柳生・ビューティフル・ドリーマー

 超々巨大複合商業施設『日本』、その最上階である高度四百キロメートルに映画館が存在する。その映画館は柳生以外の者は使用することはできない。

 当然そこで柳生の者たちはスクリーンを見ていた。

『イヤー!!』

 スクリーンの中で幾人もの柳生剣士たちが十兵衛に斬りかかる。

『グワーッ!!』

 十兵衛のツヴァイヘンダーで柳生剣士たちは穴開きチーズの如く穴だらけにされて死んでいく。館内に歓声が響く。

「随分嬉しそうですね、ツバメ様」

 包帯で顔面を覆った男が隣に座る少女と言っていい外見年齢の女性に話しかけた。

 もちろん映画館の館内で会話することは禁止されている。だがこの二人にそれを指摘できる者がどれだけいるだろうか。

「兄様が生きて動いているんですよ、嬉しいに決まっているでしょう」

 ツバメは四百年前と全く変わりの無い姿形をしていた。赤髪のショートヘアに柳生朝大日本帝国皇帝の礼装を着ている。ツバメは柳生朝大日本帝国の二代目皇帝だった。

「次は私が斬られて参りましょうか?」

 ただで負けるつもりはなく、斬られて死ぬつもりもホームズにはなかった。

 宮仕えとして、主君の喜ぶ柳生剣士らしい発言をしているだけだった。

「柳生剣士ならば負けるつもりで戦ってはいけませんよホームズ」

 ツバメはホームズをタダで死なせるつもりはない。ホームズほどの剣士にはそれに相応しい死に場所がある。

 二人は館内の監視カメラの映像をこの映画館のスクリーンで観賞していた。

 館内には二人の他に誰もいない。

 ホームズはツバメの夢を聞かされた唯一の腹心である。

 ツバメの夢は全人類を柳生ニンゲンに変えることである。その為にはいくらでも犠牲の山を築いて構わないと思っていた。またあるいはその夢を見たまま柳生十兵衛に斬られること自体が夢であった。その為にツバメは江戸城で柳生十兵衛の死体を回収し、南極の狂気山脈で冷凍保存した。いつか蘇り、柳生自分に再び反旗を翻すと知っていたからだ。

 ツバメは柳生による天下をあまねくに広げる装置である。

「早く兄様と斬り合いたいものです」

 十兵衛の刃はまだこの二人届かない。

 西暦二千XX年現在、地球上に存在する柳生剣士は十億人。柳生剣士を除いた地球の人口は五十億人であった。

 決めようか、柳生と人類。どちらが生きるかくたばるか。

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柳生十兵衛は二度死ぬ 筆開紙閉 @zx3dxxx

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