第11話

「………でも、今日は楽しかったな。君とまた演奏できるなんて思ってなかったから嬉しかったよ。ありがとう」


 たとえ明日の君が覚えていなくても、明日の僕はちゃんと覚えている。

 明日の君が笑えなくても、明日の僕は君に次元を超えて花束を届けに行く。


 このお部屋は花で溢れている。僕が外で見つけてきた花と同じ花をVRMMOの世界で用意するからだ。少しでも、ほんの少しでも彼女に外の世界を感じて欲しい。そして、外の世界で目覚めて欲しい。彼女はVRMMOの世界が本物の世界だと思い込んでいる。だからこそ、彼女が今自分がいる世界が仮想現実の世界であると気づくまで、彼女はこの世界には決して帰ってこない。


「ごめんな」


 ベッドで眠る彼女は、華奢で簡単に折れてしまいそうな容姿をしていたVRMMOの世界の中の彼女よりも、ずっとずっと細い。病的なまでに痩せていて、そして青白い。生きている人間には見えないくらいだ。

 頬骨が見えるくらいに痩せた顔、水分を失った白髪混じりの髪、骨と皮だけになってしまった腕や胸、そして、ーーー膝から先がなくなってしまった両足。


 誰よりも踊ることを愛し、踊ることに愛された彼女は、僕と散歩をしている最中に飲酒運転のトラックに撥ねられ、両足を失った。彼女を庇いきれなかった僕は、右腕を失った。


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