第13話 深夜の不審者


 夜が深まり、日付が翌日になろうとする頃、静かな寮の中で異変が起きた。

 

 「外、外に、変な格好をした人が……!」


 寮の目の前にある大学構内へと続く道に、狐の面を被った不審な人物を目撃した

寮生が叫ぶと、周りの寮生たちも一斉に彼女が指さす方向に視線を向けた。もう深夜だというのに、既に夏季休暇に入ったこともあって声を潜めながらも休憩室でおしゃべりに華を咲かせていたグループだ。


 「……本当だ! あれ、あの人!」


 目立つ特徴なので、周囲の学生たちもすぐに確認できた。

 狐の面を被った異様な男が、一人暗闇の中に立ってこちら――寮の方向をじっと

見ている。 


「早く寮監先生に……!」


「でももう夜遅いし……」


「……そんなこと言っている場合? ほら、最近も1年生の子が変な人に狙われて

いたって……」


 学生たちは口々にささやき合うものの、短くない寮生活の賜物か、大声を

出す者はいない。小さな声で次々と提案が上がる。

 しかし今が深夜0時を回った遅い時間なせいで、行動が制約されてしまう。 


「あの……とりあえず一斉メールで、皆に周知しませんか? もう眠っている人は

見なくて済みますし、起きている人にも警告することができますから。寮監先生には、私から不審者の情報を伝えておきます」


 すると最初に不審者を発見した学生がおずおずとこう提案すると、その場で騒いでいた寮生たち全員が一瞬静まり思案したうえで納得し、めでたく意見が一致した。 

  

 そこで3年生の寮生がすぐに一斉メールを送信するのを見届けると、自室の戸締りをするよう念を押して、その場は解散となった。

 その場にいた寮生たちの中の一人が寮監先生に伝えに行くと、廊下を駆け出して

いく。


 それを見守りながら自室に向かっていた寮生がぽつりと言った。

 

 「あれ? あの子って……」

 

 先ほどまでの密やかながらも楽しかった夜が、得体のしれない不気味な予感へと

変貌していく。

 自室へと向かう寮生たちの足取りは、緊張と不安で自然と速足になっていった。

 

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