No28『日傘』 葛西 秋

※講評内で作品の内容に触れております。

 致命的なネタバレにはならないように考慮していますが、

 一部・ミステリ的なギミックなどの種を割ることがあります。

 ご了承ください。

◇◇◇

https://kakuyomu.jp/works/16817330661535088067



抒情的な語り口が印象的な、お姉さん視点の虫ガキ小説です。


「なぜ、お姉さんはニコニコと虫取りするガキを眺めていたのか」――たとえ有形の説明が成されなくても、自然と読んでいる読者の口も笑みを作る。

それが、そのまま「答え」となる――そういった心地よい時間を演出する作品となっています。


日傘。


近年では年々と脅威を増す酷暑もあって、夏ともなれば男女問わずに日傘が用いられることが珍しくありません。

それでも、ひと昔前までは日傘といえば、落ち着いた雰囲気の「大人の女性」を示すアイコンとして機能していたのを記憶しています。


本作においての日傘は、語り部であるお姉さんを規定する象徴となっています。

もしかしたら、もう届くことはないかもしれない虫ガキとお姉さんの距離――夏の記憶――それをひと時のあいだ繋いだのは、お姉さんが叔母から貰ったという日傘でした。


帰らない夏の日への郷愁。

いつか在ったかもしれない夏。


そんな夏への扉こそが、虫ガキ小説の本質の一つなのでしょう。

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