No39『 アブラゼミの鳴かない夏』 鍔木小春
※講評内で作品の内容に触れております。
致命的なネタバレにはならないように考慮していますが、
一部・ミステリ的なギミックなどの種を割ることがあります。
ご了承ください。
◇◇◇
https://kakuyomu.jp/works/16817330661872447470
「その場にとどまるためには、全力で走り続けなければならない」
『鏡の国のアリス』において、赤の女王が発した一節です。
たとえ止まっているように見えたとしても、「現在」という移ろい続ける時間に留まり続けるためには、常に進み続ける必要があります。
そして――歩みを止めてしまった者は、あっという間に「過去」へと置いていかれてしまう。
本作では、雑木林で虫取りを続ける少年と、そんな虫ガキをニコニコと眺める不思議なお姉さんが登場します。
虫ガキのお目当てはアブラゼミです。
しかし、この雑木林でアブラゼミが捕れたのは今は昔。
気候変動により、すっかりアブラゼミは捕れなくなっていました。
「アブラゼミが捕れた雑木林」というのは、すでにこの地上から消えつつある「過去」の世界にしかない土地なのです。
そうして、お姉さんが語る「三日間だけ雑木林に現れる幽霊」の噂。
その幽霊は「現在」には絶対いないような人物の姿をとる、といいます。
果たして、お姉さんの正体は幽霊なのか……?
「過去」の肖像である幽霊は、本当は重なることはない「現在」と「過去」を繋ぐミッシング・リンクでもあります。
いつの日か「過去」に別れを告げる日がやってくる。
因果は巡り、円環は閉じ、物語は幕を下ろす――今はまだ、その時ではないかもしれませんが。
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