第2話

 どうやら彼は、和希をつけることにしたらしい。


「ねえ、なんで分かったの?」

「何が」

「今の。あいつのだって」


 和希が落とし物を生徒に届けたのを見て、彼は和希の横にしゃしゃり出た。

 彼の質問にかずきは黙り込むと、訝しむように眉根を寄せた。


「……見てたんだ。落としたところ」


 和希が絞り出した答えは、まあ、ありきたりで当たり前の答えだろう。


「嘘だ。見てなかっただろ」

「見てたんだ」

「嘘だ。あっち見てたじゃん! 外! なに見てたか知らないけど」


 そんなところまで観察していてのかと関心している様子は和希にはなく、さらに眉間のシワを深くして彼から視線をそらした。


「見てない」

「やっぱ、見てないんじゃん!」

「そっちの話じゃない」


 和希は自分の失言に気づいて、手で口を抑えた。そして少し視線を彷徨わせた。


「…お前が、見てなかったんだろ。落としたところ」


 苦しい言い訳でも、どうやら彼を少しは納得させることができたようで、彼がこれ以上追従することはなかった。

 彼は反論も何もせず、和希の横をついて歩く。


「あ、飛行機雲。そういや、知ってる? 飛行機雲で天気が分かるんだって」

「知らない」


 横を歩く彼をあしらいたくて仕方ないようで、愛想なく和希は返した。


「すぐ消えると晴れ。ずっと残ってると雨なんだって。今日は晴れだ。良かったね」


 そんな和希の様子も意に介さず、彼は構わず話しかけたけれど、和希は空を見上げることもなく、彼の言葉に足を止めることもなく、去っていった。

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