圖しょうず】だ。


◇㐂那屋敷:あーはははははっ! 最高だ!!

      力を覚醒したってことは、テメェが本物だったという訳かァ!

      だけどよォ! 戦いはまだ終わってねえよォ!!

      とびっきりの喰らわせてやるよ

      ――龍命脈りゅうめいみゃく集束しゅうそく! 震天龍閃光しんてんりゅうせんこう!!


△竜宮N:巨大きょだい閃光せんこう祈里待いのりまちこと【椒圖しょうず】に襲い掛かる。

     しかし彼は逃げることはせず、そこに立っていた。


☆祈里待:ふうじろ。


△竜宮N:そう手をかざすと、閃光せんこうは一瞬にして消えた。


◇㐂那屋敷:なっ、そんな馬鹿な……!


☆祈里待:今度はこっちの番だ。


◇㐂那屋敷:なっ! いつの間に――


☆祈里待:くらいやがれえええ!!


◇㐂那屋敷:ぐうおおおおおおおおおおおおお!!


△竜宮N:㐂那屋敷きなやしきは、みなとの一撃を耐えるために踏ん張るが、

     それに負けじとみなとこぶしさらなる力をめた。

     そして――


☆祈里待:吹き飛べえええええええ!!


△竜宮N:【睚眦がいさい㐂那屋敷きなやしき 厳爾朗げんじろうは天井に向かって吹き飛ばされ、

     身体全体を撃ちつけられる。そのまま彼は落下し、動く事は

     なかった。勝敗は決したのだ――


☆祈里待:よっしゃあ……勝った……


〇桔梗:みなと! 大丈夫?!

    しっかりして!! みなと!!


☆祈里待:(※寝息をたてる)


〇桔梗:えっ……寝てる……?

    ――もう、本当に心配ばかりかけさせて。


△竜宮N:すると、再びみなとは光に包まれると元の人間の姿に戻る。

     そして、その傍らに一本の刀が転がっていた。


〇桔梗:元に、戻った……


△竜宮:【竜生九子りゅうせいきゅうし】としての力は、1本の刀として具現化ぐげんかする。

    そのかたわらにある、それが祈里待いのりまち――【椒圖しょうず】の力の証じゃ。


□纏:終わったのか?


△竜宮:まったく……お主の仕業しわざじゃな?


□纏:なんのことだ?


△竜宮:あのむすめをここに寄こしたのは。

    わらわが気をかしたというのに……


□纏:そんな気持ちなんて一切ないだろ?


△竜宮:…………。


□纏:アンタのてのひらの上に、敢えて乗っただけだよ。

   アイツを……祈里待いのりまち みなとに【椒圖しょうず】を継承けいしょうさせるために。


△竜宮:さあ? どうじゃろうな?


□纏:おい、どこにいく?


△竜宮:継承けいしょうは終わったのじゃ。

    功労者こうろうしゃへのいたわりと、城の修復しゅくふくをしなければいけないからのう。

    大方おおかた派手はでにやったのだろう?

    修繕費しゅうぜんひ八芭螺はばら家に請求せいきゅうしても良いか?


□纏:うっ……それは……


△竜宮:冗談じょうだんじゃ、うふふ。


□纏:全く……読めないヒトだよ、アンタは。



【シーン10】


☆祈里待:桔梗ききょう!!


▽壱宣瀬:起きたか。


☆祈里待:あれ? ここは……


▽壱宣瀬:幕府ばくふ内にある一室だ。


☆祈里待:えっ……壱宣瀬いちのせ はかり様、ですか……?


▽壱宣瀬:本来であれば、其方そなたの様な者にはの様なほどこ

     を受ける権利はないが……【椒圖しょうず】の継承者けいしょうしゃならば話は別だ。


☆祈里待:……どうも。


☆祈里待M:感じわるっ!!


☆祈里待:そういえば!! アイツは無事なんですか?


▽壱宣瀬:アイツ?


☆祈里待:継承けいしょうで戦った……えーっと……


▽壱宣瀬:あぁ、㐂那屋敷きなやしきの事か。

     あの者ならば心配する必要はない。

     しばらく休養をとれば、元にもどる。


☆祈里待:そうか……良かった……


▽壱宣瀬:殺そうとした者を心配するのか? 変わった考えを持つ者だ。


☆祈里待:そりゃあ、そうですけど……でも、誰だって好きでヒトを

     殺したくないでしょう?


▽壱宣瀬:…………。


☆祈里待:それに、あの人は【竜生九子りゅうせいきゅうし】なんですよね?

     だったら、このくにを守る存在だ。

     尚更なおさら、無事であって欲しい。


▽壱宣瀬:……戦いに身を投じる者の発言とは思えないな。


☆祈里待:壱宣瀬いちのせ様は、仲間の事が心配じゃないんですか?


▽壱宣瀬:其方そなたのことを知るのは……少々時間がかかりそうだな……


☆祈里待:出て行っちまった……



(間)



□纏:おっ!


▽壱宣瀬:…………。


〇桔梗:ご、ごきげんよう。


□纏:オレにボコボコにされたはかりさんじゃないですか~!!


〇桔梗:姉上あねうえ!!


▽壱宣瀬:はぁ……


□纏:随分ずいぶんとうんざりとした表情かおをしておりますな~?


▽壱宣瀬:お前だけならば……


□纏:んっ?


▽壱宣瀬:お前だけならば、こんなに悩まなくても済むのにな。


□纏:あっ? ははーん、なるほど……みなとだな?


▽壱宣瀬:……あの者を理解することはなかなか難しい。


□纏:緋真ひさなのことを思い出すだろ? アイツを見ていると。


▽壱宣瀬:其方そなたと同じ考えに至るのは不愉快ふゆかい極まりないな。


□纏:そいつはどーも。

   そういえばよ、俺たちの処遇しょぐうはどうなるんだ?


▽壱宣瀬:んっ?


□纏:継承けいしょうの件についてはどういった罰則ばっそくが与えられるんだ?


〇桔梗:か、覚悟かくごはしております。


▽壱宣瀬:必要はない。


□纏:はっ?


▽壱宣瀬:此度こたびの件については不問ふもんだ。

     お前たちの行動は、きっと将軍しょうぐんおもしなのだろう。


□纏:けっ、お前も気付いていたのか。


▽壱宣瀬:それに――あの者のこういたわることで不問ふもんしょすことにした。


□纏:マジかよ、規則と法律で構成されているお前がそんなことを言うのか?

   驚きを通り越して、キモイわ。


〇桔梗:姉上あねうえは黙っていてください!!


▽壱宣瀬:まったく、私なりの気遣きづかいだということを理解できない

     というのは……やはり、お前はさる以下の知能だな。


□纏:うっせ! おとといきやがれー!!

   行くぞ! 桔梗ききょう!!


〇桔梗:あぁ、もう! 姉上あねうえったら……あ、あの!


▽壱宣瀬:なんだ?


〇桔梗:ありがとうございました!


▽壱宣瀬:……ふぅ、其方はあの者のあるじだったな。


〇桔梗:はい。


▽壱宣瀬:其方そなたにとってあの者はなんなんだ? 部下か? 友人か?


〇桔梗:いいえ、そのどちらでもありません。


▽壱宣瀬:では、なんだ?


〇桔梗:『誇り』です。

     彼は、守るべき『誇り』です。


▽壱宣瀬:――そうか、全く姉妹そろってがたいな。



【シーン11】


☆祈里待:これが【椒圖しょうず】の刀……力の証……

     俺は本当に【竜生九子りゅうせいきゅうし】になったのか……うーん、実感できない!


△竜宮:そうじゃろうな。


☆祈里待:そうそう――えっ?


△竜宮:元気そうじゃな、祈里待いのりまち


☆祈里待:うぇ!? 将軍しょうぐん様!! すいません!!


△竜宮:其方そなた療養りょうよう中の身じゃ。

    おもてをあげよ。


☆祈里待:あ、ありがとうございます!


△竜宮:のう、祈里待いのりまち……お主に聞きたい事があるんじゃが……よいか?


☆祈里待:喜んで、なんでしょうか?


△竜宮:緋真ひさなを……いや、前任者の者をどのように感じた?


☆祈里待:……不思議なヒトでした。


△竜宮:不思議?


☆祈里待:懐かしい感じがしたんです。

     なんていうか、その……家族? みたいな。

     とは言っても、本当の家族を知らないんですけどね!


△竜宮:本当の家族を知らない?


☆祈里待:自分は元々戦災孤児せんさいこじだったんです。

     でも、何故だがおかしいんです。

     母親の顔をなぜか思い出せないんです、なんかぽっかりと

     空いてしまったかのように。

     ひとりぼっちになった俺を、祈里待いのりまちの人が受け入れてくれて、

     それで色々とあって今は八芭螺はばら家にお世話になっているんです。


△竜宮:そうか……そうなのだな。

    突然の訪問、すまないな。

    わらわはここで失礼しよう、ゆっくりと休むが良い。

    お前にはこれからも十分働いてもらわないと困るからな。


☆祈里待:あ、あの……将軍しょうぐん様……


△竜宮:んっ?


☆祈里待:お願いしたい事があるんです。


△竜宮:なんじゃ? ひとつだけ何でもかなえてやろう。


☆祈里待:実は――



(間)



△竜宮:ふぅ……んっ?


〇桔梗:あっ!

    天子てんし様! 失礼しました!!


△竜宮:八芭螺はばら姫君ひめぎみよ……お主は幸せ者じゃな。


〇桔梗:えっ?


△竜宮:フフフ、じきにわかる。

    その時までの楽しみにとっておけ。


〇桔梗:どういうことだろう……?



(間)



△竜宮:まったく、おもしろい奴じゃ……あの若者は……

    其方そなたにソックリだ、緋真ひさな

    ――だから言ったのじゃな……「キミシニタモウコトナカレ」、と。



(END)

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