エピローグ2

(結局、お父さんに対し、私は何を思えば良いのだろう)


 リサは、写真に写っている生前の父に向かって心の中で囁きかけた。


(お母さんは、オモラシもおねしょもするようになっちゃったの……お父さんが原因なの?)


 写真から返答があるわけがない。


 莫大な借金があったこと、それが原因でオムツを当てだしたこと。

 そもそもなぜそんな借金があったのか。

 調査するにも時間が経ちすぎ、もはやあの借金が何だったのかは、分からない


 しかし、かまわずリサは胸の中で囁きかけ続けた。


(お母さんの事は私にまかせてください。

 私が大切に守ります)


 母の眠るベッドに目を向けた。やすらかな寝息だけだった。

 母は、本当に長い間、何度も夜起きては、おむつを替えていた。


 とても辛そうだった。

 それであれば、おねしょする方がまだ幸せなのかもしれない。


(だから、安心してください。

 お父さんがいなくなって、お母さんは無理に無理を重ねて、変に時間を遡っちゃいました)


 リサは、幼稚園に二人で通っていた時の、無理に笑顔を作っている母の写真に目を向けた。


(お母さんを、本当の自分の時間に戻します。

 ゆっくりでも、絶対。私は、それを手伝ってあげたいんです。

 幼稚園に入るあの日の前に、戻してあげたいんです)





 春に就職し、8月も終わり、残暑が厳しい。


 でも季節は着実に進んでいる。


 裕子の、その影のお尻も、おむつで大きく膨らんでいた。



 おだやかな季節は、もうすぐだった。

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