第4話 親との決別、そしてこれから

その後、これまでの言動を認めた親はどうにかして俺を引き留めようとした。が、ここまで言われてしまったことでプライドはズタボロにされたのか、俺がどうしても無理だと言ったら何も反論してこなかった。




俺はすぐに荷物をまとめて玄関に立った。




と、言ってもほとんどは向こうで買うつもりなので、荷物は最低限で済んだ。




「分かった……修斗がしようとしていることを止めることはしないよ……」




そう父は認めた。




母は最後まで諦めずに粘っていたが、父が諦めたので、止めようとする側の人間は自分だけだと気づいたらしく、




「じ、じゃあ、最後に晩ごはんだけでも一緒に食べない……?」




と妥協案を出してきた。




あくまで俺の直感だが、家族と一緒にいることの幸せを感じてほしいと思ったのだろう。




でも、俺の返事は決まっていた。




「嫌だ、ばいばい」




そう言って俺は荷物を持って3人で家を後にした。




「………っ!ま、待って……!」




そう叫ぶ母の声が聞こえたが振り返る義理はないし、メリットも何もない。




仮に俺が振り返ったとしても、あいつらは何も言うことはできないだろう。




俺の左右にいる奏汰も志桜里も前を向いて、と言うかさらさら振り返る気も無いようで、ただ前を向き、歩いた。




ほんの1年前までは、家を出るのは大学に受かり、一人暮らしをする時になるだろうと思っていた。




きっと二人に笑顔で見送ってもらえると信じていた。「向こうでも頑張ってね」という声をかけてもらえると信じていた。


「健康に気をつけてね」とも言われると信じていた。




だけど現実は違う。




二人から送られたのは悲痛な叫び声と、留めることを諦めた視線だけだった。




何かを間違えると全てが狂う。




そう俺は肌で感じた。




しかし人間は間違える生き物だ。




間違えた先に正解の道があるのだろう。




だから俺はもしも、この二人の親友が間違えた道を選んでも、何があろうと、迷わずに手を取り、支え合って生きていこう。




そして恩と感謝を少しずつでも良いから返していこう。




そう心に誓った。










俺は2日連続となったが、奏汰の家に泊まらせてもらった。




そして明日、俺はこの街を出て、ばあちゃんの家で暮らす。もちろん二人と離れるのは寂しい。けれど今回の出来事があったので更に俺たちの仲は深まったと思う。だから何も怖くない。




奏汰のお母さんは俺の境遇を知っているので、明日出発する俺の送迎会的なものを用意してくれた。




そして明らかに俺と奏汰、奏汰のお母さんで食べられる量じゃない豪華な料理が机を埋め尽くしていた。ちなみに奏汰のお父さんは今出張中らしい。




俺は奏汰に「お父さんに会えなくて寂しくないのか?」と、ふと気になったことを聞いた。




奏汰は「もちろん寂しいけれど、俺にはお前もいるし、志桜里もいる。毎日会えるんだ。それも悲しむ暇がないくらい楽しいんだ。だから寂しいとは思わないんだよ」と、何を当たり前のことを聞くんだと言わんばかりの顔で言ってきた。




そう言われて俺は泣いてしまいそうになった。




でも最後くらい笑って過ごしたいと思いなんとか堪えた。




その時、志桜里がやってきた。




俺がびっくりした。なぜなら志桜里の家はあまり異性の家に行ってほしくないらしい。




そう思っていると奏汰と志桜里がしてやったりみたいな表情で笑った。




「実はさっき送別会するけど無理にとは言わないけど来れるか?って聞いたんだよ」




「だから私、帰ってすぐにお母さんに相談したら意外とすぐにok出たから来れたんだよ」




と、二人は言った。




俺は嬉しかった。




ずっと信じてくれた二人とこの街での最後の時間を過ごせるのだから。




「ありがとう……!二人とも本当にありがとう……」




そしてこの瞬間、俺の中で何かが変わる音がした。




志桜里に対して、親友とは違う何かを感じた。




流石に俺は涙腺が限界だった。




俺が泣き出すと、二人は笑って頭を撫でてくれた。




ずっと……ずっと…………俺が泣き止むまでずっと……








それからはずっと笑い声が絶えなかった。




みんなでご飯を食べ、世間話で盛り上がり、ゲームをしたり、テレビを見たりして楽しく過ごす夜はいつぶりだろうか。




もう忘れかけていることだが、俺だって冤罪で色々とある前までは家族でこんな生活をしていた。




まぁもう忘れそうだけどな。




そこまで考えて俺はあんな奴らを思い出すくらいなら今の時間を過ごしたいと思った。




楽しい時間はあっという間に過ぎていき、志桜里は帰らなくてはいけない時間になった。




奏汰は「なあ修斗、志桜里を家まで送ってやれよ」と、言った。


俺は、


「分かった。……ていうか元々そのつもりだったし」




「だってさ、志桜里」




すると奏汰は志桜里に何かを伝えるような目配せをした。




気の所為かもしれないが志桜里の頬が朱に染まっている気が……




「じゃあ行ってらっしゃい」




「あ、ああ、行ってくる」




「奏汰のお母さん、お邪魔しました!私帰りますね~!」




そう言うと台所から「はーい!気をつけてね〜!」と、返事が返ってきた。








「修斗と一緒に話せるのもこれから少なくなっちゃうな〜……」




志桜里の家へと向かっている途中の交差点で信号が変わるのを待っていると、そう志桜里が言った。




「そうだな……」




「寂しい?」




「ああ、ものすごく……な」




「そっか……私も」




そう言って俺たちの間に少し悲しい空気が流れた。




「あ、あのね、修斗……!」




「ん?どうした?」




そう言って志桜里は覚悟を決めたような表情で俺にこう言った。






「わ、私……修斗のことが好kむぎゅっ……」


「ちょっと待って、志桜里」






志桜里は何が起きたか分からない表情で俺を見上げた。




そして俺はさっきから抱いていたこの感情が何か分かった。




「今から志桜里が言うことが多分だけど分かる……でもそれはみんなが向こうに来た時に俺から言わせてくれないかな」




きっと俺はあの時からではなく、冤罪が認められるまでの期間、ずっと側に居てくれた志桜里のことを親友としてではなく、1人の女子として認識していたのだろう。




でも俺の復讐なのに、そんな邪な考えがあってはいけないと、本能的に感じていたのだろう。




だから親友として、接したのだろう。




「今そんなことを言われると……その、この街から出たくないっていう気持ちが出てしまって、奏汰、市長さん、そして志桜里が頑張ってくれたことが無駄になっちゃう気がする……だから向こうで言わせてくれないか……?」




正直めちゃくちゃ恥ずかしい。




でも志桜里が最初に勇気を出して言おうとしたことを俺は遮ってしまったからこれくらいなんてことはない。




俺はそこまで言って、志桜里の顔を見ると、暗闇でも分かるくらいに顔を赤らめて、


「う、うん……!待ってるからね……ずっと」




そう言った。




俺は安心して、


「ばーか、待つのは俺の方だよ」


そう、笑って返した。








「お、帰ってきたな」




俺はちゃんと家まで志桜里を送って、奏汰の家に帰ってきた。




俺は昨日と同様に奏汰の部屋で寝させてもらうので部屋に入った。




俺はベットの上でくつろいでいる奏汰に対して、こう言った。




「お前、志桜里の気持ちに気づいて俺に送らせただろ」




「なんのことかわかんないな〜」




そう言った奏汰に少しの呆れと多くの感謝を含んだ感情で、


「まぁ……ありがとな」




と言った。




奏汰も「おう」と男前に返した。




そんな会話をしてすぐに眠気が襲ってきたので俺たちは寝ることにした。




俺は目をつぶり、この事件が起こってから今までを思い返してみた。




正直激動の一年弱だと思った。




今までの人生で一番濃く、きっとこれからも一番の席を譲らないであろう出来事だった。




この事件で俺はたくさんのものを壊され、失った。




今までの友人、家族、信頼、居場所、きっと失ったものはこれだけではないだろう。




だが、俺はそれ以上に良いものを手に入れたとも思う。




親友、絆、新しい居場所、そして……大切な人。




精神的に辛いこともあった。肉体的に辛いこともあった。もう逃げ出したいと、何回思ったことか……




でも実際、俺は逃げなかった。




真正面から闘った。




だから俺は得られて良かったものを得ることができた。




そして学ぶことができた。




逃げない強さ、闘う強さ、絆の強さ、信じる強さ。




きっとこれから大切なことだと思う。




俺はこの考えをを『大切にしたい』ではなく、『大切にする』、と心に刻んだ。




俺はこの事をしっかりと頭の中に留めて、眠りに就いた。

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