ドッグ・イート・ドッグ//さらば我が友

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 ──ドッグ・イート・ドッグ//さらば我が友



 アーサーは階段を上っていた。


 彼が歩んできた後には血と弾痕と死体。それが続く。


『アルマのお父さん。敵は39階に侵入。いよいよ最上階に近づいています。仕事ビズ目標ターゲットであるカジミール・スルコフも確認しました』


「そうか。助かる、ネフィリム」


 拡張現実ARを通じて話しかけてくるネフィリムにアーサーがそう礼を述べた。


「だが、探してほしい人物がいる。この人物だ」


『了解。今探しますね』


 アーサーがネフィリムに渡したのは妲己の生体認証データだ。


『いました。まさに39階でオールド・ワグナーと交戦中ですよ。大事な人ですか……』


「ああ。そうだ。救えるならば救いたい。急ごう」


『了解です』


 無人兵器はネフィリムたちに制御権限を上書きオーバーライドされており、オールド・ワグナーを攻撃している。だが、オールド・ワグナーも電磁パルスガンなどで焼き切られており無人兵器もあっけなくやられていた。


「撃て、撃て! 近づけさせるな! ロシア人とインド人を殺せ!」


「機関銃! 撃ち続けろ! 銃身が焼けただれるまで撃て!」


 六道の構成員たちがあらゆる銃火器を使ってオールド・ワグナーとバクティ・サークルの武装構成員たちを迎撃していた。


煙幕スモーク展開」


「RPG!」


 しかし、オールド・ワグナーの側にはルサルカ旅団がいる。訓練された旧ロシア空挺軍の精鋭たちだ。彼らは的確な判断で六道の機関銃陣地などを次々に潰していき、六道を追い詰めていく。


「いい感じだな。六道どもも今日で終わりだ」


 カジミール・スルコフ大佐はルサルカ旅団とオールド・ワグナーの極東方面の構成員を引き連れてハイキャッスルタワーを襲撃していた。


 彼自身は生体機械化兵マシナリー・ソルジャーではない。旧ロシア軍の装備である強化外骨格エグゾを装備し、旧ロシア空挺軍の軍服を纏い、手には50口径の電磁自動拳銃を2丁。


「このまま畳め。ここを片づけたらビルごと燃やすぞ。オールド・ワグナーの六道に対する勝利の炎としてな」


「殺せ!」


 スルコフ大佐が指示を出し、オールド・ワグナーがカラシニコフを乱射しながら突撃。六道の立て籠もる陣地に第二次世界大戦の赤軍のごとくロシア人が押し寄せる。


「連中を通すんじゃないよ! 皆殺しにしな!」


「おう!」


 六道の側では妲己が指揮を執っていた。


「大佐殿。ドローンが支援可能です」


「よし。やっちまえ。吹き飛ばせ」


「了解」


 そこでオールド・ワグナーが保有する自爆ドローンが六道が立て籠もる陣地の側に窓から飛び込み大爆発を起こした。


「今だ。皆殺しにしろ!」


 スルコフ大佐が獰猛な笑みを浮かべ、自身も電磁自動拳銃で六道の武装構成員たちを銃撃しながら前進していく。


「クソ。まだだ! まだ我々は戦う! 最後まで敵に噛みつけ!」


 妲己は自爆ドローンの攻撃で左腕を失いながらも手に持った自動拳銃で迫りくるオールド・ワグナーとバクティ・サークルの武装構成員たちを銃撃する。


「ぐうっ」


 しかし、すぐにカラシニコフの反撃を受けて右腕も弾き飛ばされた。


「おうおう。誰かと思えば妲己か。六道の女傑が無様なもんだ」


 両腕を失って跪く妲己の前にスルコフ大佐が現れ、彼女を嘲る。


「俺の靴を舐めれば慈悲をかけてやるぞ……」


「くたばれ」


 妲己はスルコフ大佐の顔に唾を吐きかけた。


「そうかい。じゃあ、死ね」


 そこで爆発音が響く。


「何だ……」


 スルコフ大佐たちが爆発音が響いた後方を振り返る。


「カジミール・スルコフ。殺しに来た」


 アーサーがルサルカ旅団の生体機械化兵マシナリー・ソルジャーの首を刎ね飛ばしてそう宣言する。生体機械化兵マシナリー・ソルジャーは痙攣しながら地面に崩れ落ち、首がごろりと地面に転がった。


「サイバーサムライ……。まさかお前がアーサー・キサラギ……」


「カジミール・スルコフだな。情けはない。死ね」


 スルコフ大佐が信じられないものを見たような顔をしたのにアーサーが迫る。


「奴を殺せ。それも仕事ビズだ」


「了解」


 すぐさまルサルカ旅団の生体機械化兵マシナリー・ソルジャーたちが電磁ライフルの銃口をアーサーに向けて射撃を開始。


時間停止ステイシス起動」


 時間が止まったかのように緩やかになり、その中でアーサーが“毒蛇”を持って駆ける。その眼には殺意しか存在しない。


「ぐあ──」


 ひとり。


「助け──」


 またひとり。


「このクソ──」


 もうひとり。


 ルサルカ旅団の生体機械化兵マシナリー・ソルジャーが倒れて行き、その攻撃はアーサーには届かず、一方的に斬り殺されて行く。


「何だこの化け物は……。俺たちロシア空挺軍の精鋭がこのありさまだと……」


 スルコフ大佐が次々に消えては現れて生体機械化兵マシナリー・ソルジャーたちを斬り倒しておくアーサーを見て呻く。


「さあ、次はお前はスルコフ」


 そして、ついにルサルカ旅団の兵士たちが壊滅した。


 見れば他のオールド・ワグナーの兵士たちもバクティ・サークルの武装構成員たちも全てが屍を晒している。ハイキャッスルタワーの39階フロアは炎と血に包まれ、地獄のような有様であった。


「これが鬼か。おぞましい化け物め。死ね!」


 迫りくるアーサーに向けてスルコフ大佐が2丁拳銃で発砲。電気の弾ける音が響き、50口径拳銃弾が放たれる。


「無駄だ」


 アーサーは放たれる拳銃弾を叩き落としながらスルコフ大佐に向けて進む。


「お前はここで死ぬ定めだ」


「違う。俺はここでは死なない!」


 スルコフ大佐がアーサーに向けて突撃して銃を乱射するもすぐさまアーサーの“毒蛇”の一閃を浴びて地面に崩れ落ちた。


「妲己。無事か……」


「あんたの仕事ビズじゃないって言ったじゃないか」


 両手を失っている妲己がアーサーに力なく微笑む。


「だが、助けたかった。仕事ビズじゃなくとも。一緒に逃げるぞ、妲己。六道はもう終わりだ。ここにいても仕方ない」


「分かった。あんたと一緒に行くよ。ここを離れよう」


「手を貸す」


 アーサーはそう言って妲己に手を差し伸べた。


 その瞬間、妲己の頭が爆ぜた。


 アーサーが凍り付いた表情でその様子を見つめる。


「ざまあ、みやがれ」


 スルコフ大佐は硝煙の昇る50口径の電磁自動拳銃を振ると血の海に沈んだ。


「妲己」


 妲己の脳が周囲に散らばっている。頭蓋骨の破片とともに周囲に。


「助けられずにすまなかった。そして、さらばだ、我が友」


 アーサーはそう言ってハイキャッスルタワーを去った。


 かつての暗黒街の拠点は炎に包まれている。


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