No45『クワガタムシは○○○○てはいけない』 再生

※講評内で作品の内容に触れております。

 致命的なネタバレにはならないように考慮していますが、

 一部・ミステリ的なギミックなどの種を割ることがあります。

 ご了承ください。

◇◇◇

https://kakuyomu.jp/works/16817330661761563379



昔からの言い伝えというものは、実際には合理的である場合があります。


たとえば幼い頃に「夜になったら、口笛を吹いてはいけない。口笛を吹くとヘビが出る」と聞いたことがありました。

口笛が好きだった私は、ヘビが出るなんていう迷信のために楽しみを邪魔されたことで腹を立てましたが――後に、夜に口笛を吹くと近所迷惑になってしまうのを止めさせるため――という話を聞いて納得しました。


とはいえ、すべての言い伝えにこのような明瞭な理屈があるわけではありません。


本作に登場するのは、虫取りにまつわる奇妙な言い伝えです。

語り部である虫ガキは、虫取りに同行する「お姉様」から「クワガタムシは○○○○てはいけない」というルールを教えられます。

実際には「お姉様」もまた曾祖母様から聞いた話であり、その由来はいかにもおとぎ話じみた超現実的な伝承が元になっているのです。


物語の中で「お姉さんは虫ガキをなぜニコニコと眺めていたのか」の謎については一端が触れられますが、作中の中心を貫くルールである「クワガタムシは○○○○てはいけない」については、それが妥当なものかどうかの真偽がはっきりと示されることはありません。


昔からそう言われていて、そのルールを前提に周囲の環境が整備されていく。

「取り決め」とは案外そのようなものなのかもしれませんね。


日本離れした洋館、地獄の悪魔、昆虫標本、妖精のような「お姉様」と、ヨーロッパ文学を思わせる道具立てが非常に効果的な役割を果たしており、日本古来の土着的な風土に根ざした虫ガキ作品とは異なるテイストの逸品となっていました。

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