入園式のベビーシート

「お母さん、大丈夫。

 ほら、可愛いでしょ?」


 年長の子らの準備が整ったらしい。

 広げていたシートには小鳥やリスなど動物たちがカラフルに描かれている。


「こっ、これは……」


「ベビーシートよ。かわいいでしょう。

 裕子ちゃんの為に、つい先日購入したのよ。

 特別サイズでね」


 娘が手を引き、シートのほうに導こうとする。

 でも私は、たまらず哀願を繰り返した。


「でも……こんな大勢の見てる前でなんて……」


 そう、大勢である。

 ここには新入園児30名に、その保護者も30名ほど。

 それに年中と年長も60名と、先生が数名。


 百人以上の見ている前でオムツ替えをされろと、言われているのである。


「なに言ってるの。

 裕子ちゃんがおトイレ行っていれば、こんなことしなくても良かったのよ?」


 違う、行かなかったのではなく、行けなかったんだ。

 そう主張したい。



「だいじょうぶ。お母さんが恥ずかしい思いをしないように、手早く替えて貰うから」


 裕子をやさしくベビーシートに導いていく。

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