第12話

「第二王子殿下」

「はじめまして、フロレス侯爵夫人」

「はじめまして。第二王子殿下も余裕でございますね。妻が他の男に縋るような視線を向けて追いかけて行ったというのに」

「結婚三年目ともなるとお互いの嫌な部分が見えてくる」

「あら、私はもうしっかりはっきり夫の嫌な部分は見えております」

「それは私の目が悪いと言いたいのか」

「殿下は妃殿下に恋をしていらっしゃったと言いたいのです」


 ミラベルの淡々とした返事に第二王子は面白そうに笑った。

 三カ月や三年のタイミングって冷めやすいというもの。


「少ししか話していないが、君は頭が良さそうだ」

「性格がひねくれていて、生きていくのに遠慮がないだけです」

「あぁ、夫があんなだからかい?」

「大恋愛の末に結婚されたのに、妻を制御しない方が目の前にいらっしゃるからでしょうか。結婚に希望がもてそうにありません」


 ギルバートも悪魔が認めるほどのイケメンであるが、第二王子殿下ももちろんイケメンである。第二王子殿下の方がまばゆく濃い金髪をお持ちだが。

 あとでフィッツロイにイケメンだと思うか聞いてみよう。あ、でも視覚共有はできないかしら。


 第二王子妃はギルバートとあともう二人とこちらの王子を天秤にかけ続け、結局最後に選ばれたのは王族である第二王子でした、という話だ。四人とも見目麗しいことで有名だったし。


「一年目は可愛かった」

「唐突な惚気ですか」

「競争に勝ち抜いた優越感もあった」

「競走馬みたいな言い方でございますね」


 かなり失礼なことをミラベルは言っているのに、第二王子は楽しそうに口角を上げて話を続ける。


「二年半ばくらいになると段々魔法が解けてきた」

「そこだけロマンチックな言い方はやめてください」

「一年目には気にならなかったことが二年目を過ぎると気になり始める。正直、あのくらいの仕事はできてもらわないと私に回って来て困る」

「ウワサは本当なのですね」


 第二王子はミラベルに仲間意識でも抱いているつもりなのかいろいろ話してくるので、ウンザリする。


「結婚したい方と結婚できたのは奇跡なのですから、お仕事は殿下がやったらいいのではありませんか。睡眠時間を削って」

「何の役にも立たない見てくれだけがいい女を血税で養うほど王族は甘くない」


 いや、いいこと言ってる風だけどそういう女を殿下が選んだんじゃない?


「置物は綺麗な方がいいですよ。美しいということは素晴らしいことです。彼女がニコニコ手を振るだけで喜ぶ人もいるでしょう」


 第二王子は斜め上から私をじっと見てくる。


「君は面白い女だな」

「いいえ、私は報われない女です。男性が大嫌いな部類の。あ、妃殿下がお戻りですよ。今度はしっかり捕まえておいてくださいませ。愛した女性なのでしょう?」


 王族が絡む色恋沙汰は面倒だ。突き抜けて面倒。

 そもそも結婚前のことで私を巻き込まないで欲しい。あぁもう、こんなパーティーからさっさと帰ってフィッツロイと喋りたい。


 第二王子妃がこちらに近付いてくるのを見て、ミラベルは頭を下げてさっさとその場を後にした。


「おかしいな。彼女からは禍々しい気を感じるのに」


 第二王子のその呟きはミラベルの耳には届かなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

鏡の中のあなた~私は報われない女ですので~ 頼爾 @Raiji

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ