No30『風供養』 志村麦
※講評内で作品の内容に触れております。
致命的なネタバレにはならないように考慮していますが、
一部・ミステリ的なギミックなどの種を割ることがあります。
ご了承ください。
◇◇◇
https://kakuyomu.jp/works/16817330661583368356
四方を断崖で囲まれた竜峰山脈。
翼を失った先祖たちの末裔――中でも『トビ』と呼ばれる少年たちは、山脈内を吹き荒れる上昇気流を浮揚膜で捉え、命がけの飛行に挑む――資源が限られたこの箱庭の世界では、そうすることでしか生きる糧を得られないから。
『トビ』の一人である語り部は、風虫採りの最中にニコニコと笑うお姉さんと出会う。彼女はかつての先祖のように翼を持つ、「風呼様」と呼ばれる特別な存在だった――。
「虫取りをするガキをニコニコと眺めるお姉さんの謎」に、とうとう異世界ファンタジー作品が登場しました!
……ずいぶんと遠くに来たものです。
本作を講評するにあたって、なんといっても魅力的なのは、その世界観です。
どこか古典SFの匂いを漂わせた、それでも既視感のない独創的な幻想の世界。
そんな世界を舞台にしながらも「虫ガキ」「ニコ姉」「ニコ姉の真意」という企画のレギュレーションを遵守しつつ、まったく新しい虫ガキ小説が描かれています。
結末は悲劇的ですが、それでも一縷の希望は示されています。
これはお姉さんとの出会いを通して、虫ガキが羽化し、一人の成人となる物語といえるでしょう。
主催者の立場として、一つ頭を下げないといけないのは、本企画の文字数制限です。
やはり現代日本のような誰もが共有できる世界観ではない、独創的なファンタジー世界を舞台とする場合、本企画の「一万文字以内」という制限は短すぎました。
おそらく作者さんは文字数に収めるために苦心されたことと推察します。
それでも想定をはるかに超えるスケールの虫ガキ作品が生まれたことに、深く感謝を申し上げます。
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