No36『虫を取りたくない場合の話』 まらはる

※講評内で作品の内容に触れております。

 致命的なネタバレにはならないように考慮していますが、

 一部・ミステリ的なギミックなどの種を割ることがあります。

 ご了承ください。

◇◇◇

https://kakuyomu.jp/works/16817330661815910329



多くの虫ガキ小説は、ノスタルジーの香りをまとっています。


原因はいくつか考えられますが……大きな理由としては「外で虫取りをする少年」という光景が、過去の遺物となりつつあるからでしょう。


日中の気温が35℃を超える「猛暑日」も、昨今では珍しいものではありません。

かつては根性論・精神論が幅をきかせていたスポーツ界も、熱中症や日射病による被害が年々深刻化していくことで、徐々に変革されていっています。


そんな中で、真夏に外を駆け回って虫取りに興じる――という遊びは、いずれは完全に記録の中にだけ残る過去の風習となるのかもしれません。


本作の主人公である虫ガキは、クーラーの効いた部屋でゲームをして遊ぶのが日常となっている、現代の少年です。

ところが、地獄としか言いようがない環境の中で、なぜか少年は必死に虫取りをしています。


「なぜ?」 本作における疑問は、もっぱらその一点に集中することでしょう。


そして、そんな虫ガキをにっこりと眺めるお姉さんが一人。

二人は何者なのか。いや――そもそも、ここは何処なのか。


その謎を解くカギは、日本語のテクニック――「暗喩」にあります。

「暗喩」とは、何かを喩えるときに「~のような」といった説明を省略し、直接AをBとして表現する手法です。

たとえば「この企画は虫ガキの山だ」といった風に。


この「暗喩」には論理のトリックを仕込む余地があります。


そう――少年は「虫ガキ」なのです。


見事なお点前でした。

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