第5話 両面宿儺

俺は東郷さんを乗せて車で高速を走っていた。

後ろに東郷さん。


助手席にメリーさんを載せてた。


「そういえばいざ怪異が出てきた時どうやって戦えばいいの?」


俺は東郷さんにそう聞いてみた。


うん。

前は箱で八尺様ぶん殴ったけど、怪異退治ってそういうものでいいんだろうか?


「物理攻撃」


東郷さんはそう答えてきた。

動揺する。


「え?」

「殴る。蹴る。叩く。斬る。撃つ」

「お経とか唱えるんじゃないの?」

「ぶぶー。物理攻撃ですー」


ということらしい。


そうなのか。怪異もぶん殴れば倒せちまうんだな。


知らなかった。

でもそう思うとなんだか少し安心するよな。

だって、筋肉さんみたいにムキムキだと怪異も倒せちまうんだもんな。


そのときチラッと俺は東郷さんが右手で握っているものに目をやった。


「それ、日本刀?」

「そっ。日本刀。これですぱーんって化け物を斬るの」

「おぉ……」


そのときコメントが読み上げソフトによって読み上げられた。


"すげぇ。怪異に物理攻撃なんて通じるんだ"

"ユラリンも八尺様ぶん殴ってたしなぁ。やっぱ効くんだ"


と、そんなコメントが読み上げられてからメリーさんが口を開いた。


「私メリーさん。そろそろ目的地です。右手に見えるのがそうですね。拓也、そこを右に曲がってください」


そう言われて俺はブレーキを踏んだ。

右に目をやると


"おぉ、お寺じゃん"

"両面宿儺といえば寺だもんな"

"ちなみにここなんていうお寺?"


俺は答えた。


「T寺だってさ」


"あ、教えてはくれないのね"


俺はコメントに答えた。


「一応場所は伏せて欲しい、ということらしいからさ」


そう答えながら俺は神社の境内に向けて車を走らせて言った。


中に止めれるスペースがあるらしいということは聞いているのでそこまで移動させてから駐車した。


車を降りる。


ザッザッザッ。


砂利を踏む足音。

そちらに目を向けると住職が立っていた。


「ようこそ来てくださいました委員会の人達。歓迎しますよ。ささっ、こちらへ」


そう言って住職は歩いていく。


それについて行きながら俺は東郷さんに話しかけた。


「東郷さん、ここ寒くない?」


そう聞くとあはは、と笑った東郷さん。


「なに、その東郷さんって。私年下だけど、綾子って呼んでよ。呼びにくいなら"あーちゃん"でもいいよ。ニックネームだからさ」

「分かった。あーちゃんね」


俺がそう答えるとやっと質問に答えてくれたあーちゃん。


「ユラリンは初めてだから慣れてないと思うけどさ。このジメリとした寒さって言うの?これはさ。怪異の証だよ」


俺はゴクッと息を飲み込んだ。


怪異、やっぱいるんだな。この付近には。


「慣れると寒さで何体怪異がいるのか分かるようになるよ」

「おー。さすがあーちゃん先輩。ちなみにだいたい何体いるの?1体?」

「2体かな。リョウメンスクナって結合双生児だったみたいだからそれで2体分の反応が出てるんだと思う」


2体、ねぇ。


実際のリョウメンスクナっていうのもネットの情報通りらしいな。


そう思いながら歩いてたらやがて俺たちは本殿に通された。


そこで住職は本殿の奥の奥にある部屋まで俺たちを連れて行ってくれた。

そこには地下に通じる階段があった。


「すげぇ、厳重だなぁ」


俺が呟くとコメントが読み上げられていた。


"リョウメンスクナってそれだけやばいんだろうなぁ"

"ちゃんと厳重に保管してくれてるようでよかった"


なんてコメント。

それから俺たちは地下に入っていった。


階段を降り終わると目の前にはデカい金庫みたいな扉。

そこを開ける住職。


中に入ると台座みたいなのがあったんだけど、それを見て住職は顔を青ざめさせた。


「な、ない!ないぞ!」

「なにが?」


住職に聞いてみると慌てて戻ってきた住職はこう言った。


「リョウメンスクナ様を入れた棺がない!一昨日まではあったのに!」


俺とあーちゃんは顔を見合せた。


「か、代わりにこんなものが!」


そうして住職は俺たちに何かの紙を見せてきた。

その紙は最近用意されたもののようで比較的新しいもののように見えた。


目を通すと【タシバチャンネル】という動画配信者の名前が書いてあった。


住職はその言葉で検索すると俺が今配信に使ってる動画サイトが出てきて。

ライブ配信中だった。


再生を始める住職。


薄暗い部屋の中にいる3人の男がいた。


(どこかの建物にいるのか?)


仮面で顔を隠しておりその中のリーダーっぽい男が口を開いた。


『ここにパクってきたリョウメンスクナ様がいまーす。蓋を開けてみましょう。どんな顔してるのかなー?霊障?そんなもんあるわけないからwwwギャハハwww』


そうしてリョウメンスクナ様と書かれたフタを開けた男。

次の瞬間だった。


ブチッ!

ぐちゃぐちゃ!


男達が消えた。


首から上が一瞬で吹き飛ばされた。

そのせいで撮影機材が地面に落ちたけどかろうじて見えたものがある。


「う、うへぇ……なんだこりゃ」


のそのそと動く何かが暗闇の中で見えた。


それは2メートルくらいの双頭の人型。


『ウガァァァアァァアァァァアァァァア!!!!!!』


地の底から響くような叫び声。


バキャッ!

それから撮影機材を踏み潰したのか、映像が途絶えた。


「これがリョウメンスクナ?完全に化け物じゃんかこれモンスターじゃん。お化けじゃなくてモンスターだろこれ」


俺がそう呟くとあーちゃんは俺に声をかけてきた。


「あれがこのまま暴れ回るとやばいよ。討伐に向かわないとね」

「そ、そうだけど。あれどこにいるか分かるの?」


俺がそう聞くと住職が口を挟んできた。


「近くに廃病院があります。内装に見覚えがあったのですが、その廃病院だと思います」


と場所も教えてくれた。


"原作通りのやばい怪異のガバガバ管理すこ"

"厳重に保管してると思ったら盗まれてるのほんとすこ"


そんなコメントが流れていた。


見てる側はすごく楽しそうだけどさぁ、俺はあーちゃんに聞いてみた。


「あ、あーちゃん?」

「どうしたの?」

「あ、あれとゴリゴリの肉弾戦すんの?」


聞いてみると胸を張って答えてきた。


「当然じゃん。あれを物理で殴って除霊するのが私たちのお仕事なんですっ」

「ほげぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!無理だろ?!あんなの!」


俺、初めての仕事なんですけどぉぉぉぉぉぉ????


初めてのお仕事があれなんですかぁぁぁぁぁあ?!!!!


"八尺様に殴り勝ったんだろ?いけるいける"

"八尺様とはガタイからして違うんだよなぁ"

"八尺様より明らかにやばいだろあれwww"

"ユラリン死なないで!!!"

"次回!ユラリン死す!"

"勝手に殺すなwww"


そこで住職が口を挟んできた。


「もう日が暮れます。出発は明日のほうがいいでしょう。寝床は貸しますので」


俺はあーちゃんと相談して今日は泊めてもらうことにした。


そうして寝床に向かう時だった。

住職にあるものを渡された。


「両面宿儺の作成者の物部天獄の手記があります。お渡ししておきますね。なにか役に立つかもしれませんし」

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