第5話 「筆力」の誤った考え

 ところで、筆力、と聞いて何か勘違いをしている人はいないだろうか。


 ――人を圧倒するような文章。


 それが、一般的な考えだと思う。もちろん、その認識は間違いではない。ところが、筆力とは何か、という問いに対してはあまり良い回答とはいえないのではないだろうか。


 人を圧倒する、とはどのようなことか。作者が何度も見返してしまう、そんな作品があったとしよう。たしかに、それは作品だ。しかし、他者にとっては、退屈で読む意味を見いだせないものかもしれない(けして、そういう作者を非難しているわけではない。ただ、どうしても感覚に違いが生じてしまうだけなのだ)。


 筆力、を具体的に言おう。


 ――それは、伝えたいことを正確に伝える能力だ。


 たとえば情景描写ならば、どれほど正確に想像通り伝えられるか、というものである。風や香りや木々の一本一本、ぱっと見たときに目に入るもの、そういうのを正確に伝える力のことである。


 おそらく、ここでまた誤解する人が出てくるだろう。


「じゃあ、単に描写を細かくすればいいってこと? でも、ライトノベルとかはどうなるの?」


 先程の情景描写はただの一例である。テンポのある文章を書きたいなら、それもまたしかり。結局、それは人を圧倒させないかもしれない。だから、「人を圧倒する」ではなく「自分を圧倒させる」というのも別解として挙げられるだろう。


 要するに、自分が小説に対して欲張りであるほど、筆力はつくのである。


 自作品に物足りなさを感じ、推敲したくて仕方がない。このレベルが理想だ。レベルアップするためには、とにかく小説を読んで、何度読んでも欠点がない、そういった作品を見つけるのが理想である。こうやって、凄いの基準を作り出し、それに自作品を当てはめてみると、いずれ理想の作品が書けるだろう。だから、筆力は努力によって伸ばせるのである(この際、努力という言葉も不適切かもしれない。その頃には、小説を好きになっているだろうから)。


 理想の作品は、自身の率直な感想で決めていい。他者の評価など、むしろ気にしないほうがいいように思う。不安ならば推薦をもらっている本を読んでもいいが、けして推薦者に流されて、自分なりの意見を失わないことが大切である。

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