第6話 突入

翌日廃病院にやってきた。

朝早いけど。


「めっちゃ太陽出てるけど怪異くんはまだいるの?」


怪異とかお化けって夜に出るイメージあるんだけど、そう思ってあーちゃんに聞いてみたんだけど。


「あー。普通にいるよ。入ったら理由が分かると思う」


そう言ってるあーちゃん。


コメント欄も俺と似たようなことを考えている人が多かったのかこんなコメントがあった。


"日中から怪異って活動するんだなぁ"

"俺より健康的な生活してるじゃん"


うんうん。

そんなコメントを見て俺も呟いた。


「俺よりも健康的な生活してるよな怪異くん」


"www"

"ユラリン不健康な生活してんのかよwww"


俺がそうやってリスナーとコミュニケーションを取っている間もあーちゃんはどんどん進んでいく。


はぐれないようについて行く。


(それにしても暑いな。汗が止まらん)


今は夏真っ只中。


当たり前と言えば当たり前だ。

だからこそ廃病院の方は暗がりで涼しそうだった。


やがて俺たちは廃病院に入った。

その瞬間だった。


ゾクッ!


背筋が凍るような感覚。


(やばいぞ。ここ)


俺は霊感がそこまで強い方じゃない。

でも、それでもここはやばいって分かった。


コメント欄もザワつく。


"え?ここやばい"

"待って。今人の声聞こえたんだけど『出ていけ』って"

"やめろって。ガチでこええよ"


コメント欄はそんなコメントで埋め尽くされる。


そのとき前を歩いてたあーちゃんが振り向いた。


「どこから何が出てくるか分からないから気をつけてね」


いつも陽気そうな雰囲気のあーちゃんの顔が鋭くなった。

どうやら仕事モードに入ったらしい。

ゴクッ。


(まるで上司だな。そんな感じだ)


でも今までに出会った年だけ重ねたような人じゃなくて、頼りになりそうな上司。


「そう。ひとつ言っておくねユラリン。怪異を前にしてもパニックにならないでね」


俺はそんなあーちゃんに言った。


「急に先輩っぽい態度とるね」

「そう?でも、私先輩だもん」


そう言って廃病院の中を歩いていく。


はぁ


「あちぃんだけどさ。でも……妙に寒いんだよなここ」


そう言いながら俺も歩いていく。

その時だった。


『出ていけぇ……』


声が聞こえた。


はっきりと。


"今聞こえたよね?!"

"ばっちり聞こえたわ!やばいぞここなんかいるわ!"

"両面宿儺かな?"


俺はあーちゃんを見るとあーちゃんも俺を見ていた。


「場所の特定ができてない。二手に分かれて探そう」


そう言ってきた。


コメント欄に目をやると流れが加速する。


"ホラーで単独行動は死亡フラグなんだよなぁ"

"ふたりでいけ"

"あー。単独行動したら死ぬわ"


(うん。俺もそう思う)


ので、あーちゃんを見て言った。


「ふたりで行かないの?俺初心者だよ?」

「こんな広い病院を隅々まで見て回るの?」


ふっと笑ってメスガキみたいな顔してこう言ってくるあーちゃん。


「それとももしかして怖いのー?大人なのにー?」

「べ、別にそうじゃねーけど?」

「そっ。なら効率よくいこうよ。二手に別れた方が早いよ」


そう言って歩いていこうとするあーちゃん。

一瞬振り返ってこう言ってきた。


「それにユラリンにはカメラマンがいるじゃん?役に立つのかわかんないけど」


そう言ってメリーさんを見てから、ひとりで歩いていってしまった。


これは……


"行くしかねぇなぁ?!"

"ユラリンはひとりじゃない!俺らがいる!"


ため息を吐いて俺は頷いた。


それからメリーさんに目をやって先を促す。


「仕方ない。行こっか」


こくっと頷いたメリーさんだった。


「ってか暗いな」


ポケットからペンライトを取りだした。


筋肉さんから必要だろうって渡されたもの。

市販されてるような物じゃなくて、こういう用途に特化したちょー強力なライトだって聞いた。


まぁ実際その通りで


「結構遠くまで照らせるなぁこれ」


まるで車のハイビームみたいに通路を照らしてた。


"くっそ明るくて草"

"明るすぎやろこれwww"

"ホラー感一気に薄まったな"


俺も思っていたことをコメント欄が代弁してくれてた。

いやー、あかり1本で人間の気持ちってだいぶ楽になるよな。


そう思いながら俺はメリーさんに聞いてみる。


「メリーさん、両面宿儺の場所とか分からないの?同じ怪異なんでしょ?」


そう聞いてみると髪の毛が一本アホ毛みたいに立って。


「あっち」


ピョコンと折れ曲がってひとつの方角を示していた。


「おー。便利な機能だなぁ。やるじゃん」


そう言ってメリーさんを褒めてやると、嬉しそうな顔をしていた。

どうやら怪異にも気持ちというものがあるらしいな。


メリーさんが示した方向に歩いていくと階段があった。


「登るの?」


こくっ。

頷いたメリーさんの顔を見て俺は登り始めた。


で、階段の踊り場までついた時、窓に目を向けた。


"なんか窓の外から音聞こえない?"

"ほんとだ。なんか音聞こえる"

"なんか、金属音みたいな?"


コメント欄のそんな言葉を見て俺は窓際に寄って外に目を向けた。


そこからは中庭を見下ろせて。


「ウガァアァァアァァアァァァ!!!!!!」


化け物だ。

この前別のチャンネルで見たのと同じ化け物が庭にいて、


「せいっ!」


あーちゃんがさっそく戦ってた。


ずばっ!

ブシャッ!


あーちゃんが日本刀を振り回している光景が見えた。

それで、しばらくすると。


ズゥゥゥゥゥン。


両面宿儺が倒れた。


「あの子つっよ。てかマジで日本刀で斬り殺せるんだ、怪異って」


"草"

"怪異って物理で殴り殺せるんすね"

"見たか?世界。これが日本の除霊師だ。怪異は物理でぶん殴るんだよ!"


俺がそうして窓からあーちゃんを見下ろしてるとあーちゃんは俺に気付いたのか。


シュッ。


ジャンプしてきた。


んで、窓から中に入ってきた。


「すげぇ、除霊師ってジャンプ力もすげぇんだな!」


"お経を捨てて筋肉を選んだんだよね。日本の除霊師は"

"やっぱお経って糞だわ。筋肉はすべてを解決するんだよね"


そんなコメントを聞いてあーちゃんは呟いた。


「終わったよ。帰ろっか」


って、あーちゃんは言ってるけど。


俺はまだ寒さを感じてた。


「まだ寒いんだけど、ほんとに終わったの?」

「そう?私は何も感じないけど。ビビってるだけじゃないのぉ?」


あーちゃんはそう言ってる。


(俺がビビってんのか?)


ってそう思いながら物部天獄の手記を取り出した。


そこにはこう書いてあった。



〇月× 日


試作機の方が最高だった。

村が滅んだ。集落が滅んだ。

それは見た目通り、獰猛な獣だった。


その後にニンゲンで作った両面宿儺ははっきり言って駄作だった。

試作機の半分も力を持っていない。


あー。私は試作機に名をやろう。

【□□□□】、と。




ところどころ、ってか大事なところが掠れてた。


昨日これを読んだんだけど気になってた。


「なぁ、あーちゃん」

「ん?」

「最初気配を探知した時2体分の気配があるって言ってたよね?」


俺は考えられる可能性を口にした。


「両面宿儺ってこれ、2体いるんじゃないのか?」

「まさか。オカルト詳しいんじゃないの?ユラリン。ネットにある情報だって、1体だよ?両面宿儺は」


あーちゃんがそう言った時だった。


「グル……グルルルルルル……」


"今なんか聞こえなかった?犬みたいな、狼みたいな"

"あー。これユラリンの考え合ってたパターンでは?"


俺は頷いてあーちゃんを見て言った。


「まだなにかいるよね。この廃病院に」


あーちゃんは驚いたような顔をしてこう言った。


「私でもその事に気付かなかったのに。ユラリンはすごいよね。危なかった。助けられたよこれは」






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