ドッグ・イート・ドッグ//ハイキャッスルタワー

……………………


 ──ドッグ・イート・ドッグ//ハイキャッスルタワー



『お父さん。追手が来ているよ。気を付けて』


 アルマがSUVを運転するアーサーにそう警告を出した。


 アーサーの乗るSUVの後ろから軍用四輪駆動車が迫っている。


「ロシア人か……」


『違う。インドのヒンドゥー原理主義者どもだ。だが、ロシア人より練度は低そうだな。素人に近いぜ、こいつら』


「しかし、足止めにはなる。相手をしていたら到着は遅れる」


『ああ。だから、こっちで始末しておいてやるよ。あんたは急げ』


「任せた」


 アーサーはヒンドゥー原理主義者からなる犯罪組織バクティ・サークルの追手の相手を土蜘蛛たちに任せた。


『アルマ、ネフィリム。大井統合安全保障の下請けが対戦車ミサイルを下げたドローンを飛ばしている。こいつを拝借してアーサーを追ってる連中をやるぞ』


『分かった』


 バクティ・サークルはオールド・ワグナーと違って必ずしも訓練された元軍人ではない。ただ、自らの咎で社会ではぐれ者になり、犯罪を犯し、そして行きつく先に行きついた人間たちに過ぎない。


『ドローン、ハック完了。行けますよ』


『ぶっぱなて』


『了解!』


 ネフィリムがハックしたドローンから対戦車ミサイルをアーサーを追うバクティ・サークルの車列コンボイに叩き込んだ。


『おい。あのドローンは俺たちを追ってるんじゃ──』


 バクティ・サークルの軍用四輪駆動車は既に放たれた対戦車ミサイルに反応する暇もなく吹き飛ばされた。精密攻撃を担う小型対戦車ミサイルは確実に1台の軍用四輪駆動車を爆発炎上させ、その車両に突っ込んだ後続車両が横転。


 これによってバクティ・サークルの車列の半数が脱落した。


『土蜘蛛さん。バクティ・サークルのC4ISTARをハックできたよ。使える……』


『上出来だ、アルマの嬢ちゃん。こいつを使えば』


 アルマがハックしたバクティ・サークルのC4ISTARを土蜘蛛が利用する。


『まずは通信を遮断。データリンクから何まで強制停止だ』


 これでバクティ・サークルは部隊同士の連絡が行えなくなった。


『そして連中の無人兵器の制御権限を上書きオーバーライドして同士討ちだ』


 土蜘蛛はにっと笑ってバクティ・サークルの飛ばしているドローンや無人銃座RWSの制御権限を上書きオーバーライドし、乗っ取った無人兵器でバクティ・サークルを攻撃する。


『友軍からの攻撃を受けているぞ、畜生!』


『制御権限が上書きオーバーライドさている! ハッカーの仕掛けランだ! どうにかしろ!』


『こんなのどうしようも──』


 友軍同士の同士討ちでバクティ・サークルの戦力が瞬く間に激減していく。友軍の軍用四輪駆動車をドローンが体当たりして吹き飛ばし、無人銃座RWSがバクティ・サークルの武装構成員たちを銃撃。


『クソ、クソ、クソ! 何だってこんなこと──』


 現代の軍事組織において目であり、耳であり、鼻であり、脳であるC4ISTARを奪われているのは致命的だ。目隠しをして戦うようなもの。


 そして、バクティ・サークルの武装構成員が素人であったこともあって、彼らが全滅するまでにさほど時間はかからなかった。


『アルマのお父さん。バクティ・サークルは壊滅です。このままハイキャッスルタワーへ。偵察衛星の画像では猛攻撃を受けています。炎上して、爆発も生じていますよ』


「ネフィリム。この男の情報を探ってほしい。カジミール・スルコフ。オールド・ワグナーの指揮官だ」


『少しお待ちを』


 ネフィリムが各地に設置されている生体認証スキャナーからの情報を集めて分析にかける。どんな犯罪者だろうと生体認証スキャナーを避けて行動するのは難しい。


『ヒットです。ハイキャッスルタワーにいます』


「そうか。手間が省けたな」


 そうアーサーが返すころにはSUVからハイキャッスルタワーが見えた。


 ハイキャッスルタワーは炎上している。


 オールド・ワグナーのドローンからミサイル攻撃を受けて爆発が生じ、各フロアが炎上している。夜のTMCに赤い炎が輝き、黒煙が立ち昇っていた。


 銃声と砲声も響き、戦闘が行われているのが分かった。


「土蜘蛛。ハイキャッスルタワーの状況は?」


『オールド・ワグナーはあちこちに入り込んでいる。既にフロアの1階から4階は制圧された。六道は幹部を逃がそうとしているが、妲己は逃げてない』


「最後まで戦う、か。急がなければな」


 バクティ・サークルは大した戦力を送り込んでいないが、オールド・ワグナーはルサルカ旅団を始めとする精鋭を投入し、六道を叩き潰すつもりだ。


「まもなくエントランスだが、派手にやるとしよう。手加減すれば自分たちが死ぬ」


『そうだな。マトリクスから支援する。任せとけ』


 土蜘蛛はエントランスの生体認証スキャナーと監視システムをハック。活動しているオールド・ワグナーの部隊の規模と位置を確かめた。


『おっと。思ったより多いぞ。リモートタレットや警備ドローン、警備ボットまで展開させている。だが、一部の機能はマヒさせれるし、同士討ちはさせられる。任せとけ』


「ああ。頼りにしている」


 土蜘蛛がそう引き受け、アーサーはハイキャッスルタワーの正面ゲートに向けて運転しているSUVを加速させる。


「止まれ! どこのどいつ──」


 正面ゲートにいたオールド・ワグナーの兵士をアーサーがSUVで轢き殺し、そのままエントランスへと突入した。


「敵だ! 殺せ!」


 エントランスにいたオールド・ワグナーの武装構成員とルサルカ旅団の生体機械化兵マシナリー・ソルジャーが銃弾と爆薬をSUVに叩き込んだ。


 SUVが蜂の巣にされ、爆発し、木っ端みじんになる。


「やったぞ! ざまあ──」


 オールド・ワグナーの武装構成員の首が飛ぶ。


「死ね、ロシアの亡霊ども」


 アーサーは“毒蛇”の纏った血を払い、滑らかな動きでその刃をオールド・ワグナーの侵入者たちへと向けた。


「あのサイバーサムライは目標ターゲットのひとりだぞ。殺せ!」


「殺せるものならば殺してみろ」


 ルサルカ旅団の生体機械化兵マシナリー・ソルジャーが叫び、電磁ライフルと超高周波振動刀が交わる。


 だが、勝つのはアーサーの側だ。


時間停止ステイシス起動」


 それもそうだろう。時の流れを操り、瞬時に移動するサイバーサムライの相手など旧ロシア空挺軍とて想定していない。


「うわああああ──」


 カラシニコフを乱射するオールド・ワグナーの武装構成員が斬り伏せられる。


「残りふたり」


 ナノマシンが混じった返り血が滴る防水ジャケットを纏ったまま、アーサーが生き残りのルサルカ旅団の生体機械化兵マシナリー・ソルジャーに近づく。


「これが鬼……」


「こんなものは人じゃない……」


 旧ロシア空挺軍で実戦も経験した生体機械化兵マシナリー・ソルジャーの握る電磁ライフルが恐怖から揺れていた。


「終わりだ」


……………………

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