10話 美術部④

 桜井先生から語られた美術部内の問題とは、作品の損壊だった。被害者はもちろん、今日消えてしまった木暮先輩であった。


 美術部ではオープンキャンパスで開く展覧会の為に部員たちは作品制作に励んでいて、先日、その講評が部内で行われたらしい。


 展覧会の展示は成績順になっていて、一位の作品は展覧会会場の一番良い場所に飾られる。来場する関係者もそれはわかっているので、皆一位の作品を見に行く。逆に言えば、その他の絵は見向きもされない。


 一番かそうでないかで、人間というのは恐ろしく態度が変わるのだ。


 講評結果の順位は、別日に美術部室に置かれたそれぞれの絵を載せたイーゼルに順位が書かれた紙を貼って知らされるのだが、その結果発表日に事件が起きた。


 木暮先輩の絵が損壊されたのだ。


 第一発見者は桜井先生だったそうだ。

 放課後、美術部室の鍵を開けた時には何も異変はなかった。


 講評結果の日は部内が荒れる。喜び、怒り、悲しみ、失望ーー美大に進むか否かをこの日に決める部員も少なくない。


 美大への推薦枠は限られているーーもちろん推薦でなくても一般受験することだって出来るが、芸術の世界の門戸は広くない。

 自分が選ばれる人間であるかどうかをハッキリさせるのがこの展覧会の講評なのだ。


 桜井先生は美術室にいるプレッシャーに耐えかねて、コーヒーを飲みに美術準備室に行った。

 そして、ーー事件は起きてしまった。

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