青の軌道~ベストフレンドフォーエバー~

巴瀬 比紗乃

第1話


「ねえ、なんであいつ、分かったんだろ?」


 気がつけば、教室にいた少年が、和希のことを指さしていた。


「いきなり、なんだよ」

「だから、あいつ。今、落ちたところ見てたなかったのに、届けてたろ。落とし物、あの女子に」

「なんの話してんだ?」

「分かんね。お前、なに言ってんの?」


 少年と楽しそうに話していた生徒たちまで、廊下に顔をつきだして、和希を確認した。

 彼らの視線の先で、和希はいつものように、落とし物を持ち主に届けていた。今日の落とし物は、淡いピンクのハンカチだ。


「見てたから、渡したんだろ」

「いやいや、見てなかったって!」

「テキトーなんじゃね?」

「でも、あの女子のじゃん。ほら!」


 廊下でしどろもどな会話をしている和希と女子生徒2人組を、少年は盛大な素振りで指し示した。

 

「てか、なんでお前、そんな見てんの? まさか、あの女子、好きなの?」

「まじで? どれだよ! 名前は?」

「違うって! 知らないし! たまたま見てたんだ! 女子の方じゃなくて!」

「ヨースケ、まさかお前、男をストーカーしてんの?」

「気色わり」

「だから違うって!」


 言い合う彼らに和希が気づくことはなく、廊下を曲がった。その手には、週末に読み終わった本。

 今日も図書館に行くようだ。

 

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