11話 美術部⑤
「どのくらい美術室を離れていたんですか?」
「三十分くらいだったと思う」
水瀬先輩の問いに桜井先生が答えた。
「三十分ーー、その間に誰かが美術室に侵入して、絵を壊して立ち去ったと」
水瀬先輩がチラリと視線を飛ばしてきた。
私は、我ながらわざとらしいと思いながらコホンと一つ咳払いをして桜井先生に尋ねた。
「ちょっと質問なんですが、三十分はコーヒー休憩にしては長すぎませんか?」
「結果に対して質問に来る部員がいるからコーヒー飲みながら準備室で待機してたんだ」
質問の後はだいたいそのまま進路相談になっていくらしい。
それが一人二人ではなく六割以上の部員がやってくるので、例年結果発表の日は美術準備室に籠もって終わるのが常であると桜井先生は言った。
水瀬先輩の視線がまた飛んでくる。
『揺さぶれ!』
目は口ほどに物を言うというが、この人は本当に人使いが荒い。
「三十分の間、部員の方は一人もいらっしゃらなかったんですか?」
「ああ、たぶん」
「たぶんというのは、どういう意味ですか?」
桜井先生はコホンと咳払いをした。
「……ヘッドホンで音楽を聞いてたんだ」
「……そうですか」
私は「そういう大事なことはもっと早く言わんかい!」と言いたいのを腹の底に沈めて、代わりに小さくため息をついた。
水瀬先輩を見やると、何が可笑しいのか、ニヤニヤとした笑みを堪えていた。
私の視線に気づくと、スッと笑みを消して真面目な顔になった。
「桜井先生、お話ありがとうございました。ところで、壊された絵を確認したいのですが」
「いや、それは、ちょっと」
桜井先生が言い淀む。
「ひょっとして、捨てたとか?」
「ははっ」
桜井先生が、「まさか」と笑いながら「木暮が持って行っちまったんだ」
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