今からされること

「……ぇ?」


「ほら、立って」


 手を引かれ、立ち上がった。

 

 グジュゥゥウ……びちゃチャ……


 両腿で圧迫された部分が絞られ、それが床に垂れ、引いていた園児は更に遠ざかった。


「あぁ……いやぁ……」


「大丈夫だから、ほら。

 あそこみて」


 リサが指差す先。

 先程までリサが挨拶していた場だ。



 そこでは先程、私を引いて入場した年長の内二人が、ビニールシートが敷いたり、バケツを用意したりしていた。



 新たに大腿に広がっていく生温かく湿っぽい感触にゾクッと鳥肌をたてた。

 あらたにオムツの裾から洩れ出た液体が脚をつたい、ツツゥーと足元に向かってすべり落ちていく。


 今、私が何をされようとしているのか、ようやく理解した。


「そっ……そんな……。

 いやっ!

 ……ぜったいにいや!」



 あまりに見かねたのか、司会の先生が寄ってきた。


「裕子ちゃん、だめよ。

 オムツの取れているお姉さんの言うことを聞かないと」


「……」


「あなただけなのよオムツは。

 しかも溢れさせちゃって……こんな分厚いのに。

 一体何回お漏らししたの?」


「……」


 二回目、といって信じてもらえるのだろうか。

 一回あたりの量が、自分でも信じられない量であったなどと。

 利尿剤のことは、言えない。


「こんな状態ではとても移動させられません。

 お気の毒だけど、ここでオムツ交換です」


「そっ、そんな……

 どうかそれだけは……

 恥ずかしすぎます」


 しかし返事は、平坦に冷ややかだった。


「なに言ってるんですか。

 こんなにお洩らししといて……見てごらんなさい」


 先生が指差す先。先程まで私が座っていた場所。

 目に入った物。


「あぁ……いゃぁ……」


 正視できなかった。


 そこには、この演台までの跡が残されており、ともに入場した年長の三人目が雑巾で掃除していた。


 まだ拭かれていない場所には濡れた靴形。

 しかも靴形のまわりに、いくつかの水滴がおちている。


「さっ、お母さん」


 娘の声が、動けない私の耳元で聞こえた。

 娘の声は、先生のトゲのあるの声とは対照的に、やさしく包むように響く。


「バスにのる時からだったんだよね?

 もう我慢しなくていいよ。

 おむつ替えしよ?」


 しかしそうは言われても、この参列者全員の見守る中でなど納得できない。


「……みんなの見てる前で……」


「裕子ちゃん、わがままは許しません。

 もう入園式は終わっているはずの時間なんですよ。

 みんな、あなたのオムツ替えが済むのを待っているんです」

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