13話 ロールプレイング①

 私たちは戸惑う桜井先生にエチュードの説明をしていく。

「大丈夫ですよ、難しいことは何もないですから」

「……俺はやるとは言ってないんだが」

「どうしてですか? 少しでも真相究明に役立つことなら、やらない選択肢なんてあります?」

 水瀬先輩がストレッチをしながら、チラリと横目で刺すように桜井先生を見やると、桜井先生の瞳孔も鋭くなった。

 間違いなく空気が剣呑になっているが、水瀬先輩は更に桜井先生を煽るように畳み掛けていく。

「私がもし、今回の事件みたいな台本で桜井先生のような美術部顧問の教師役を演じるとしたら、藁にも縋る思いでちょっと頭のおかしい演劇部の提案に必死に協力しますよ?」

 桜井先生の剣呑な視線に、ニッコリと笑いながら、水瀬先輩は続ける。

「だって、大事な生徒の為ですもん」

 私は「うわ~っ!!」っと叫びそうになるのをなんとかポーカーフェイスでやり過ごした。

 わざとらしいらしいにも、程がある。コレが少女漫画なら、間違いなく、瞳は二倍近く大きくなって星のハイライトが散らされ、背景にはマーガレットとかのお花が描かれているコマになっているハズだ。

 水瀬先輩の毒舌は止まらない。

「まあ、いま挙げた教師像は少々古かったかもしれませんね。この令和の世の中、他人のために身を削る余裕のある方のほうが珍しいでしょうしーー」

 このまま桜井先生と喧嘩したところで、協力はおろか情報すら手に入らなくなってしまうだけで利がない。

「ーー私たちのような小娘でも木暮先輩のために出来ることをしたいんです。協力して頂けますか?」

 私は二人の間に立って、桜井先生に頭を下げた。

 項に突き刺さる水瀬先輩の視線が痛かったが、どうでもいい。事を円滑に進めることが何よりも重要なのだ。

 程なくして、冷静さを取り戻した落ち着いた声で桜井先生が答えた。

「こちらこそよろしく頼む」

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