第5話 みんなのその後

【SIDE武田】


俺は父……いや、今はもう父じゃないか




父だった人に絶縁を言い渡されて3年が経過した。




俺は縁を切られて保護施設に入ったのだが、高校生になって、ここに入るのはほとんどが縁を切られた人らしく、すぐにいじめの標的となった。




ここに来て半月、それはいじめられだした頃、俺は自分がその立場になって、初めて成宮の気持ちが分かった。








痛い、苦しい、悔しい、悲しい、情けない、逃げたい、辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い…………








たった半月でこれほどまでに辛かった。




情緒不安定なんて言葉が軽く思えるくらいには精神が擦り切れた。




でも成宮はこれの約16倍もの長さの期間、この苦痛に耐えていたのだ。




でも、成宮には、側にいてくれる親友がいた。




きっと彼らと支え合って俺を筆頭とするいじめを耐え抜いたのだろう。




でも俺は誰一人味方のいない施設という名の鳥かごの中に閉じ込められている。




しかも高校を卒業するまでは保護されるので、逃げ出すこともできない。




俺は後どのくらいの時間をこの場所で過ごし、正常を保って出てこれるのだろうか。




答えは簡単だ。




あと1079日。




3年と言えばすぐだが、日にちにすると果てしない。




でも俺が成宮にしたことはきっと許されない。




この業は一生背負っていかなくてはならない。




そして俺には明るい未来は……ない。




「う、うぅ……成宮ぁ……ごめん……ごめんよぉ……助けてくれよぉ……」




「おい、うるせぇぞ新入り!!また殴られてぇのか!!」




泣き果てて原型がないくらい酷い顔になった武田は更に施設の者によって更に壊されていく。




そして明日も、明後日も、その次も、その次も、その次も、……………ずっとずっと……










3年が経ち、ようやく外に出ることができた。




が、まだ施設の方が良かったかもしれない。




お金は無く、住む家も無い、食べるものも無い。




だから俺は盗みを働いた。




金、食料、日用品などなど……とにかく金になりそうなものは片っ端から盗んでいった。




ある日のこと、盗もうと忍び込んだ宝石店では、この辺りによく出没している、ということで警察がすでにいた。




俺は逃げた。




どこまでも、どこまでも、捕まらないために。




信号は当然のように無視した。




最初はタイミングがよく、難なく行けた。




だがずっとそういう訳ではなかった。




飛び出した交差点には偶然トラックが走っていた。




もちろん、どちらもすぐに止まることはできなかった。




(行ける!!このまま逃げ切れr『ドゴッッッ!!!』)








この事故は、地元の小さな事故として扱われたため、俺が知ることはなかった。




【SIDE母親】


私は、修斗が出ていった日から何をするにもやる気がでず、やっても全く上手くいかない日々が続いた。




料理を作れば謎の黒い物体が出来上がり、洗濯をすれば洗剤の量を間違える。




そして段々と、ストレスからか、白髪が増え、シワができ、痩せこけた。




私はあれから夫である健一と離婚した。




何をしても喧嘩に発展してしまい、どちらともなく離婚を切り出した。




そしてどちらも引き留めようとはしなかった。 




私は職を探した。




でも何故かは分からないが、面接でイライラしてしまうことが増えた。




そんなことだと受かるわけもなく、今は貯金を切り崩して生きている。




だがもうそろそろ底をつく。




「戻ってきてよ……修斗、健一さん……」




通帳を見ながら泣き崩れた。




【SIDE父親】


僕は修斗が出ていって、すぐに会社でも失敗ばかりするようになった。




理由は分かりきっている。




あれから仕事に集中することができず、仕事場でも集中できていないからだ。




挙句の果てには、職場の人からの視線に耐えきれず軽く病んでしまった。




自業自得だな、と自分でも笑ってしまう。




僕は切り替えてもう一度頑張ってみようとしても会社に行く頃にはその気持ちが恐怖に変わっていた。




前までなら自分がミスをしてもきちんと謝罪をし、次からの教訓に出来ていた。しかし、今となっては慌て、狼狽え、言葉が出てこず、と散々だった。




修斗が出ていき、茜と別れたあたりから健一の成功していた人生は音を立てて崩れ始めた。




いや、違うな。もっと前からだ。




きっと修斗の言い分に耳を貸さなかった、あの時から少しずつ崩れていたのだろう。




過去に戻りたい。




そして修斗の話をきちんと聞いてあげたい。



そう、遅すぎる後悔をしていた。

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