第12話

 翌日、デストロイヤー軍は夜間に襲撃されるようなこともなく、平和に朝を迎えることができた。


「起きてください、アルフリード様」

「……朝か、おはようハイル」

「おはようございます。起きて早々に申し訳ないのですが、ミリア様の姿が見当たりません」


 ハイルに起こされてから隣を確認すると確かにそこにいるはずのミリアの姿がなかった。


 先に起きて一人で暇だからと地球人の元にでも向かったのだろう。


 余談だが昨夜の内にハイルが家を囲むように結界を張っていたため、ミリアが一人で外に出ることは不可能だった。


 仮に結界が破られていたら焦っていた状況だが、そういうわけではないので危険が迫るような事態にはならないだろう。


 かと言ってミリアが地球人に迷惑を掛けることは容易に想像がついてしまうのですぐに後を追うことにする。


「行くぞ」

「はっ!」


 二階から階段を降りて昨日食事をした部屋へと向かって歩いていく。


「あら、おはよう。ミリアちゃんなら名雪とテレビを見てるわよ」


 部屋に入るとすぐに未来が出迎えてくれた。昨夜と変わらず友好的な態度で笑みを浮かべた彼女は、長方形の機械の前で座るミリアに視線を向けた。


「重ね重ね妹が迷惑を掛けたようで申し訳ない」

「迷惑だなんてそんなことないわよ。今から朝食作るからミリアちゃんとテレビでも観て待っててちょうだい」

「食料の提供感謝する」


 俺が頭を下げるとハイルも続いて頭を下げた。


 未来の指示に従ってテレビなる物に夢中になっているミリアの元へと向かう。

 こちらに気づいた名雪は横長の座椅子から起き上がり、もう一つの座椅子へと移動した。その気配りに感謝しながら、俺たちはミリアを挟んで中央の座席に座った。


 ミリアが夢中になっているテレビの映像は非常に興味深い物だった。


「名雪殿……この映像には星術のような事象が映し出されているが、これはどういうことだ?」

「えっと、名雪で良いですよアルフさん。これはアニメって言って空想の出来事を絵に描いて動かしているんです」


 絵を動かしているというのは理解できた。少し集中して見れば一枚一枚の絵がコマ送りになっているのがわかる。


 しかし重要なのはそこではなく、何故星術を知らない人間が空想とはいえこのような星術と同様の事象を精確に思い浮かべることができるのか。その点が気になったのだ。


「魔法というものは一般人でも使用できるのだろうか?」

「いやいや、あくまでアニメの中だけの話ってだけで、特別な力なんて誰も持ってないですよ」


 空想の話とはいえこのアニメなる物は非常に興味深い。

 宇宙にもこのテレビのように映像を映し出す装置は存在する。娯楽として役者が星術を使用して派手な戦闘を繰り広げる物語は宇宙全土でも人気のコンテンツだ。


 しかしこのアニメのように絵を動かして映像にするというものは聞いたことがない。まぁ、星術を使えば現実で派手なアクションができるためその必要性がないとも言えるのだが。


 今観ているアニメは派手な衣装を着た少女が星術のような技を駆使して人外の敵と戦うというもの。内容はあまり理解できないが映像の派手さには目を見張る物がある。


 現にミリアは先ほどから声を出して主人公の少女を応援するほどにのめり込んでいる始末だ。


「一つお聞きしたいのですが、この惑星では女性が戦場に出るのが当たり前なのですか?」


 アニメを観ていたハイルが名雪に対して質問した。


「女性の兵士もいますが大半は男性の兵士です。これは小さな女の子向けのアニメなので魔法少女が主人公なんですよ」

「なるほど、ありがとうございます」


 ハイルが納得し、うやうやしく頭を下げると、それに戸惑うように名雪も頭を下げた。

 未来とは違ってまだ信頼を得ることは叶わないが、焦ったところで仕方がないことだ。今後の行動で示していく他ないだろう。


 魔法少女のアニメが終わると食事の準備を終えた未来が声を掛けてきたので昨夜と同じように食卓につく。


 今日の料理は昨日の白い穀物に味を付けたものを卵で包むという料理だった。見た目も食欲をそそるものでカレーほどのインパクトもなく自然と食すことができた。


 味は言うまでもなく絶品。未来はこの惑星でも屈指の料理人だと思ったのだが、このレベルの料理は一般的なものらしく、地球の料理文化の高さは驚嘆に値する。


「決めたぞ、妾は魔法少女になるのじゃ!」


 朝食を終えるや否やミリアが突拍子もないことを言い始める。先ほどのアニメに影響されたのは誰から見ても明らかだった。


「あら、そしたら昨日片付けた荷物の中に魔法少女の玩具が入っていたはずよ。さっき見たシリーズよりは古いんだけど……」

「なんじゃと!? それは是が非でも見つけねばならぬ!!」


 そう叫ぶなりミリアは荷物を物色しに走り去っていた。


「私が」


 後を追おうと俺が腰を上げようとするとそれを制止するようにハイルが立ち上がった。ミリア一人に任せれば確実に散らかすのは目に見えている。


 ハイルが行ってくれるのなら俺が向かう必要はないだろう。


「このテレビはアニメ以外にも番組はあるのか?」

「はい、歌番組とかバラエティー、ニュース番組もあります」


 名雪に教えてもらってリモコンでチャンネルを切り替えてニュース番組を見てみると、どうやら軍事放送のような情報を提供する番組のようだった。


 内容は正確に理解できないが情報を収集する上ではこの上なく有用なのは明らか。名雪に頼んでしばらく視聴させてもらうことにした。

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