1 悲しい報せ(ヴィーニュ王国カンタン・クノー宰相視点)

 そんなあるよるのことだった。

 クレメン統領とうりょうこくわたったひゃく六十ろくじゅうめい少年しょうねんへいたちの近況きんきょう報告ほうこくとどいた。

 夜中よなかだ。

 それはつまり、夜けをって、公務こうむ一環いっかんとして、「報告をく」以上いじょうの「配慮はいりょ」が必要ひつようになるとうことだ。

 緊急きんきゅう事態じたい意味いみする。


 あおざめたかおと、それでも足音あしおとしてやってた「緊張きんちょう」。

 完璧かんぺきであるはずの密使みっしわたし執務しつむづくえってた。


さいしょうかっ、申し上げます。

 少年兵がくなりました」

戦死せんし」とは言わなかった。

 言ってやればいのに。

 ヴィーニュ王国おうこく・クレメン統領国の、両国りょうこくかんちょう高度こうど政治的せいじてき配慮だ。

戦闘せんとう地域ちいき跡地あとちなにかあったが、それは戦死にはならない」というニュアンスをこめている。


 ヴィーニュ少年兵からはつ死者ししゃた。

 クレメン統領国大使館たいしかんからの使者よりも、いちはやく「密使」からの機密きみつ情報じょうほうとしてかえられた。


 クレメン統領国なん魔術まじゅつ遺産いさん爆裂ばくれつし、人数にんずう不明ふめいだが死傷ししょうした。

 つまりは、少年兵の死者すうはたったいち名とはかぎらない。


 ……最悪さいあくだ。

戦後せんごはつの」、国王こくおう陛下へいか直々じきじき勲章くんしょう授与じゅよしきひかえているというのに。

 ぐん功労こうろう者は現役げんえきの軍じんから、退役たいえきした軍人まで審査しんさ対象たいしょうだった。

 問題もんだいこした。した。かねのトラブル。スパイの裏切うらぎり。そういう悪人あくにんえらばれない。

 少年兵が「の戦後処理しょり」だとすれば、勲章授与式は「せいの戦後処理」。

 勲章ひとつで、再就職さいしゅうしょくちがう。

 だからといって、勲章のちをげないために、勲章授与を乱発らんぱつすることも出来できない。


 そのような戦後状況じょうきょうとどいてしまった。

 最悪さいあくらせだ。

 しかし、なげいてはいられない。

 はやく、そして正確せいかくな「死傷者数」などの情報収集しゅうしゅう必要ひつようになる。



 夜が明けても、太陽たいようが上がりっても、そして、しずんでも、情報が錯綜さくそうした。

 そのうちに、ミルデュー新聞しんぶん朝刊ちょうかん一面いちめんで「ヴィーニュ少年兵全滅ぜんめつ」なんて報をばした。

 かわいそうに。


 そして、その記事きじには風刺ふうし掲載けいさいされていた。

 かわいらしいおんなではあるが、足元あしもとひつぎあしっかけて、ころんでいる瞬間しゅんかんの、「間抜まぬけな切りり」だった。

 少年兵の家族かぞくからもう抗議こうぎるだろう。

 不快ふかいだ。

 不快ぎる。


 またたに、ぜん国民こくみんが「もしかしたら、自分じぶん親族しんぞくかもしれない」とか「友人ゆうじんの子かもしれない」とかさわぎ出す。

 ヴィーニュ少年兵は公平こうへいに、貴族きぞくや、しょ民でも富豪ふごうの子どもも選抜せんばつされた。

危険きけんだが死なせはしない」と国王の演説えんぜつはヴィーニュ少年兵がクレメン統領国へにゅう国が完了かんりょうしたさいに、おこなわれたが。

 それから、ヴィーニュ王国の根幹こんかんである「王せい支持しじりつ」がきゅう降下こうかした。

 何故なぜならば、「戦争にてなかった国王が王じょ国際こくさい条約じょうやく調印ちょういんさせた。そして、はん魔術まじゅつ遺産いさん条約じょうやくかんする演説えんぜつ一切いっさい信用しんようならない」と、ミルデュー新聞の社説しゃせつによって切りてられたからだ。

 だから、兵を拒否きょひしなかった少年兵にも「風刺攻撃こうげき」をおこなった。


 少年兵は都合つごうよく、正規せいき兵の大人おとなとしてではなく、正規兵として子どものようにあつかわれる。

 反対はんたいに、ミルデュー新聞では、練度れんどりない未熟みじゅくな大人の兵士とおなじく、馬鹿ばかにされる対象たいしょうとなってしまった。

 ヴィーニュ王国も、ほかの子どもたちと同じく平等びょうどう教育きょういく機会きかいうばって、大人の兵士のように国から戦争へい出した。


 軍の、新聞への検閲けんえつも、しゅう戦後は行われていない。

 乱暴らんぼうさではませられない。暴力ぼうりょく的な言葉ことばまで、新聞にはせられている。

 検閲をやり過ぎた「ツケ」を、いま、国は支払しはらわされているのだ。

 言葉の暴走ぼうそうだ。

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