9話 美術部③
隣の美術準備室で美術部の顧問である桜井先生から話を聞くことができた。
突然の訪問者である私と水瀬先輩をもてなす気は毛頭ないらしく、椅子を勧められることもなく、立ち話になった。
黒縁眼鏡に長めの前髪、童顔で男性にしては少々小柄な桜井先生は水瀬先輩と並ぶと学生のように見える。
「最近、美術部で何か問題は起きていませんか?」
水瀬先輩が話を切り出した。
「どうしてそんなことを聞くんだ?」
「いや、年頃の女性が一人失踪している訳ですから、それなりの理由があるのだろうな、と。ただでさえ悩みの多い年頃ですし」
「木暮が悩んでるなんていうのは、ちょっと想像が出来ない」
「そうですか」
「悪いな、役に立てなくて」
桜井先生はこれで話を終わりにする気らしく、ドアへ向かって行く。先生がドアに手をかけた時、「あーあ」と、水瀬先輩の大きなため息が部屋に響いた。
「そうですね、先生が本当のことを話す気がないのなら、これ以上は時間の無駄です」
「なっ!」
桜井先生が驚き、振り返った。
「公に出来ない理由があるんですよね」
「……何の話だ?」
「人の口に戸は立てられないんですよ、桜井先生」
水瀬先輩は桜井先生の前に歩みを進め、ドン、と桜井先生越しにドアに右腕をついた。
「ひっ」
桜井先生が壁に背をつけて小さくなってしまった。
(可哀想に)
完全に猫と捕まったネズミの構図だ。
「本当のことを話してくれますね?」
「……」
桜井先生は黙ったまま、力なく頷いた。
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