第7話 両面宿儺 完

廃病院の階段を上がって行った。

たどり着いたのは3階。


一番上の階だった。


上がった瞬間に分かった。


「やばいなこれ」


空気が変わった。


なんというか今までちょっと怖い場所、みたいな雰囲気だったのが明らかにやばいと分かるような雰囲気になった。


「やばいねここ」


あーちゃんの顔色も変わってた。


"先輩がヤバいって言ってる?!"

"単独行動切り出してきたあの先輩が?!"


俺はメリーさんを見た。


ピコン。

アホ毛が特定の方向を示した。


「あっちからなにか来ますよ」


そっちを見た瞬間その、なにかというのがなにかが分かった。

で、俺はそれを見て呟いた。


「お、オルトロス……?」


そこにいたのは二つ首の犬の化け物。


胴体から首がふたつ生えて2つの頭があった。


ひたっ。

ひたっ。


近付いてくるオルトロス。


「戦闘準備」


チャッ。

日本刀を構えるあーちゃん。


そう言われて俺はどうしようか迷った。


(お、俺も日本刀握った方がいいのかな?)


委員会から日本刀は貰ってるし、メリーさんに持たせてるんだけど。


「はい」


ニコニコの笑顔で日本刀を渡してくるメリーさん。


受け取ってみた。


(おもっ)


そう思いながら俺はオルトロスに目を戻した。

その瞬間だった。


たっタッタッタッ。

オルトロスが走ってきた。


「私が先に出る」


日本刀を構えて前に出たあーちゃん。


次の瞬間。

オルトロスに吹き飛ばされた。


「やばい、これ。ユラリン。撤退するよ?!2人じゃむりだ!」


そう言って走っていこうとするあーちゃん。

だったけど、俺のすぐ側に既にオルトロスの首があった。


「う、うわっ?!」


ビックリして俺は思わず反射的に手を出した。


ブン!

右手で殴った。


この前八尺様をぶん殴ったときのように。

すると


シュぅぅぅぅぅぅぅぅ……。


オルトロスは煙のように消えた。


「えっ?」


キョトン。

それを見て驚いたような顔をするあーちゃん。

俺も何がなんだか分からなかった。


でも、コメント欄の流れは加速した。


"終わり?"

"消えてったよな今"

"草"

"ワンパンやんけ"


俺は今オルトロスがいた方をじーっと見ていた。


たしかにいたはずなのに、俺が殴った瞬間蒸発するように消えた。


「ありゃま?」


あーちゃんに目をやった。


「倒したんだよな?」


俺はあーちゃんに聞いてみた。


「え、うん。倒してるはずだけど」


俺はその言葉を聞いて頷いた。


「だ、だよな?」


なんとも言えないような空気が流れた。


めっちゃ強そうなオルトロスだっただけに俺のワンパンで消えたのがなんともシュールな空気を作っていたのだ。


しかし、そんな中でもあーちゃんは口を開いた。


「両面宿儺の箱、早く回収に行こ。そこまでが仕事だからさ」


そう言ったあーちゃんに俺はついて行く。

とある病室にそれはあった。


"あれじゃね?あの箱が両面宿儺を入れてた箱だろ?"

"うわー不気味ー"


俺はメリーさんに言った。


「あの箱は映さないで。あんまりいい物が入ってると思わないからさ」


こくっと頷いたメリーさん。


俺は中身を確認するために近寄ってみた。

すると中には案の定両面宿儺のミイラが入っていた。


しかし、それは壊れていた。


それを見てあーちゃんが口を開いた。


「こういうタイプの怪異はさ。本体を倒すと壊れるんだよね。私たちは怪異が宿る【御神体】って呼んでるけど」


そう言いながらあーちゃんは箱の中に手を突っ込んでガサガサしていた。

その時に気付いた。


「この箱さ。底が上がってる?」


俺がそう聞くと頷いたあーちゃん。


「上がってるね」


ゴソゴソ。


カタン。


あーちゃんが箱の中を漁ってると分かったことがある。

この箱2段になってた。


上に両面宿儺が入っていて、下には


「【双頭の犬】、ね。ほんと趣味が悪いよね」


俺たちがさっき見たオルトロスのミイラが入ってた。


そこまで確認してからあーちゃんは箱を閉じた。


「よし、持って帰ろっか。んしょ」


箱を抱えたあーちゃん。


これが両面宿儺の真実だったらしい。

二体分の怪異の気配。


あーちゃんがそう言った謎も溶けた。



両面宿儺を寺に返して俺は帰路に着いてた。


なにはともあれ初めての仕事が終わった。


"おつかれーユラリン"

"なんか疲れてる感じだな"


「ん、あぁ。さすがにさ。めっちゃ疲れたよ」


後部座席ではあーちゃんが横になって寝てた。

あーちゃんも疲れてるらしい。


「なんか変に体力使うなほんと」


"www"

"まぁ、あんなの相手にしてたら疲れるよな"

"オルトロスかぁ。モンスターみたいだったなぁ"

"これからもあんなんと素手で戦うと考えたら笑えてくるな"

"日本の除霊師は素手で戦うからな"

"パンチング除霊"


それにしてもまさか自分が物理で除霊することになるなんて思わなかったな。


「世界の裏側ではこんなことしてる人がいたんだなぁ」


"お前もその一員になるんだよっ!"


「ははっ。ちがいないな」


俺はそう言いながら運転を続ける。


もう日も暮れ始めた高速。

周りを走る車なんてチラホラ程度だけどそれでも安全運転のために周囲を見ていた。


だがなーんもなし。

そう思って俺は前に目を戻したところだった。


"ユラリンうしろ"

"うしろからなんかきててワロタ"


「ん?」


ミラーで後ろを見ると。


ズダダダダダダダダダダ!!!!!


後方からなんか走ってきてた。


「おいおいおい、またなんかきてんのかよ」


そうしてミラーを見てみると。

満点の笑みを浮かべたババアなことに気づいた。


"ターボババアってやつか?"

"またなんか追われてるよこの人"


「はぁ……疲れてんだよなぁ」


そう思いながら俺はリスナーに聞いてみることにした。


「振り切ってみていい?」


"やってみようぜ!"


そのコメントで俺はアクセルを踏み込んだ。


そんなことで俺の1日目は終わっていく。

次はどんな場所に行けるかな?

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底辺心霊系配信者の俺、コトリバコで八尺様をぶん殴って倒したらネット上でSSS除霊師とか呼ばれてバズった にこん @nicon

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