第9話


「調子悪かった?」


 生徒指導室から少し歩いたところで、葉佑が和希の顔色を伺いながら聞いた。

 それでも和希はなにも答えない。


「なんで何も言わないんだよ」


 早歩きで質問をかわそうとする和希に、葉佑はついて歩く。


「和希なにも悪くないのに。なにも言わなきゃ、悪者にされるんだぞ」


 さらに歩幅を小さくして、和希は歩みを早めた。

 そんな和希に置いていかれまいとしてか、必死に食らいつく葉佑に、和希は神経を尖らせていた。


「説明できないにしてもさ。なにか言わなきゃ、悪気がないこと伝わらないんだからさ」


 和希の横に、葉佑が並ぶ。しかしその瞬間、和希は足を止めた。

 

「だって、誰も信じてくれないじゃないか」

「そりゃ、超能力のことは、誰も信じてくれないかもだけど」


 続く葉佑の言葉に、和希の顔は更に深く俯いた。


「違う」


 顔を上げた和希が見たのは、葉佑ではなかった。

 目に涙を浮かべて、何かを訴えている。


「超能力なんか、持ってない」

「は? じゃあなんで、落とした人、分かるんだよ」


 葉佑の問いかけに、和希は唇を噛み締めた。

 そして何かを振り払うように、顔を背ける。


「お前に、関係ない」


 踵を返す和希に、葉佑は呆然としていた。


「関係ないって、なんだよ。」


 葉佑の呟きは、きっと和希の耳には届いてない。

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