第13話
しばらくニュース番組を視聴していると物置部屋に行っていたミリアとハイルの二人が戻って来た。
「ママ殿! せっかく杖を見つけたのに壊れているではないか!」
戻ってくるなりミリアが玩具の杖をぶんぶんと振り回して未来に泣きついている。
「あらあら、電池が切れてるのね、ちょっと待っててちょうだい」
「直せるのか!?」
ミリアが期待に目を輝かせて待っていると、動力源らしき物を持ってきた未来がそれを玩具に取り付ける。
すると杖の一部がピカピカと点滅して音楽が鳴り響いた。
『変身! 魔法少女プリティーハート!!』
『スプラッシュ・ハーート!』
音楽の後には先ほど見ていたアニメの主人公が使っていた必殺技のような台詞が流れる。
「ぬわーっ! 凄いのじゃ凄いのじゃ!!」
玩具のギミックに興奮して杖を振り回すミリアだったが、次第にその表情が曇っていく。
「何故じゃ! ハートが飛び出ないではないか!!」
「ミリア様、少々お借りしてもよろしいでしょうか?」
癇癪を起こすミリアを見かねたハイルが声を掛ける。
杖を没収されるかと勘違いしたミリアは訝しげな視線をハイルに向けるが、観念したように渋々杖を手渡した。
杖を受け取ったハイルはその玩具の構造を観察した後、星術を発動させてから再びミリアに杖を返す。
受け取ったその杖を再びミリアが振ると、先ほどのアニメの少女が使っていた魔法のようなハート型のエフェクトが杖から放たれる。
「きゃあっ!」
俺の向かいに座っていた名雪が飛んできたハートのエフェクトに驚いたのか悲鳴を上げた。
「人や物に当たっても害はありませんのでご安心ください」
ハイルの言葉に名雪が安心したように椅子に座り直す。ミリアが満足して遊び始めたのを確認してからハイルも戻ってきた。
「手間を掛けさせたな。だが、あまり甘やかしてやる必要はないぞ」
「宇宙船を失い先が見えない状況の中、見知らぬ惑星での生活です。ミリア様の精神に掛かる負担も無視できません。ですから少しでもストレスの無いよう生活してもらうのがベストかと愚考します」
ハイルのその言葉に俺は自分の考えの甘さを痛感した。この惑星に来てからは常に最大限の警戒は怠らなかった。例えどんなに強大な敵が現れようとも自分たちの身を守れる自身はある。
しかしハイルの言うようにミリアの精神状態にまでは気が回っていなかった。双子とはいえミリアは明らかに年齢不相応の精神の持ち主だ。
何に対しても甘やかすべきではないだろうが、それでも最低限の配慮はしておくべきだとハイルの考えに同意する。
「お前の言うとおりだ。すまんな、妹のために」
「滅相もございません、当然のことをしたまでです」
恭しく一礼するハイルを目に名雪が興味深そうな顔をしてこちらを見ていた。
「二人はどういった関係性なんですか?」
名雪の疑問に対して即答できずに考えてしまう。俺としては対等な関係だと思っているが、客観的に見れば上司と部下という関係が相応しいのかもしれない。
「アルフリード様は私が忠誠を誓う絶対的な存在です」
答えに迷っていると、隣にいたハイルが胸に手を当てて恭しく頭を下げてきた。
「お前はいつも大袈裟過ぎる、ここは仲間とでも言えばいいだろ」
「なんだか王様と騎士みたいですね」
「それは素晴らしい例えかと」
唐突に名雪がそう口にすると、ハイルも満更ではない様子で笑みを浮かべていた。名雪にそんな意図はないだろうが、俺としてはその例えは不名誉なものだ。
「おい、俺のどこにそんな要素があるんだ。あんな権力ばかりに固執する愚物と一緒にするな」
過去にデストロイヤー軍の力を我が物にしようと企んだ惑星の王が接触してくることは多かった。中には力尽くで従わせようとしてくる馬鹿もいたので、その度に叩き潰してきた。
「そこらの有象無象などとは比較になりません。アルフリード様ならこの宇宙を統べる王となられるでしょう」
「なぬっ、王になるじゃと!? 妾を差し置いて王になろうなどとは不敬じゃぞ!」
ハイルが余計なことを口にしたことで、一人玩具で遊んでいた地獄耳のミリアがくってかかってきた。
「……ったく、お前が変なこと言うから面倒なのが来たじゃないか」
「妾が一番えらいんじゃぞ! くらえ『スプラッシュ・ハーーート!!』」
ハイルが星術を掛けた玩具をこちらにブンブンと振り回してハートを飛ばしてくる。何個も立て続けに顔にハートが飛んでくれば鬱陶しくてたまらない。
「わかったわかった、お前が王でいい」
虫を払うように飛んでくるハートを振り払いながらミリアにそう言うと、こいつは更にうざ絡みをしてきた。
「生意気な家臣には罰を与えねば! 必殺、連続『スプラッシュ・ハーーート!!』」
先程までとは比べのにならない数のハートを飛ばしてくる阿呆を前に、流石に我慢の限界がきた。ハイルは精神面の負担を懸念していたが、それは思い違いだったようだ。
筋金入りの阿呆を気にするのは無駄だった。端から何も考えてなどいないのだから。
「……おい、今すぐ止めろ。それとも、その杖を没収してやろうか? 何なら破壊してもいいんだぞ」
やり過ぎたと察したミリアは杖を取られまいと両手で抱くように守りながら、食卓で何やら資料を並べて作業をしている未来の元へと逃げ込んでいった。
「うわわわわ! ママ殿、鬼いちゃんがいじめるのじゃ!!」
ミリアは俺から姿が見えないように壁にする形で未来に抱きついていた。作業の邪魔をさせてしまって申し訳なかったが、未来も笑みを浮かべてミリアを慰めているようで、ひとまず急を要する案件ではなかったようなのでひとまず放置しておく。
邪魔がいなくなったことで再びテレビのニュースに意識を向けると、ちょうど話題が変わるタイミングだったらしく、画面が切り替わった。
そして、その内容を見て俺とハイルは驚愕のあまりテレビに釘付けとなる。
『こちらをご覧ください。これはNASAが撮影に成功した月面の写真になります。そしてこの画像を拡大すると、なんと宇宙船らしきものが写っていることがわかります! もしかしたら宇宙人の存在を証明する世紀の大発見になるかもしれません!!』
「……ハイル、あれは」
「はい、我々の宇宙船で間違いないかと」
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