第7話


 大声につられて振り返った和希は、何が起こったか見定めるように、立ちすくんでいた。


「返せ!」


 胸ぐらを掴まれてか、大声に驚いたのか。和希は微動だにせず、怒り狂う彼の目をただ見ていた。

 

「違うよ! 盗もうとしたんじゃない! 返そうとしたんだ!」


 葉佑は彼の怒気をものともせず、和希と彼の間に割って入った。そんな葉佑の態度に、彼はさらに怒りを募らせた。


「お前、どっちの味方だよ!」

「味方とか、今、そんなこと関係ないだろ!」

「あるだろ! こいつ、俺の財布を盗もうとしたんだぞ!」


 目前で行われる言い争いにも、和希は動くことができない。


「だから、違うんだって!」

「何が違うんだよ! 他人の財布もって、逃げようとしただろ!」


 庇おうとする葉佑の顔も見ようとせず、胸ぐらを掴む彼の言葉に言い返すこともせず。和希はただ見つめて、愕然として、手にしていた財布を落とした。


「おい! なにしてるんだ!」


 騒ぎを収めたのは、飛んできた教師だった。


 

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