第6話

「今日も図書館行くの?」

「関係ないだろ」


 あれから数日経っても、和希は葉佑の名前を呼ぼうとはしなかった。


「まあね。でも、俺も暇だからさ」

「本も読まないのに図書室に来るな」


 それでも葉佑は懲りずに和希についてきては、図書館で暇そうに時間を潰していた。


「じゃあさ、おすすめの本教えてよ。できれば読みやすくて、薄いやつ」

「自分で探せ」

「本好きに聞いた方が早いし、面白い本知ってそうじゃん? てか知ってるでしょ? 教えてよ、面白かった本」


 和希は相変わらず煩わしそうにしているけれど、以前より続くようになった会話に、葉佑はどこか嬉しそうだった。


「絵本でも読んでたら良いだろ」

「小学校じゃないんだから、絵本おいてないだろ。放課後遅くまで居るのに、そんなことも知らないのかよ」


 相手に合わせて、何かを試そうとするのは、良いことだと思う。それだけ相手に興味があるということだと思うから。葉佑は少し、しつこいかもしれないけど。

 和希みたいな寡黙な人には、きっと、それくらいお節介な方が丁度いい。


「また、見つけたの?」

「そうだな」


 和希は紺色のお財布を拾った。和希は言われるがまま、踵を返す。


「あれ? それって」


 和希が背を向けた方を見て葉佑が声をあげたが、和希は気にもとめない。

 

「財布がねぇ!」

「なに、落とした? もしかして」

「嘘だろ。どこで落としたんだ?」


 騒ぎだす2人の顔に、見覚えがあった。以前、葉佑と賑やかに喋っていた友達だ。

 彼らは葉佑を見つけ、そして和希を捉えた。同時に、和希が手にした彼の財布を見つけた。

 

「お前、それ俺の財布……。盗んだな!」

 

 恰幅のいい葉佑の友達の声は廊下中に響いて、みんなの視線を集めた。

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