代表の娘と、オムツの母

「いつまでもメソメソしてたってしょうがないでしょいい歳して」

「あんなにぬらしちゃって」


 保護者席からも、侮蔑的な言葉が投げかけられる。


「途中、ちょっとアクシデントがありましたが、ご清聴の続きをお願いします

 ……リサちゃん」


 この状況で挨拶の続きをさせる、という対応に保護者席は驚くも、従わざるを得ない。


「すみません、話が途中で止まってしまいましたね。

 でも大丈夫です!

 春の晴れやかな日の下で、みんなと一緒に頑張って、最後までしっかりと挨拶をさせていただきます!」


 そして数泊。

 深呼吸のように間を空けた。


「そして、もうひとつ、特別なことがあります。

 ステージ上の新入園児の席に、私のお母さんがいます。

 お母さんは私と一緒に幼稚園に入園するんです。

 お母さんはとっても頑張っているんですよ」


 また、会場がざわめく。

 親子関係が判明した驚きに対してだろう。


「でも大丈夫です!

 私はもうオモラシしないし、これからは自分がお母さんのオムツの面倒を見ることに決めました。

 お母さんに感謝の気持ちを込めて、これからはお母さんのおむつのサポートをするつもりです」


 ざわめきが消えた。

 会場中が、リサに注目している。


「さ、お母さん!」


 リサが、私の元に駆けてきた。

 私は椅子に座ったまま動けないでいた。


 周囲の園児は、私が水たまりを作ったことで避けるように移動していた。


 そんな私の手を、リサが取った。


「ほら、もう大丈夫だよ」


 不覚にも、視界が歪み、泣きかけた。

 それが引っ込んだのは、次の一言だった。


「気持ち悪かったよね。

 さ、オムツを替えよ?」

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