第20話 僕と彼女

 月日は流れ……。

 今、僕らは大学四年生になっている。

 

 早くから活動したおかげもあって、就職もなんとか決まり、最後の学生生活を目一杯楽しんでいる。

 

 二年生の正月、僕は、彼女の実家でプロポーズをしてしまった。

 若さゆえ?勢いだけ?無責任なのでは?と今となっては思うが、まあ、彼女の両親の前で告白する恥ずかしさを思い返せば、それくらいのパワーは必要だったともいえる。

 それにしても、彼女が承諾するなんて思ってなかった。しかも、即答って本当か?と僕は、夢でも見ているような気分でいたのだが、それからの彼女の行動は早かった。

 

 新潟から戻ってすぐ、『彼女から婚姻届を準備しましょう』と言われた時はうれしさよりもさらなる驚きの方が勝ってしまい、部屋で大声を出したっけ。

 

 梅の花が咲く頃、彼女が準備したチケットで福岡へ飛び、可愛い女の子を連れてきたと驚く僕の両親に挨拶をして、そして…、七月七日の日、僕ら二人は大学の帰りに役所に出向き、婚姻届を提出し、はれて夫婦になったのだ。


 実は、そのことはまだ大学の仲間達には話していない。

 彼女は、「言ってもいいと思うけど…」と毎日言っているが、変な噂でも広がったら余計面倒なので、今は黙っておこうと思ったのだが…。


「お〜い!高井〜!」


 クラスの友人である吉本が僕を呼び止める。


「なんだ〜。吉本」、「はい?」


 僕と彼女は二人とも振り向きざまに声を出す。


「おいっ。駄目だって」と僕は、彼女に小さく呟く。

 彼女は、「えへっ。だって、私も今は高井だも〜ん」なんて言うからたまらない。全く反省の色が見えないし…、いや、可愛すぎる!!!


 それにしても、あれだけツンだった彼女がここまでのデレになるとは誰が予想しただろうか…。


 僕と付き合うようになって、彼女は見るからに変わっていった。

 まず、ロングスカート一辺倒だった彼女が、時々ミニスカートを履くようになった。義足の彼女はハンデを感じさせないくらい凛々しかったし、とても眩しかった。

 そして、あれほど人と接する事を避け一人でいた彼女が、急に料理サークルに入ると、みんなと仲良く行事をこなしているって…、本当に驚くばかりだ。


 やっぱり彼女には笑顔が似合う…。

 

 結婚してから、さらに表情が柔らかくなった彼女の周りには、不思議と数多くの人が集まるようになっていた。


「笠原さん、可愛いよな〜。彼氏いないみたいだしな。チャンスあるかな」


 こんな話しがちょくちょくでているようで、僕は正直気が気ではない。

 義足の彼女は、相変わらず凛としているところはあっても、今まで他人を寄せ付けなかった重い鎧が外れてるから、ちょっとふんわりした雰囲気が醸し出されており、結果みんなに好かれてしまう。


「ほら、高井くん。行こっ」


 そんな僕の悩みも知らずに彼女は、僕の腕に自分の手を絡ませる。


「もう、結婚したことみんなに言おうか…」

「えっ!!やっとだ!じゃあ、もうペアリングしてもいいよね。ほら、今から付けようよ」

「いやいや、持って来てないよ。アパートにあるんだろう?」


 彼女は、勝ち誇ったような目で僕を見つめると、リュックの中から「はいっ。これ」と二つの指輪が入った濃紺のケースを取り出し僕の右手に乗せる。

 

 まるで、僕らが初めて会った時の様に…。


- - - - - -

「はい。これどうぞ。今日からここに越してきた笹原ささはらと言います。よろしくお願いします。では」


 僕は、呆気にとられたまま右手をガン見する。

 そこには、はちきれんばかりに実った大きな八朔があった。

- - - - - -


 彼女と初めて出会ったのは、引っ越しの挨拶の時だった。

 彼女から渡された大きな八朔…。僕は、今でも、あの柑橘の香りと重さを思い出せる。


 そして、今、僕の右手には、二つのリングが入ったケースがある。

 思えば、あの日から僕は、彼女しか見えなくなったんだ。


 僕は、ケースをゆっくり開けると一つを自分の薬指に、そして、もう一つは、彼女の左の薬指にゆっくりと滑らせた…。





終わり


- - - - - - - - - - - - -


最後はちょっと甘々になってしまいましたが。これで、二人の物語は終了です。

最後まで読んでいただいてありがとうございました。

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それでは、次の作品でまたお会いしましょう。

皆さんに読んでいただけるように頑張ります!!

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彼女はいつも摩訶不思議。僕はいつも意気地無し。 かずみやゆうき @kachiyu5555

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