第8話

「財布を盗もうとしたのか?」

「違います! 返そうとしたんです!」


 生徒指導室でも、声を荒げたのは葉佑だった。和希はその横で、黙って座っている。

 教師はそんな和希を、疑っている様子だった。


「正人は、持ち逃げしようとしたって言ってたぞ」


 和希は教師も葉佑も見ることはなく、黙って視線を下ろした。教師の質問に返事をする素振りもない。

 落ち込む和希に葉佑も覇気を削がれたようで、肩を落とした。


「届けに、行こうとしたんです。誰のか、分からなかったから」


 葉佑の返答に、教師は和希を見た。

 何が起こったのか知らない葉佑の庇い立てにも、和希が反応することはない。


「そうなのか?」


 静かな問いに気づくまで、和希は数秒を要した。


「…はい」


 顔を上げると促されるままに、和希は頷いた。教師は不信感を拭えないようだったが、葉佑は喜びに


「じゃあ、誤解なんだな?」

「はい!」


 元気に答えたのは、やはり葉佑の方だった。


「次からは気を付けろよ。和希も、いいな?」

「……はい」


 教師に促されて、和希はなんとか返事をした。


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