3章 戦争離婚

0 静かな宰相執務室(ヴィーニュ王国カンタン・クノー宰相視点)

 よる王宮殿おうきゅうでん終戦しゅうせん、とてもしずかだった。

 大理だいりせきゆか戦時せんじちゅう、「防火ぼうか対策たいさく」で、大理石の床にかれていた絨毯じゅうたんられていた。


 おかげで、あめは、王宮中の床がどろだらけになって、わか騎士きしはよくころんではがって、また転んでいた。


 嗚呼ああ。それだけはい。雨の日以外いがい問題もんだいだった。夜間やかん空襲くうしゅう警報けいほうりやまなかったからだ。

 そして、全国ぜんこく各地かくちの空襲情報がとどけられていた。もちろん、戦況せんきょう報告ほうこく逐一ちくいち

 それなのに、いま、また戦そうはじまった……いや、戦争がつづいているような錯覚さっかくこしそうだ。



 だが、ここは安全あんぜんだ。

 この、王宮の側面そくめんればわかる。

 ヒビ一つ無い、うつくしいまま。蝋燭ろうそくすこすすけたままの壁。

 ぐん開発かいはつした「絶対ぜったいれないまど」。


 王宮は空襲被害ひがい一切いっさい無かった。

 それだけの鉄壁てっぺき防御ぼうぎょいられた。



 貴族きぞく庶民しょみん一丸いちがんとなって、んだ、王族と王宮の死守ししゅ。王族たちは「戦争なんてこんなものか」と錯覚してしまったのだろう。

 戦地せんち慰問いもんもせず、ちっとも質素しっそにならなかった「王宮生活せいかつ」を満喫まんきつしていた。


 蝋燭のこのむ、「むかしながらの年寄としよれん中」は、火の心配しんぱいがない照明しょうめいわって、もう抗議こうぎしていた。

 まあ、ロマンチックなのだ。

 フワッツフワッと規則きそくらぐ、本物ほんものほのおが王宮の壁や窓、床をらしていた時代じだいを「っている」ことをはなにかけている。


 しかし、国王陛下陛下は「王宮ない国宝こくほうえることも無くなって安心あんしんした」と呑気のんきさけをがぶみしていた。

 高級こうきゅう酒は上位じょうい貴族でも王族でも配給はいきゅうせいとなって、ねん一度いちど建国祭けんこくさいでもふうは切られなかったのに。

 戦時中も国王陛下と国王陛下に可愛かわいがられていた王族のみは、酒くさかった。


 あと、この問題も抱えている。

 国王陛下の不貞ふてい問題もんだいは王宮のなやみのたねだ。

 兵士へいしつまを王宮にして、「謁見えっけん」としょうして……。

 酒をすすめて、わて、寝室しんしつれてこうとした。

 なん度も、侍従じじゅう近衛このえ騎士だん総出そうでで、めにはいった。

 おかげで、近衛騎士団がまもる、王宮のもん入退場にゅうたいじょうはよりきびしく管理かんりされている。

 とくに、兵士の妻を王宮の門をくぐらないように、手厚てあつ監視かんしした。


 そうしているあいだに、戦地から帰還きかんしたもと負傷ふしょう兵の社会しゃかい復帰ふっき促進そくしんされた。

 もちろん、王宮も門をひらかざるをなかった。

 出来できるだけ、「男性だんせいを」とこえげたが。

 いつのにか、じょ性がえ始めていたのを知ったときには、おどろいて、顔面がんめん蒼白そうはくになった。

 義肢ぎし生活をおくっているとはおもえないほど、一般いっぱん市民しみんけこんでいたからだ。

 手足てあしあごうしなったものたちが、素晴すばらしい、あの世界せかい最高さいこう傑作けっさくうたわれるパント義肢かん不思議ふしぎな義肢や義によって、王宮出仕しゅっしを始めたこともあったが。

 ある日をさかいに、国王陛下が「い出した」。


 国王陛下が王宮で女性をおそおうとして、ケガをさせた事件じけんが起きた。

 抵抗ていこうする女性を無理むりに、大理石の床にたおしたさい、女性の義肢がはずれたのだ。


 位貴族の出自しゅつじではあり、おやえば「国王陛下の側室そくしつ」といてよろこばれただろう。

 しかし。彼女かのじょ両親りょうしんは、二人ふたりとも優秀ゆうしゅうで、戦死せんし

 けつけた騎士団にも義肢の着脱ちゃくだつられて、えられず泣きさけんでいた。


 もちろん、終戦しゅうせん末期まっきではあったが。

 国王陛下の醜聞スキャンダル新聞しんぶんとおしてひろまった。

 軍の検閲けんえつも、「軍の士気しきがったところで、終戦交渉こうしょう中だから、問題もんだい無し」と「国民こくみんのガスき」を優先ゆうせんさせた。

 彼女は終戦後すぐに、ヴィーニュ王国をしゅっ国したとつたいている。


 王妃おうひ陛下は、あの醜聞スキャンダル以降いこう、王宮ではたらすべての女性を連れて王宮に隣接りんせつする離宮りきゅううつられた。

 もちろん、おさな王太子おうたいしれて。


 国王陛下は反省はんせいせず、さらに、夜遊よあそびを。

 今夜こんやごとたのしまれている。


 このような愚王ぐおうつかえていようとも。

 宰相さいしょうとして、愚王にわって、国務こくむ遂行すいこうせねばならない。

 直接ちょくせつうことが出来ないヴィーニュ少年兵しょうねんへいを、間接かんせつてきにでも支援しえんしなければならないのだ。

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