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 彼らが生まれるずっとずっと前、ニューヨークは世界でも有数の大都市だった。

 エンパイア・ステート・ビルは空を貫くようにそびえ立ち、ブロードウェイは色彩豊かな光の粒を四方にばら撒いていた。可能性がそこら中に浮いていて、それを掴むのは人間に与えられた自由だった。

 ・・・・・・確かに、そんな時代が存在した。

 しかし、前人類は、ある日突然姿を消した。まるで、何かの穴に落っこちたみたいに、忽然と消えた。

 文明は破壊され、あらゆる生命は死に絶えた。後に残ったのは言葉だけであった。

 小説、歌、岩に刻まれた落書き・・・・・・

 シャンハイにある、「SEX」という文字が刻まれた岩は、昨年世界遺産に登録された。

 人類が何故そのような言葉だけを残して消えたのかは、わからない。

 誰にも、わからない。


「ねえ」と、彼女がいった。「いつかわたしたちも消えると思う?」

 マックドアは彼女の裸の胸を自分の胸に寄せた。腹に彼女のやわらかいペニスが当たっていた。

「大丈夫。・・・・・・言葉は残る」と、マックドアはいった。

「そして世界遺産になるのね!」

「なるとも、間違いなく」

「素敵」

 彼女はそう言って、マックドアの腕の中で寝てしまった。

 彼女は暖かいまどろみの中で、静かに泣いていた。

 マックドアは彼女の口の中にそっと手を入れて、『消える』という言葉を奪った。

 

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