第4話 うた

うた

            エミリー・ブロンテ作

                 額田河合訳


岩の谷にはベニヒワが.

空には野ヒバリが、

へザの花には蜂たちが

包みかくしている、私の貴いあの方を


あの方の胸の上で野ジカは草を食み.

野の鳥たちはひなを育てる

だが人間たち、あの方があれほど愛した者たちは

あの方を一人きり残して去っていった


思い出す、あの方が墓の暗い壁の中に

はじめて横たえられたとき。

誰もが思ったはずだ、もう二度と心の中に

喜びの光を見出すことはないだろうと


悲しみはとどまることなく

いつまでもあふれ続けるだろうと誰も考えた。

だが、今、その嘆きはどこにある?

彼らの涙はみなどこへ消えたのだ?


まあいい、名誉の鼻息がほしい者には争わせておけ

快楽の影を追いかけるというならそれもいい

死の国に住むのは昔のあの方ではなく

もはや何ひとつ気にかけることもない


それにたとえ万が一、彼らがあの方を見守り

悲しみの涙が涸れるまで泣いたとしても

あの方はその静かな眠りから

ためいき一つ返すごとはないのだ


吹け、西風よ、淋しい塚のかたわらを

ささやくがいい、夏の小川よ

それだけで十分だ

私のあの方の夢をなぐさめるためには

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