第四章 結魂式(けっこんしき)
それからの、ゴル・ゴロスの生活は充実していた。
仕事も少しずつ覚えて大人のチェックを受けてミスなどを指摘されるが、簡単な受発注も出来るようになった。
世話役の園田さんとクトゥルフと春平の住むアパートは同じだった。
トイレこそ個別にあるが、風呂がないので近くの銭湯で体を洗う。
それは、突然の話だった。
毎朝の朝礼で課長の前に集まる。
ここで今日の作業内容や注意事項などが伝達され作業に入るのだが、その日は横に沙耶がいた。
まずはいつも通りに挨拶をする。
「えー、突然の話で僕も驚いていますが、沙耶さんのドナーが見つかり来週いっぱいでここを辞めて
ここで課長は言葉を止めて少しうつむき考えているようだった。
「沙耶さんは非常に優秀でゴル君の教育係などをお願いしていました。現在、彼女に代わる人材を人材課で募集をかけています」
――けっこん?
ゴルは首をひねる。
知らない言葉だ。
だが、周りの大人たちは誰もが下を向き何かを堪えていた。
仕事からアパートに帰り、園田さんと食事をする。
この時、お互いの仕事の話をする。
「あのね、園田さん」
「何?」
「園田さんは『けっこん』って知っている?」
その時、彼は少し迷い、そこから一言も話さずに早めにご飯を食べた。
ゴルも食べ終え、お茶で一服していると、ようやく、園田さんは口を開いた。
「ゴル。人間はね、いつも『戦争』という喧嘩をしている。昔、世界中を巻き込んだ戦争があった。俺の国でいう大東亜戦争、世界でいうのなら第二次大戦。その時、日本という小さな国に『原子爆弾』という特別な爆弾が二回落とされた」
ゴル・ゴロスは黙って聞いている。
「現世の人間たちは知らないが、『原子爆弾』は肉体だけではなく魂までも傷付ける。そのまま、転生すると未熟児や障害を持って生まれる。だから、その魂の欠損、欠けた部分を補うためのドナーが必要になる。二つの魂を合わせる、結ぶことで一つの魂になる……」
ゴルは黙って聞いている。
「でも、その時、お互いの記憶は消えてしまう」
その言葉にゴルは顔を上げた。
沙耶の笑顔を思い出した。
――ゴルちゃんって笑った顔が好きだよ
黄金の瞳から何かが流れ、記憶が消えた。
気が付いたら角部屋の春平とクトゥルフの住む部屋のドアを力の限り叩いていた。
何を言っていたのか?
それさえ、分からない。
ただ、自分の内面がどんどん滅茶苦茶になるのが分かった。
聞いていた春平は一言だけ言った。
「山に登るから俺に付き合え」
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