28,小動物希望
「ここだ」
着いたのは、周りの小屋と違って随分と大きく閑散としている小屋だった。
小屋、というより、屋敷? バーミンガム邸よりは小さく造りも簡易だが、とにかくでかい。私の実家より遥かに、だ。
「なんだか静かな場所ですね」
「ここは限られた人間しか入ることができない。特別な許可が必要だ」
マジか。
団長の静かな告白に、背筋が伸びる。
「(そんなに希少な動物がいるんだ……)」
もしかして、今日の為にわざわざ許可を取ってくれたのだろうか?
そうなると嬉しいやら申し訳ないやら早く見たいやら。
複雑でいくつもの感情が、洪水のように溢れてくる。
出入り口には甲冑をまとった門番が立っており、団長が一言二言声をかけると扉が開かれた。
「足元に気を付けて」
「はい」
わ、中も静かだ。
まるでこの建物だけ、別の空間に切り取られたみたい。
「動物園じゃないみたいですね……」
「まあ、ここにいる動物は一般人に種族すら明かされていないからな」
「えっ? 秘匿されているんですか?」
「そうだ。いるとわかれば騒ぎ立て押しかけてくるからな……おっと。ここからは声のトーンを落としたほうがいいな」
シー……と、私の唇に人差し指を置かれた。
団長、それは女誑しです。
胸を突き破って出てきそうな心臓を抑え、さり気なく距離を取った。
「こ、ここにいる動物は静かな環境を好むのですか?」
「静か……そうだな。というより、人間の声を好まない」
「そんな動物をよく連れてこられましたね」
「これは連れてきたというより、保護した、といった方が正しいな」
「まさか、密輸?」
「それこそまさか、だ。人間如きが捕まえられるような、動物じゃない。とてもではないが、一般人の手には負えないな」
あの団長をここまで言わしめるとは。
しかし人間の声を好まない、音に機敏……もしかすると、とても臆病な動物?
兎とか、ハムスターとか。
「(いやいや、小動物にこの小屋は流石にないか)」
大は小を兼ねるという言葉がある。しかし今の想像を擦り合わせるとただのおバカである。
「……すまない。ここに連れてきて今更なんだが、もしかすると君を怖がらせてしまうかもしれない」
「大丈夫です! 私、大概の動物は好きなので!」
「もう一回言ってくれるか」
「大丈夫です!」
「その後だ」
「? 私、大概の動物は好きなので……」
「後半だけもう一回」
「ど、動物は好きなので」
「動物は、を抜かして」
「好きなので……?」
何がさせたいんだ。
因みに安心してください。声はめっちゃ絞っています。
「っ……! ありがとう…!」
「何に感謝しているんですか」
「いいんだ、俺だけにわかれば」
団長、やはり寝不足ではないでしょうか。
口元を抑える団長の目元は、残念ながら暗がりでよく見えない。
どんな感情だ?
そなんて、ふざけているうちにまた扉に辿り着く。
触らなくてもわかる。
分厚くて、頑丈で、ネズミ一匹の侵入も許さないだろう。
「この先にいる」
「随分大掛かりな小屋ですね…」
「逃げられたら一たまりもないからな。混乱に陥るどころか、死人が出る」
「ちょ、待ってください」
本当に! 何が収納されているんだ!?
楽しみだった気持ちは完全に吹っ飛び、頭を支配するのは不安と恐怖。
死人って何!? 私も死ぬやつ!?
指先が完全に冷え切る前に、何か熱いものが触れた。
「大丈夫だ、鎖で繋がれているし今は大人しい」
「今は? 今はってことは暴れてる時があるってことですね?」
「開けてくれ」
「聞いてくださいよぉ……!」
この人、なんでここまで我が道を突き通せるんだ?
半泣きの私の手に絡んだそれは、とうとう指の間にまで入ってきた。
スルリと指の皮膚が薄いところを撫でるのは、皮の熱い団長の指だ。
くずぐったいし恥ずかしい! なんて思っているうちに、扉が開かれた。
その先にいたのは、
「……ドラゴン?」
自分の目を疑った。
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