第6話 教義と違和感(2)
老人と別れて、私たちは車で大通りに向かった。二本の通りのうち、駐車場から見て右側のほうである。のろのろと車を走らせても、人の姿は見えない。昭和以前の雰囲気が漂うなか、しばらくすると少し場違いな建物が視界の左に映った。
他とは違いレンガ塀と
私が、門扉とこの家の鍵を開けると、妻と息子は我先にと玄関に入っていった。
「やっぱり、ここを買ってよかったわ」
祐子の言葉通り、室内は非常にきれいで、とても築七十年だとは思えない。前の所有者はリフォームを繰り返していたらしいが、どうやらそれは本当のようだ。それでも、すでに手放してから三十年も経っている。つい最近まで誰かが住んでいたような気がした。
一階と二階には、和室がそのまま残っており、内装のリフォームで和を消したわけではなさそうだ。一方で、
妻子は、二人とも新型のテレビを設置したリビングで、L字型ソファに寝転んで、文字通り寝てしまった。よほど疲れがたまっていたのだろう。完全に無防備だ。
私は一人で、車に積んだ荷物を、家のなかに運び入れた。ある程度の家具は事前に移動させていたため、それほど大変な作業ではない。それから、普通車、次に軽自動車を駐車場に動かした。もちろん帰りは徒歩である。
家に着く頃には、夕方になっていた。
この一日で、私も相当疲れた。書斎に上がり、椅子に座って小説をだらだらと読んだ。スタンドライトだけを点けて、眠気と格闘しながらも文字を追っていく。
非常にコンパクトな置き時計が机上にある。銀色に塗装されたプラスチックのそれは、埃をかぶるスタンドライトでほのかに照らされていた。時計の前面にはなめらかな曲線を描く円があり、蛍光色の数字と三つの針がきっちりと納められている――時刻は、午後七時三分四十秒。
やがて私の視界は暗くなって……。
人に巣食う虫 朔之玖溟(さくの きゅうめい) @cnw
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